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ブランクアームズ ‐隻創の鎧‐  作者: 秋久 麻衣
第三話 -装甲と剛槍-
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進化の道程


 ある程度髪が乾いたのか、リンはパーカーを羽織ってモニターを睨み、キーボードを叩いていた。キーボードの横には、安いウイスキーと炭酸水を合わせたお手製ハイボールが置いてある。時折そのグラスを掴み、大人顔負けの表情で琥珀色の液体を喉に流し込んでいた。

 中々にアウトな光景を横目に見ながら、片羽唯はリンと共にモニターを見据える。

「ドクターから現状のままではよくない、強くなろうとか言われたんでしょ。一応、簡単に説明しておくわ」

 リンはそう切り出すと、一枚の画像をモニターに映す。成人男性だろうか。身体の所々は、鍛えたというには不自然な程がっちりしている。

「これがアロガント・ステージ1。レリクトを体内に取り込み、ドクターの言葉を借りるなら……生物として進化が始まった段階ね」

 まだ頭がある。しかし言われてみれば強靱なのは四肢のみで、他はさほど変化していない。何よりも、首が短いのだ。不自然さの正体はこれだろう。

「人の形が残ってる分、何だか不気味に見えるね」

 思ったままの事を唯は口にする。リンはくすりと笑みを浮かべ、唯の胸をとんと小突いた。

「アロガントに噛まれた貴方も、一歩間違えばこうなっていたのよ。その場合、腕は生えてくるけど」

「頭なくなるんでしょ?」

「少し違うわね。胸部に格納されるわ」

 唯はうへえと舌を出す。どちらにせよ御免だ。

「このステージ1の段階では、朧気ながらに意識があるわ。やり取りは殆ど成立しないようね。肉体的な強化も常人を僅かに超えるのみ。基本的に、ステージ1のアロガントは見つからないように潜伏するわ。レリクト反応も追えない」

 画像が切り替わる。この時点で、既に頭はなかった。

「潜伏中にアロガント・ステージ2に移行するわ。見ての通り、頭部をコアとして胸部奥に格納するわ。四肢はより強靱になる。この辺りから人を超えるわね。日の光を嫌うのか、夜行性とも捉えられる行動をするわ」

 画像が更に切り替わる。見慣れたアロガントが映っていた。

「ステージ2も潜伏を続け、アロガント・ステージ3に移行。夜行性、だった筈なんだけど。もう関係なく動き回っているわね。身体も大きくなってるし、胸部の口腔部も発達してる。まさに化け物って感じね」

 また画像が切り替わった。赤熱した両腕で、銃を持った男をホットサンドメーカーしているアロガントが映っている。先程までと違い、随分と躍動感のある画像だ。

 その男には悪いが、気持ちよく見られるような画像ではない。口元を押さえつつ、抗議の目を向けるもリンは全く気にしていない。

「ステージ3の個体が何らかの物体を捕食すると、その特性を一部再現する。アロガント・ステージ4、もう何度か戦っている相手ね。何よ、気に障ること言った?」

「いや、いきなり気持ち悪い画像を出してくるから」

「ステージ4は危険な個体なの。これぐらいしか画像がないのよ。このケースも結局、実験ブースごと吹き飛ばして処理したらしいし」

 せめて出す前に警告ぐらいくれとか、何度も見てるからこいつは画像なしでも良いじゃないかとか、色々思う事はあったものの唯は口を噤む。

「ここで覚えていて欲しいのは、アロガントは勝手にステージを進めているってこと。研究者達……プラトーの連中は、こんな化け物を作ろうとして実験している訳じゃない。私達の知らない内に、ステージ5の個体が出て来てもおかしくないって事よ」

「だから、進化しているってドクターは言ってたの?」

「レリクトは対象を強化する。私はそう言ったけど、ドクターは一貫して進化と言い続けているわね。だから、今は勝てるけど次は分からない。なので貴方を改造して、戦力の底上げをしようとドクターは考えてるのね」

 完全にロボットとなった自分の姿を想像してみるも、陳腐な頭では教育番組に出て来く面白ロボットしか浮かんでこない。唯は苦笑しつつ、改造は御免だと首を横に振った。

「ドクターは本人が言っている通り、善意でそれを提案しているわ。二人揃って死ぬぐらいなら、貴方を強化して生存率を上げた方がいい。中々に困った人でしょ?」

 こくこくと唯は頷く。

「ドクターに対しては、きっぱりとノーを言えるようになった方がいいわね。私も結局、彼の持ち出した備品の一つだから。いざって時、貴方は貴方の力で自分を守るの」

 アロガントの画像を消しながら、リンはそう言った。その声から、どうにも悲壮な色が消えなくて。以前、リンとドクターが話していた内容を思い出した。

「……解剖。リン、君はドクターに」

 モニターが警告音を発し、勝手にウインドウを形成する。そこには簡素な地図が表示されており、幾つかの点が明滅していた。

 リンの顔色が変わり、グラスに入っていた酒を一気に飲み干す。

「唯、レリクト反応よ。準備お願い」

 有無を言わさぬ口調に、唯は頷いてソファへ向かう。そこに置いてある鞄には右腕……アームドレイターと、それを起動するためのレリクト・シェルがある。

 ベルトを腰に巻き、レリクト・シェルをホルダーに入れていく。左腕だけでも、随分とスムーズに動くようになった。唯は鞄を掴み左肩に掛けると、ちらとリンの方を見る。

 リンはパーカーとショーツを脱ぎ、いつもの黒いボディスーツを身に着けた。黒い塊にしか見えなかったボディスーツが、あっと言う間に彼女の肌に吸い付いて縁取る。脱ぎ捨てたパーカーを蹴り上げるようにして掴むと、ボディスーツの上から羽織った。

「行きましょう。ステージ3の内に会敵すれば、前回と同じように片が付くわ」

「勝手に進化してないと良いんだけど」

 唯とリンは、二人揃って部屋を出て行った。

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