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おじさんは勝てない  作者: 秋谷イル
シーズン2

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19/26

大塚家vs連休(1)

 本日は晴天なり。絶好の行楽日和になった。

「友樹よ、苦しくはないか?」

「……」

 こくん。親指をしゃぶりながら頷く甥っ子。歩美は抜け目無くその瞬間を撮った。

「ロック画面に使おう」

「友美はどうだ?」

「だいじょーぶ」

 よし、チャイルドシートは二人とも問題無いな。新品だから違和感があったりせんかと心配していた。

「では出発しよう」

「楽しみですね」

「友美と友樹は私に任せてね」

「頼んだぞ」

 俺が運転席で麻由美が助手席、歩美は後部座席中央に座る。左右をチャイルドシートに挟まれて窮屈そうだが、本人は可愛いイトコ達を独占出来て上機嫌だ。

 ちなみにさらに後ろにもう一列シートがある。今は荷物置き場になっているが、美樹と友也、あるいは麻由美のご両親がさらに同乗しても平気な最大八人乗り。友樹が生まれたことで以前使っていた六人までのミニバンが手狭になったのでな、思い切って買い替えた。昨日納車されたばかりで実はこれが俺の初乗車。

 今回の車はガソリンで発電してモーターを動かす半電気自動車。このような車を動かすのは初めてなので年甲斐も無くワクワクする。

 そして同時にハラハラした。絶対に事故など起こしてはならんぞ、俺。

「シートベルトはしたな?」

「したよー」

「しました」

「よし」

 アクセルを踏んでみた。

「おお」

 思った以上に加速が早い。流石に動力的には電気自動車なだけある。モーター車は加速性能が高いと言われておるが本当だった。慎重に踏み込んで正解だ。

「なんだか普通の車より音が静かですね」

「そうだな。起動時だけ大きな音がしたが、子供を乗せる身としてはありがたい」

 バックミラーで確認すると、友美と友樹は二人とも窓から外の景色を眺めている。時折あれは何かと指差して歩美に解説してもらっていた。

「友美、友樹、寝てもいいからな。道中長い」

「だいじょーぶ」

「おーぶ」

「そうか」

 まあ、せっかくの旅行だ。こやつらも見慣れない景色を楽しみたかろう。

 信号待ちで停車した。するとアイドリングストップでエンジンも止まる。さらに車内は静かになった。

 しかし、信号が青になったので走り出そうとすると、いきなり大きなエンジン音。俺は驚き、麻由美も驚き、友樹もビクッと跳ねる。

「は、発進時は大きな音がするんですね」

「うむ……出発する時もそうだったから、よく考えたら当たり前だな」

 驚かされはしたが、まあそういうものだと知ってしまえば次から心構えが出来る。子供が寝ている最中だと起こしてしまうのではと心配になるが。




 しばらくすると海沿いの道に出た。

「ほら二人とも、海だよ〜」

「うー」

「よくみえない」

 すまん友美、右側の席にしてしまったせいでせっかくの海も見えんか。とはいえ走行中にチャイルドシートから下ろすわけにもいかん。

 心の中で謝っていると前方にコンビニを見つけた。ちょうどいい、あそこに立ち寄るとしよう。ついでに海も見せられる。

「少し休憩だ」

「早くない?」

「友美にも海を見せてやれ」

「あ、そか」

 海沿いの店舗の広い駐車場に車を停める。

 ううむ、前の車より余裕が出来たとはいえ、やはり俺には運転席は窮屈だな。軽くストレッチをして凝りをほぐす。

「やっぱり違和感あるなー」

 車から降りた俺を見て苦笑する歩美。俺の服装のことを言っとるのだろう。運転に和装は不向きなので、今日は普通のシャツとジーンズである。

「ママはこの父さんを見てどう思うの?」

「そうね、学生時代のこの人を知ってるから懐かしい気分になるわ」

「そんなもんか」

「お前も日焼けしたら学生時代を思い起こさせるかもしれんな」

 我が妻はかつてガングロだった。

「日焼けはお肌の大敵なんで、もう嫌ッス」

「さて友美、友樹、俺が担いでやろう。存分に海を眺めよ」

 俺は二人を肩に座らせてやった。

 その姿を見て、またしても歩美が呟く。

「なんかプロレスラーみたい」

「お前の父だ」




「停めさせてもらってこのまま出て行くのもなんだな」

「お菓子と飲み物でも買って行きましょうか」

 ひとしきり海を眺めた後、俺達はコンビニに入った。目的地までは遠い。麻由美の言う通り、色々買い込んでおいた方がいいだろう。

「そういえば今日ってこの後どこに行くの?」

 今さら歩美が訊いてきた。こやつ、計画の段階では全く話し合いに参加して来なかったからなんにも知らん。

「まずは水族館だ。それから内陸に入り、夜は民宿に泊まる」

「みんしゅく?」

「知らんか。普通の宿と違い、一般の家屋に近い形態の宿だな。農家や漁師が副業として営んでいることが多い」

「へー……」

 歩美は少し不安そうな顔になった。まあ、今の説明だけでは見ず知らずの他人の家に泊まるような感覚に陥ったかもしれない。

「安心せよ、あくまで普通の宿より家庭的というだけだ。きちんとした宿泊施設だし今日の宿を紹介してくれた当間が言うには『素晴らしい宿だった』そうだ」

「とうまさんて誰?」

「俺が学生時代に通っていた道場の跡取りだ。今は大学の柔道部でもコーチをしていてな、他校との合同練習のため遠征した際、そこに泊まったらしい。とにかく良いところだったから一度行ってみろと強く薦められた」

「なるほど」

 などと俺達が話している間に、麻由美と子供達はお菓子コーナーを見ていた。

「ともき、おかしはさんびゃくえんまでだからね」

「さんあくえん?」

「おねえちゃんがけーさんしたげる。これとこれならどっちもひゃくえんだからしょうひぜいこみで、にひゃくにじゅうえん」

「え? 友美ちゃん、もうそんな計算まで出来るの? すごい」




 コンビニを出た俺達は再び車に乗り込み、海沿いの道を走り出した。

「友美、あ〜ん」

「あ〜ん」

「友樹、はい、あ〜ん」

「あーん」

 歩美はイトコ達に次々お菓子を与え、ますます上機嫌になっておる。まるで親鳥と雛だ。あやつも大概な姉馬鹿よな。

「あなた、お茶飲みます?」

「頼む」

「はい、どうぞ」

「うむ」

 自然に麻由美の差し出したペットボトルから茶を飲み、直後に気が付いた。

 俺も友美達と同じことをされておる。




 二時間後、ようやく水族館に到着した。

 が、友美と友樹は眠ってしまっていた。

「どうする父さん?」

「もう少し寝かせておけ」

 こんなこともあろうかと時間に余裕を持たせてある。水族館の中を見て回るのは昼からでいいだろう。ガイドブックによればここで飯も食える。

 この場所から例の宿までは一時間ほどだ。昼食後に二時間も見て回って出発すれば夕方に着く。

「暇なら少し散歩するか?」

「子供達は私が見てますから、行って来ていいですよ」

「じゃあ行こうか」

 そんなわけで俺と歩美はそのへんをぶらついて来ることにした。


 義理の子と 二人で歩く 散歩道


「そういえば、あの少年は当間の道場へ行っただろうか?」

「なんの話?」

「いや、なんでもない」

 海を眺めつつ、俺は娘の頭を撫でた。

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