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おじさんは勝てない  作者: 秋谷イル
シーズン2

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20/26

大塚家vs連休(2)

 散歩から戻っても友美と友樹はまだ寝ていた。もうすぐ昼になる。可哀想だがそろそろ起こさねば。

「友美、友樹」

「待って父さん」

 と、手を伸ばしかけた俺を歩美が止める。

「ちょっと試してみたい」

「なに?」

「眠っているお姫様を起こすと言えば、やっぱり定番はこれだよ」

 言うが早いか歩美は友美の頬に軽く口付けた。

「そんなことで起きるわけがあるまい」

「……ふあ?」

「起きたよ」

「馬鹿な……」

 友美め、いともたやすく目覚めおった。本当にキスにそんな効果が……?

「友樹には父さんがする?」

「冗談はやめよ」

 たしかに可愛らしいが、そのようなこと漢には出来ぬ。友樹も嫌がるだろう。

「じゃあ私が」

「あっ」

 歩美より先に麻由美が友樹の頬へキスした。というか、しまくった。

「友樹くーん、ちゅっちゅっちゅ」

「ううう〜」

「やった、起きた起きた。私のでも効果ある」

「そりゃ、あれだけ雨あられと爆撃したら目覚めるよ」

 先を越された歩美は不満そうだった。




「おさな! おさな!」

「おーさーかーな。ともき、おさかなだよ」

 巨大な水槽とその中で泳ぐ無数の魚達を見た友樹は珍しく興奮した。

 一方、友美は冷静に弟の間違いを指摘する。こやつ、どんどん美樹に似てきたな。

 ところが、そんな友美も大興奮する場所があった。

「おっきい! おじちゃん、あのおさかな、すごくおっきいよ!」

「うむ、大きいな。だが友美、声はもう少し小さく」

 悠々とジンベイザメが泳いでいる。あまりの雄姿に、麻由美と歩美も口を開けて水槽を見上げた。

「でっかあ……」

「すげー……父さんよりでかい生き物、初めて見た」

「いや、動物園の象なりキリンなり、今までにもいただろう」

 何を言っとるのだうちの娘は。




「わあ、ここは幻想的ッスね」

 麻由美と二人で入ったクラゲの展示コーナー。あえて照明を廃した真っ暗な空間は通路以外全て水槽になっていた。そこに浮かぶクラゲ達がぼんやり青く輝いておる。

 ちなみに友樹が暗いのを怖がったため、子供達はひとまず歩美に預け待機してもらっておる。しばし堪能したら引き返し、俺達が友樹を預かって入れ替わりで友美と歩美を入らせるつもりだ。

