ダンスと遊び
完結させた途端、妹から姪のダンス動画が送られて来たり、ビデオ通話で一時間話したりでネタを提供されてしまったため、せっかくだからまとめて書いておきます。
第一話・ダンス
土曜の朝、ちょうど飯を食い終わったタイミングで美樹から動画が送られて来た。
「ほう……」
『あーもー、ってーほーし』
『ちゃったーねがおーもー』
友樹と友美が熱心に踊っておる。なんの踊りか皆目見当もつかんが、幼子にしては二人とも良い動きなのではなかろうか?
友樹は舌っ足らずな割に動きにキレがあるな。サムライスターのポーズや殺陣をいつも真似しているからかもしれん。だが、ところどころに照れが見受けられる。
一方、友美には全く躊躇が無い。少々大雑把ではあるが、ダイナミックで見る者の心を鷲掴みにする。
「二人とも上手だな。だが、これはなんの踊りだ……と」
送信。
「なになに? なんか今、友樹と友美の声がしたけどZINEでも来た?」
「ZINEには違いないが動画だ」
友達と遊びに行くと言って支度していた歩美が目敏く、いや耳聡く聴きつけ駆け寄って来た。洒落た格好しおってハイカラな娘め。良く似合っているぞ。
「デートか?」
「さおちゃんと美術館に行くだけだよ」
「美術館?」
「さおちゃん、アートとか好きだからさ」
「ほう」
そうだったのか、では今度遊びに来たら川柳に興味が無いか訊いてみよう。
「それよりどんな動画? 見せて」
「うむ、これだ」
スマホの画面を歩美に向け、再び動画を再生する。
「かっ、可愛い〜!」
「そうだな、実に可愛い。だがそれだけか?」
「えっ?」
「歩美よ……将来、教育者になるかもしれんお前がその体たらくでどうする? どれだけ友美と友樹が可愛かろうと、ただ『可愛い』で終わらせてしまってはこの二人の情熱的な踊りに対し、礼を失しているのではないか?」
「はっ!?」
歩美の背後に稲妻が走った。
「そ、そうか……教師になるとしたら、どんな時でも冷静かつ正当に子供達の行動を評価しなければならないんだ……」
「相変わらず年齢不相応な理解力だが、その通りだ。さあ、では改めてこの動画を見るがいい」
俺はもう一度歩美に動画を見せた。歩美は一度どころか二度三度と繰り返し短いそれを再生して食い入るように見つめ、やがて小さく頭を振る。
「駄目だ……二人ともとてつもなく可愛いけど、振り付けも歌詞も間違っている」
「何? お前、これがなんの踊りかわかるのか?」
「何言ってんのさ父さん、コンビニのCMでよく流れてるじゃない? 反復横飛びダンスだよ」
「知らん」
なんだその奇っ怪な呼び名は。
「だからー、こうして」
俺に思い出させるためだろう、歩美はその場で踊り始めた。
同時に美樹から先程の質問に対する返信が届く。
『MagiUっていう魔女っ子風アイドルグループの“反復横飛びダンス”よ』
本当にそう呼ばれているのか……たしかに歩美の踊りはそれらしく見える。無論プロが踊る本物には及ばないのだろうが、なかなかの完成度と見た。友美と友樹の動きはこれに比べるとやはり未熟である。果てしなく可愛いが。
「あれ? ここはこうだったかな? なんか違うな、えっと……」
歩美は再現率を高めることに夢中になっていて本来の目的を忘れつつあるようだ。無言でカメラを向ける俺。
「あ、そうだ、こっちからこうだった。それで──なんで撮ってんのさ!?」
「撮らざるを得なかった」
半ば無意識である。
許せ歩美、俺が間違っていた。人は時に、目の前に可愛いものがいると思考を放棄してしまうようだ。
「消せ! 消して! 間違っても友美達に見せないでよ!?」
飛びかかって来る歩美からスマホを守りつつ思う。
(うちの娘も可愛い)
手を伸ばす 我が子の声に 頬緩む
「安心しろ、麻由美にしか見せん」
「それもだめ!」
第二話・遊び
「むう……なんということだ、しばらく直に会えんかもしれんな」
テレビニュースを見ながら唸る。会社を辞める前の年に猛威を奮ったあの伝染病が再び発生したのだ。しかも、よりにもよって美樹達の暮らしている地域で。
あの時の教訓を忘れていなかったらしく、政府は国内での一号患者が発見されると同時に地域全体を封鎖した。患者数がゼロになるまで継続するらしい。
「前のワクチンが効かないんじゃしかたないですね」
「そうだな……早々に終息してくれるといいが」
俺がそう願ってから一ヶ月後のこと。一時期かなりの数になった患者数は順調に減少を続け、残るは一人。その人物も快方に向かっているため、そろそろ封鎖が解除されるのではと噂され始めた。
