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おじさんは勝てない  作者: 秋谷イル
シーズン1
2/26

おじさんvsお金

 俺は今、いつもの座敷で座布団の上に置いた封筒と向かい合っている。封筒のどこが顔なのかはわからんし、実際のところ視線の先は尻かもしれん。

 いや、そんなことはどうでもいい。問題は妹から預けられた姪っ子の荷物の中にこれがあったことだ。あやつめ、こっそり忍ばせておったわ。

 手には、この封筒の中に入っていた手紙。


“これで友美に必要なものを買ってやって”


 封筒の中には、まだ取り出していない十万円。この額ではまるで例の給付金ではないか。俺は宝くじで一等を当ててしまったから金には困っとらんと言っとるのに。

「必要なもの……か」

 生活に必要なものと言えば衣・食・住の三つ。衣は妹がたっぷり置いて行った。大仰なトランク一つ分ある。食も一昨日買い出しに行ったばかりで不足は無い。

「となると、住か?」

 クワッと目を見開いてみたが十万円で家は買えない。そもそも俺の家で預かっているのだし必要あるまい。

 困った。何が必要なのかわからん。

 友美本人に訊いてみようと思ったものの、昨日通販で注文して今日の午前中に到着したお昼寝セットでスヤスヤ寝ておる。起こすわけにはいかん。寝る子は育つ。大きく育て。


「……果報は寝て待て」


 俺も寝ることにした。夢の中で何か思いつくやもしれん。




「おやつか」

 昼寝から目覚めると午後三時だった。ゆえに天啓を得た。

「おやつ代に十万円とは、あやつの教育を間違えたか」

 妹よ、俺は友美を甘やかしたりせんぞ。おやつは一日二百円までとする。

「おなかすいた」

「うむ、コンビニにでも……いや」

 これも社会勉強。姪を一人前の大和撫子に育てるべく、俺は近所の駄菓子屋に目的地を変更する。

 久しぶりだな、心が逸る。




 というわけで、友美を連れて近所の駄菓子屋へ。恐ろしいことに店の婆さんは俺が子供の頃と同じ姿でレジの横に座っていた。

「あら〜? あんた、大塚さん家の豪ちゃんかい?」

「久しいな婆さん。元気そうで何よりだ」

「ありがとね。妹ちゃんを連れて来るのも久しぶりだね」

「妹ではない、こやつは奴の娘。つまりは姪っ子よ」

「あら〜? そうなのかい、美樹ちゃんも、もうお母さんかい」

「うむ、わけあってしばらく預かることになったのでな、ちょくちょく連れて来るだろう。よろしく頼む」

「はいはい。かわいい子だね、こんにちは」

「こんにちは……」

「ちゃんと挨拶出来てえらいね〜。これサービスだよ」


 婆さんは友美に五円チョコをくれた。


「ありがとうございます」

「あら〜、ほんとにえらい子だねえ」

 フッ、当たり前だ。俺がしっかり教育しているからな。

「豪ちゃんとは大違いだ」

 どういう意味だ?




「友美よ、買い過ぎるな。二百円までだ」

「豪ちゃん、その子まだ三歳くらいだろ? 計算は無理だよ」

「それもそうか。よし、欲しい物があったら言え。俺が計算して予算内か否か教えてやる。どうしても食べたい物以外は返すんだ」

「よくわかんない」

「とにかく選ぶぞ」

「うん」

 友美は商品を眺め始めた。どうも駄菓子屋に来るのは初めてのようで、一つ一つこれは何かと俺に訊いてくる。

「それはうまい、そっちは好かん、そいつはまあまあだ」

「なんとまあ説明の下手な子だね。しかたない、ともみちゃん、ばあちゃんが教えたげるからこっちおいで」

「ありがとう」

 婆さんに解説役を奪われてしまった。おのれプロが大人気の無い。今度、本屋で駄菓子レビューの本でも探して買おう。


 その時、俺はあるものの存在に気付いた。脳裏に稲妻が走る。


(こ、これは……ビック○マンチョコ……!?)

 まだ売られていたのか。パッケージに全く知らんキャラが描かれているが、俺がシールを集めていた時代から長い時が経った。新キャラが大勢いてもおかしくない。

(今の俺の経済力ならば、あの頃出来なかったことが……大人買いが出来る……!)

 俺が子供の頃、このチョコは大ヒットしていた。ブームの真っ最中で、店に入荷したと思ったらすぐに売り切れてしまう始末。中には箱ごと買い占める大人もいて、歯軋りしながら会計する様を見ていたものだ。

 その俺が、今、あの腐れ外道と同じことをしようとしている……いかんと思っていても吸い寄せられるように手が伸びてしまう。


 すると、その手をピシャリと叩かれた。


「むだづかい、だめっておかーさんがいってた!」

「友美……」

 俺は憑き物の落ちた顔で姪っ子の顔を見つめる。そして手を引っ込めた。

「そうだな、無駄遣いはいかん」

 これは現役の子供達のためのものだ。危うく俺も外道に堕ちるところであったわ、礼を言うぞ友美。

 それに今は妹が置いて行った金しか持っておらん。これも友美のためのものよ。まさか、こんなところで電子マネーは使えんだろうしな。

 やがて友美はいくつかの菓子を選んだ。二百円を若干オーバーしている。

 しかし、その中に例のチョコがあることに気が付いた。

「これを食べたいのか?」

 女児向けではないと思うのだが、今の娘はこのような少年向けの商品を好むのか?

「それはおじちゃんの! あげる!」

「婆さん、会計だ!」

 俺は毎日ここに連れて来てやろうと誓った。


「何? 電子マネー対応!?」

「今の時代まで生き残ってる店をなめちゃいかんよ、豪ちゃん」

 この婆さん、出来る……!




「かまど……えらく難しい漢字だな」

 子供向けの菓子なのに、なんとなくそれらしくないキャラクターのシールが入っていた。だがパッケージにも描かれているし、ビッ○リマンのキャラなのは間違いあるまい。

「あ、おかーさんのすきなやつ」

「そうなのか?」

「うん。いつもアニメ見てる」

「ほう……」

 昔もアニメをやっていたが、今も放送しているのか。知らなかった。

「えーがもみてきたよ」

「劇場版!?」

 俺の知らぬ間に何が起きているのだ、ビックリ○ンシールよ。

 とりあえずこのシールは友美と連名で手紙と一緒に送ってやることにした。お前の娘に感謝しろ妹よ。


 帰り道 チョコより甘し 姪の愛


「今日は俺の方が教えられたな」

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