「このクラゲ達もキレイだけど、淡い光に照らされたセンパイもステキッス……」

「お前も綺麗だぞ」

「センパイ……」

「麻由美……」

「見て桃春、人目を憚らぬカップルがいるわ……」

「すごいね。ところで鈴、できればその……」

「置いてくわよ」

「ごめん」

 ……先客がいた。暗くて気が付かなかった。

 ごほん、咳払いして妻の手を握る。

「邪魔をしてしまったのだろうか……謝りたいところだが、取り込み中かもしれん。一旦戻ろう」

「そ、そッスね」




 一時間ほど見て回った後、館内のレストランに入った。もう一三時を過ぎている。

「おなかすいた」

「遅くなってしまったな」

 だが、そのおかげか空いている。待つことなく案内され、友美の手を引いて移動する俺。店の人は友美と友樹用の椅子も持って来てくれた。

「こちらどうぞ」

「かたじけない」

 感謝しつつ友美を抱き上げて座らせ、友樹も麻由美の手で着席したのを確かめ、俺自身席に着いた。せっかちな歩美はすでにメニューを開いている。

「どれにしようかな~。友樹は何が食べたい?」

「さて……」

 俺もメニューを開く。ほう、色々あるな。こういう場所だけあり、どれもなかなか良い値段がするが、まあ仕方ない。たまのことだし出費は考えんことにしよう。

「友美よ、食べたいものはあるか?」

「オムライスがいい」

「オムライスか……あるにはあるが単品は大人用の大きなやつしかないようだな。お子様ランチはどうだ? オムライスにハンバーグとパスタ、プリンもつくぞ」

「じゃあそれがいい」

 よし、まず一人決まった。

「歩美、決めた?」

「う〜ん、私はこの海鮮丼かな。でもあさりとカニのパスタってやつも捨て難い」

「いっそ両方頼んでしまえ」

「あのね、女子だよ? そんなに食べられないって」

 いや、いつものお前なら余裕だ。外に出たからといって格好付けるな成長期。

「じゃあ、ママがこっちのパスタを頼むから二人でシェアしましょうか」

「あ、そうだね。友樹にも分けてあげよう」

「そうね」

 たしかに友樹は何を頼んでもまだ食い切れん。俺達で少しずつ分けてやるのが正解か。

 となると、この二人の頼んだものが気に入らなかった時のため、俺も趣きの異なる品を頼んでおく方がいいだろう。

 こやつらは丼物に麺か……よし、ならば俺はこれだ。

「海鮮ピザにする」

「ぷっ」

「なんだ?」

「父さんがピザって、なんかミスマッチで」

「今は洋装だぞ、おかしなことはあるまい」

「だって普段を知ってるからさあ」

 ええい、お前には分けてやらんからな娘よ。




「……」

 黙々とピザの耳を齧る友樹。お気に召したようだ。しかし、どうせなら具の乗っている部分を食べればいいものを、自らそこだけ千切り取りおった。

「友樹、このエビも食べな」

「うん」

 こくりと頷き、歩美が小皿に取り分けてくれたエビにフォークを突き刺す友樹。小ぶりとはいえ一尾丸ごと口に突っ込む。こやつ大人しい性格なので少食かと思いきや、食欲は旺盛なのだ。考えてみるとミニ丼くらいなら一人前平らげられたかもしれん。

「美樹ちゃんもこうでした?」

「いや、あいつは昔から少食だ。友也に似たのだろう」

 奴め、うちに来ると遠慮しているが美樹の話では痩せの大食いらしいからな。

「友美、おいしい?」

「おいしいっ」

 友美は自分のお子様ランチを攻略中。だいぶ食べるのが上手くなったものだ。もうポロポロこぼすことはない。

「歩美の丼はどうだ、美味いか?」

「うん、流石に新鮮だね。ここで飼育してる魚なのかな?」

「それは無いだろう」

 無い……と思う。まさかな?

