仇敵
矢継ぎ早に繰り返される警報や報告を前に、二人のドクターは苛立っていた。
「つーかなんでバレてんの! まだあーしの玩具完成してないんですけど!」
ピンク髪を振り乱しながら、ドクター・ミリはばんばんとキーボードを叩く。
「あ、《アウター》の投入、隔壁のへ、閉鎖で時間は稼げる、けど。逆に、言うと、それ、それしか出来ないっていうか」
細身な少年、ドクター・オドはたどたどしく喋っているが、手元は反比例するかのようにキーボードを操作していた。
二騎のレリクスによるプラトーへの強襲、恐れていた事態の一つだ。現行のプラトーに、レリクスを止める手段はない。
「あー、守る側になるときっついのはマジ勉強になるわー。ねえオド、一般人見せしめに殺そう。うまくすれば帰ってくれるかもじゃない?」
「い、良いかも。そうすればて、鉄槌の射出まで、ま、守れる」
ミリはうししと笑みを浮かべ、オドはにへへと笑う。
「ま、本拠地攻めるのはルール違反だし? ワンペナって事で許してくれるっしょ! オド、鉄槌制御よろ! あーしが予備機で子ども溶かす!」
機嫌を直し、意気揚々とキーボードを操作し始めたミリだったが、すぐにその手は止まった。
ミリだけではない。滑らかに動いていたオドの手もぴたりと止まり、その目が揺れる。
「ねえオド、これ」
「フェイスだッ!」
オドは叫び、目を見開いて操作を再開する。先程よりも速く、獰猛と言い替えてもいいタイピングで見えない敵との戦闘を開始した。
一瞬気圧されたドクター・ミリも、歯を食い縛りサポートに入る。
「理論防壁食い破られてる、オド!」
「今五百は敷いた! 何で追い付かれるんだ!」
オドの唸り声とキーボードを叩く音が入り交じる。
攻防は数瞬、それだけで全てが終わった。
「くそ、フェイス! くそ、なんで……!」
オドは両手で頭を抱えて全身を揺する。
「相変わらず、化け物じみてんだねあの優男は」
ミリが吐き捨てるように言う。
全身の震えを抑え込み、オドが操作を再開する。
「鉄槌の、せ、制御だけは。死守した。でも、それ以外は」
「全部唾付けられたって感じ?」
ミリの問いにオドは頷いて返す。
「ま、しょうがないよね。ノパソで鉄槌いける?」
「い、いける」
「じゃあそれ持って逃げちゃおう! 生身でレリクスと張り合うとかアホじゃん?」
こくこくとオドは頷く。
早々に施設を放棄し、二人のドクターは足早に立ち去った。
最低限のパーツで構成された発射台に、簡素な作りの小型ロケット……交差点の中央に設置されたそれは、ドクター・フェイスが用意した宇宙への片道切符だ。
片羽唯はロケットの中を覗き込む。レリクス一騎が入る事を想定されており、人の身で眺めている分にはそれなりに快適そうではあった。
ロケットと発射台は二基ある。一基は自分達が使うが、もう一基は。
唯はじろともう一人を睨め付ける。視線の先には、件のロケットにもたれ掛かるようにして佇む少女が……黒崎芽依がいた。
芽依も唯をじろと睨むが、何も言わずに視線を切ると目を閉じる。
「概要を説明するわ。繰り返しになるけど頭に入れておいて」
唯は声の方向を振り返る。銀色少女、リンが空を指差す。
「目標は遙か上空、宇宙空間にある人工衛星よ」
「鉄槌。地球に杭を打ち込むやばい奴。でしょ?」
リンは頷いて肯定を返し、言葉を続ける。
「言ってしまえば、このロケットで強引に接近して衛星を叩き落とすだけ。問題は三つ」
リンが指を一本立てる。
「鉄槌に反撃手段はないわ。到達さえすれば破壊出来る。でも、到達する為には直進する必要がある。ルートは鉄槌の射線上、必ず一回は撃たれるわ」
リンの指が二本に増える。
「そしてその一回を撃った直後、鉄槌は高度を上げる。射撃時に高度を下げ、射出し高度を上げる。そういうロジックになっているから。つまり」
「もたもたしていたら鉄槌に攻撃が出来なくなる、って認識で合ってる?」
リンは満足げに頷き、指を三本立てる。
「首尾良く破壊したら、今度は地球に帰還しなくちゃいけない。それについての助言や装備は、ドクターからは聞いてないわ」
「アドリブで何とかしろって事?」
「臨機応変が求められるのはそれだけじゃないわ。そもそも、レリクスは宇宙で活動するように設計されていない。生命活動を維持しつつ攻撃を成功させ、無事に帰還する。これらの演算や諸機能は、全てアドリブで形成、使用していく事になるわ」
唯は苦笑するも、無理だと笑い飛ばすつもりはなかった。
「まあ、やるだけやってみるよ」
「サポートは任せて。ドクターの言葉に賛同するようで癪だけど、貴方なら出来るわ」
そう言って、リンは顔をしかめながら遠い目をする。
「無理や無茶は貴方の専売特許だものね」
唯は一つしかない肩を竦める。
「褒めてる?」
「呆れてるの」
互いに笑みを返す。同時に、耳に仕込んだ通信機器が着信を示すコール音を鳴らした。
『やあ。陽動は順調、僕の方も挨拶が終わった。実験開始といこうか!』
ドクター・フェイスの楽しげな声に、唯と芽依は顔をしかめ、リンは溜息を吐いた。
「作戦開始と言って欲しいのだけど」
『そうかい? じゃあ作戦開始だ!』
唯は自在に動く左義手で右義手型アームドレイターを掴み、それを右肩に装着した。
『stand-by ready』
唯は慣れた手付きレリクト・シェルを右義手型アームドレイターに押し込む。フォアエンドをスライドし、隣にいるリンに拳を突き出す。
リンの小さな手が同じように拳を返し、それらが触れた瞬間に光となってアームドレイターと一体となる。
『ArchiRelics......《blank》』
唯は芽依の方を見る。芽依は右手に小さなリボルバー拳銃を握っており、それを自身の胸に、銃口を思わせる穿孔に宛がっていた。
「黒崎芽依、共闘はいつまでだ?」
唯が芽依に問う。芽依は唯を睨め付け、しかしそれでも大胆不敵に笑みを浮かべた。
「鉄槌を破壊するまでだ、片羽唯」
短いやり取りを済ませ、互いに正面を見据える。
唯は右義手の拳を左義手の掌に叩き付け、芽依は自身の心臓へと発砲する。
「変身!」
「装填!」
二人は始動キーを叫ぶ。一方は日常を守る為の非日常へと変わる為に、一方は憎悪と呪いをその身に充填するように。
『Turned......BrandnewDeed......』
『PhaseLoad......RagingCurse......』
唯の合わせた両義手を中心に、灰結晶が咲き乱れる。
芽依の胸と背中から溢れた黒い靄が、鴉の羽となって少女を覆い隠す。
灰結晶は砕け、黒の羽はそこかしこに散らばる。
『......《BranDed》Relics』
唯とリンは《ブランデッド》レリクスとなり、真っ赤なツインアイを瞬かせる。
『......《CrowRage》Relics』
芽依は《クロウレイジ》レリクスとなり、真っ赤なツインアイが煌々と輝く。
二騎は僅かに視線を絡めるも、それ以上は不要と言わんばかりにどちらからともなく視線を切る。
『さて、ここからが面白い所だぞ』
通信越しに、ドクター・フェイスだけがやはり楽しそうにしていた。