そんな頃、美樹からZINEでビデオ通話が来た。応答すると美樹と友美と友樹、友也以外の全員が画面の向こうに映し出される。
『ハロー、兄さん、麻由美ちゃん』
「うむ、元気そうだな」
「安心したよ」
『そうね、長かったけど、やっとこさ終わりそうだわ』
「だが、まだ気は緩めるなよ。勝負は終わってみるまでわからんものだぞ」
『うん、だから日曜なのに今日も家の中』
むう、友美と友樹にとっては辛かろうな。などと思っていると猫の声がした。
『にゃー』
「……」
『あ、おじちゃんだ、にゃー』
「友美ちゃん?」
何故か猫の鳴き真似をしつつ画面を覗き込む友美。その上、膝の上でゴロゴロし始めた娘を嘆息しつつ撫でる美樹。
『最近この子、猫ごっこがお気に入りなのよ』
「何があった?」
『出かけられないでしょ? 暇潰しに色んな映画見せてたら猫が主役のやつに影響されて、それ以来こうよ』
「なるほど」
納得しつつも苦笑する麻由美。姪がいきなり猫になったことで俺も少々戸惑う。
『おじちゃん、にゃあ』
「う、うむ?」
『おじちゃんも、にゃあして』
「なんだと?」
『にゃー。やって』
「にゃ、にゃあ」
渋々言うと案の定、隣で麻由美が吹き出した。お前、無事で済むと思うなよ。
「友美よ、麻由美も猫になりたいそうだ」
「ええっ!?」
「今度会ったら猫真似の極意を教えてやってくれ」
『わかったにゃー』
友美は頷き、美樹の膝の上で真の猫のごとくでろーんと伸びた。ううむ、大和撫子への道はまだまだ険しいな……。
「センパイ、やってくれたッスね……」
「安心せよ。次に合う頃には飽きているだろう……」
友美に聞こえないよう小声で囁き合う。もし飽きていなかったら、その時はおとなしく猫になるがいい。それはそれで堪能させてもらう。
……その場合、俺もまた猫真似をさせられるだろうな。
『ママ、ぱちんしよ』
「ん?」
友樹が美樹の後ろへ回り込んだ。手に持ってるのは……ヘアゴムか?
『んしょ、んしょ』
友樹は美樹の長い髪を掴み、いじり始めた。美樹は諦観した面でされるがまま。
『こっちは何故か私の髪をいじるのに夢中なのよ。友美の髪じゃ長さが足りなくていじりがいがないんでしょうね』
「難儀なことだな」
『まあ、これもそのうち飽きるでしょ』
さっきのが聞こえていたか。
だが、わからんぞ?
「ひょっとすると、それがキッカケとなって理容師や美容師を目指すかもしれん。吉竹に弟子入りを頼むか?」
『また兄さんは遠い未来に思いを馳せる』
呆れられてしまった。別にいいではないか、想像するくらい。
『んしょ、んしょ、できた』
『ありがとう』
友樹の手により髪をぐしゃぐしゃにされ妙な形でまとめられてしまっていたが、美樹は息子を抱き寄せ、膝に座らせる。
おや? さっきまでそこにいた友美はどこへ行った?
『ねえねえ、みてみて。おじちゃん、おばちゃん、おべんとう』
猫ごっこに早くも飽きたのか、いつの間にやら画面外に離脱していた友美が戻って来た。手に弁当箱を持っている。
「おお、美味しそうだね〜」
「そうだな、美味そうだ」
明らかに食べ物でないものが入っているが、素早く褒め称えた麻由美の言葉に俺も追従した。
『これも最近ハマってる遊び。折紙を切ったりしてお弁当を作って、家の中でピクニックするのよ』
「なるほどな」
こんな状況でも、いや、こんな状況だからこそ子供も色々考えを巡らせているようだ。
『おかーさん、はいっ』
『わあ、今日のおかずは猫ちゃん人形なのね』
『おいしい?』
『とっても美味しいわ。でも、ここにも猫ちゃんがいるわね』
『食べられるっ!』
友美は逃げ出した。美樹は追いかけようと立ち上がり、スタンドに立てていたスマホへ手を伸ばす。
『そんなわけだから、まあこっちは大丈夫よ。安全になったら遊びに行くわ』
「うむ、待っておるぞ。それまで達者でな」
『うん、そっちもね。特に麻由美ちゃん、気を付けてね。それじゃ』
『ママ、はやくおいかけてきて!』
『はいはい、それじゃ行きましょ友樹』
『うん』
通話が切れた。静かになった家の中で麻由美が大きくなった腹を撫でる。
「この子達が生まれるまでには収まってくれるといいッスね」
「そうだな。出来れば家族揃って迎えてやりたいしな」
俺も妻の腹を撫でつつ目を細める。息子と娘よ、お前達は大きくなったらどんな遊びを見つけ出すやらな。
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「美樹のように、俺も付き合えるだけ付き合うぞ。だが、猫の真似は勘弁してくれ」