「こっちも美味しいわよ。歩美、半分食べたら交換ね」

「うん。父さんのピザも一枚ちょうだい」

「やはり食えるではないか」

 しかたなく俺は一切れ分けてやった。育ち盛りの娘にねだられては勝てん。

 くいっと袖を引かれる。

「どうした友樹?」

「ちょーたい」

 友樹もまた俺に向かって皿を差し出す。

 俺の食う分が無くなる……。




『はーい! 誰かイルカに触ってみたい子はいるかなー? あ、今のは別にダジャレじゃないよー』

 言わんでもいい一言を言う飼育員。大人達の間に微妙に気まずい空気が流れたが、子供達は関係無く次々に手を挙げた。

「はいっ! はいっ!」

 友美も全力で立候補しておる。だが、残念ながら飼育員の目は別の子に留まった。

『はい、じゃあそっちの僕、こっち来てー』

「さわりたかった……」

「残念だったな」

 だが、これもまた人生よ。俺は姪の頭を撫でてやる。

 友美も友樹も、そして歩美もイルカショーそのものには満足したようだ。終わった後も目をキラキラさせて語り合う。

「すごかったねー友美。イルカさん、あんなにジャンプしてたよ」

「かっこよかった!」

「おさな!」

「うん、そうだね友樹。お魚さん飛んでたねー」

 イルカは哺乳類……などと言うのはやめておこう。無粋だ。

「あ、あそこにお土産屋さんがありますよ」

「お義父さんとお義母さん、それに吉竹と当間、職場の者達にも何か買って行くか……」

「ご近所さんにも配りたいですね」

「いや、そういうのは帰りに買った方がいいんじゃない?」

「それもそうだな」

 しかし、ここまで来て何も買わずに済ますのも惜しい。一応、中へ入ってみる。他にも大勢の客がいてごった返していた。いかんな、子供らとはぐれかねん。

「友美、友樹、俺が抱えてやろう」

 両手で二人を抱き上げる。これなら仮に歩美や麻由美とはぐれてしまってもすぐに合流できる。俺が目印だ。

 しばらく、あれがいいかこれがいいかなどと商品を眺めて回る。そのうちに友樹が上を指差した。

「あえ」

「あっ、イルカ」

 友美も興味を示す。それは大きなイルカのぬいぐるみだった。

「欲しいのか?」

「うーん」

 友美の視線を辿った俺は苦笑する。こやつ、いっちょまえに値段を見て悩んでおるわ。

「遠慮するな。さっきのショーでは触れんかったからな、買っていこう」

「いいの?」

「無論だ」

 俺が頷くと、友美は嬉しそうに首に抱き着いて来た。待て待て、首が締まる。

「麻由美、すまんがそのぬいぐるみを……麻由美?」

 両手が塞がっているので妻に頼もうとしたが姿が見当たらん。いつのまにやらはぐれていたか。歩美の姿は見つかったものの、キーホルダーなどの小物コーナーで顎に手を当て真剣に考え込んでいる。ここからでは声をかけても気付くまい。

「友美、掴めるか?」

「ううう……とおい」

 肝心のぬいぐるみはかなり高い位置に置かれていて、俺に抱き上げられている友美でも手が届かなかった。どこのどいつだあんな場所に商品を陳列したのは。

「しかたないな」

 いったん友美を下ろして俺が手を伸ばすしかあるまい。

 そう思った時、横で一人の青年がジャンプした。

「よっと」

「むっ」

「これでいい?」

 青年は友美にぬいぐるみを渡す。君が買うわけではないのか。

「ありがとう、助かった」

「ありがとう、おにいちゃん」

「いえいえ、それじゃあばいばい」

 爽やかに去っていく若者。そこでようやく思い出す。彼はクラゲのコーナーにいた青年ではないか。あの時の彼女は一緒ではないのか?

「また、謝り損ねてしまったな」

「なにかあったの?」

「うむ、少しな。せめて感謝しよう」

「うん」

 頭を下げる俺達。すると、あの少女が青年に駆け寄って行った。

「あ、いた。桃春!」

「鈴? もういいの?」

「うん。えっと、さっきのことなんだけど……」

「後にしよう。野苺達、待たせてるし」

「そうね」

「……」

 金髪碧眼の青年と薄桃色の髪にやはり青い瞳の少女。日本人には見えんが随分と流暢に日本語を喋る。最近多い日本文化好きの外国人だろうか?

 去り行く背中にもう一度頭を下げ、俺は友美達を抱き上げたまま会計に向かった。




「か、かわい~……」

 従妹を起こさないよう小声で呟きながら写真を撮る歩美。締まりの無い。顔がとろけておるぞ。

 例の宿へ向かう道中、友美はイルカのぬいぐるみを抱いたまま眠ってしまった。可愛い寝顔なのはたしかだ。長時間の運転疲れも吹き飛ぶ。

 一方、友樹はやけに元気である。見やすいように目の前に設置してやったタブレットでずっと“サムライスター”を見ながら「だっ」「あー」と声を出し、腕を振り回している。そういうところはやはり男の子だな、お前も。

「友美ちゃん、今夜眠れないかも」

「友樹は逆にぐっすり眠りそうだ」

 眠れないようなら星でも見に連れて行ってやろうか。件の宿は山の上だそうだから良く見えるだろう。

「父さん、そろそろ着く?」

「あと少しだ」


 車はようやく山道を登り始めた。

 そろそろ友美も起こさねば。


「すごいところにある宿ですね」

「食材の仕入れなど大変だろうな」

 毎日ここを上り下りすることを想像したら気が遠くなった。しかし、そういう場所にも人は住んでいる。世の中にはここより過酷な土地と、そこでの生活もあるのだろう。人間というやつは驚くほど逞しい。


 ほどなくして到着した。客用の駐車スペースに停車して必要な荷物だけ手に取る。


「着替えにタオルに……よし、必要な物は揃ってるな」

「ですね。友美ちゃん、絵本は持って行く?」

「うん」

「はい、じゃあリュック背負ってね。そのぬいぐるみも持って行くの?」

「だめ?」

「ううん、落とさないように気を付けてね」

「友樹は私と手を繋ごう」

「あーゆーゆ」

「そうだよー、覚えてくれたね。お姉ちゃんはあゆゆねー」

「あーゆーゆ」

「父さん、悪いけど荷物持ってくれない? 抱きしめたい」

「後にしろ」


 先頭に立って宿の玄関をくぐる。


「失礼! 予約した大塚だが!」

「あ、はーい」

 呼びかけに応じて出て来た人物の姿に、ギョッとする俺達。

「いらっしゃいませー、おつかれさまでしたー!」

 随分若い女将さんだと、そう思った。

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