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おじさんは勝てない  作者: 秋谷イル
シーズン2

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17/26

大塚家vs歯みがき

「動くでない」

「やーあー」

「口を開けよ」

「んんー」

「虫歯になってしまうぞ」

「んーんー」


 困った。


「歯を磨かせてくれん……」

「今日は強情だね」

「三歳の頃の友美は、素直に磨かせてくれたのだが……」

「まあ、それぞれの性格もあるからね」

 友美と友樹を預かってから三日目の夜、新たな問題が発生していた。今日になって突然、友樹が歯みがきを嫌がるようになってしまったのだ。

「何故だ友樹よ、お前も昨日まで素直だったではないか」

「父さんの顔が怖いんじゃない?」

 パジャマ姿の娘に身も蓋もないことを言われる。

「ならばお前がやってみろ」

「え、いいの?」

 歩美め、逆に喜んでおった。こやつ友美が従妹になって以来、子供好きが加速しておる。将来は保育士にでもなるつもりか?

(保育士の歩美……ふむ)

 想像すると悪くなかった。良い未来予想図だ。となれば、このような経験を積むことは良い勉強になろう。俺は喜び勇んで近付いて来た娘に席を譲ってやる。

「友樹~、今日は代わりにお姉ちゃんが磨いてあげるよ~」

 中学生になり、以前より女らしさの増した感がある歩美。母性本能を感じさせる声音で二歳の従弟に囁きかける。

 しかし──

「やっ!」

 友樹は腕を振り回し歯ブラシを吹っ飛ばした。

「嫌われた……」

 歩美はその一撃で心に傷を負い、壁際で蹲ってしまった。脆い、脆すぎる。幼子の相手をするつもりなら、もう少しメンタルを鍛えて出直して来い。

「やはり俺がやるしかないな」

「いや、待ってくださいセンパイ! 誰か忘れてないッスか?」

「くっ、その声は──麻由美!」

 風呂から上がって来てしまったか。湯上りで火照った肌。まだ湿っている髪。色っぽい姿だ、もちろん妻であるお前を忘れてなどおらぬ。

 だが今は、今はまだ現れて欲しくなかったぞ……!!

「ふふふ、その顔、アタシの入浴が最後になるよう誘導したのは、やはりそのためだったんスね?」

「見抜いておったか……!!」

「まあ、アタシを恐れるのは仕方ないッスよ。なにせアタシは歩美を育てた女! いわば、この中で一番育児に精通したプロ!」

 その通りだ。だからこやつがしゃしゃり出てくると、せっかくの甥っ子との触れ合いの時間を奪われてしまう。

「ええい、俺に任せよ。今宵も見事に友樹の歯を磨いてみせよう」

 俺は再び友樹の頭を膝に乗せ、歯ブラシを手に取る。

 だが、やはり──


「んーっ、んーっ」

「くっ、何故だ、何故開かぬ……」


 ちゃんと、お前の好きなイチゴ味の歯みがき粉を使っておるというのに……っ!!

「チッチッチッ、甘いッスねセンパイ。さあ、選手交代といきましょうか」

「貴様なら出来ると言うのか?」

「もちろんッスよ」

 麻由美は自信満々で俺と場所を交代した。

「友樹く〜ん、ほっぺたむにむに〜」

「うゆゆ」

「かわいいかわいい、うりゃりゃ〜、こちょこちょ」

「あははっ、あはははっ」

「ぬう、なるほど」

「流石はママ」

 まずは遊んでやって機嫌を直す作戦か。友樹め、楽しそうに大口開けて笑っておる。

 俺のような素人はすかさず歯ブラシを突っ込もうとしてしまうだろう。だが、麻由美は冷静だった。

「友樹く〜ん、この甘いの好き?」

「……」

 こくり。歯みがき粉を見て頷く友樹。

「ちょっと舐めてみる?」

 指で少しすくい、口に近付ける。

 ぱくっ。友樹は食いついた。

「美味しい?」

 こくん。

「おお……」

「先に指を使うことで、口に異物が入る抵抗感を削いだ……!」

 いきなり歯ブラシを突っ込んでは齧ってでも阻止しようとするかもしれん。だから先に嫌がることはしないし安全だと示したわけだ。巧みな手腕に見入る歩美と俺。

 友樹から抵抗の意志が消えたと見て取り、いよいよ麻由美は決定打を放つ。

「じゃあ、今度は歯みがきしようね〜。すぐに終わるからイーッてしてね?」

 再び近付いていく歯ブラシ。固唾を呑んで見守る俺と歩美。

 しかし──

「やっ」

 プイッ。友樹はそっぽを向いた。

「あ、あれ? 友樹く〜ん? お口開けて〜、こっち向いて〜」

「……」

「ほ、ほ〜ら、甘いやつだよ〜。さっきのとおんなじだよ〜?」

「……」

「馬鹿な……」

「あれでも無理、なの……?」

「手強い……っ」

 戦慄する我等大塚家一同。

 ところが、これまでずっと“しゃかいあくのまじょ”を読んでいた友美がここですっと顔を上げる。場の空気が変わった。

「ともき、ちゃんとはみがきしなさい」

「はいっ」


 友樹は口を開いた。


「……」

「……」

「……」

 麻由美が歯ブラシを歯に当てても微動だにせん。昨日までと同じく黙って磨かれておる。

「そういえば、昨日も一昨日も……」

「うむ……」

 歯を磨く直前、友美が「ともき、はみがきするよ!」と声をかけていたはずだ。

「七歳児に負けた……」

「いや、違うぞ歩美。これはつまり、我等がまだ友美ほど友樹の信頼を勝ち得ておらんということだ」

「父さん……」

「友美との付き合いが長いからと慢心しておったわ。あやつと友樹は別の人間。であれば信頼関係を一から構築することになるのも必定」

「な、なるほど」

「共に励むぞ歩美。まずは、友美の力を借りずに歯みがきをさせられる関係が目標だ!」

「そうだね父さん!」

 メラメラと燃える我らを見て麻由美は冷ややかに呟く。

「歩美がだんだんセンパイ化してきた……」

「あうー」

 同意するように泡を飛ばす友樹。そろそろ口をゆすいでこい。


 父と子の 次の目標 歯みがきだ


「友樹よ、まずは今宵、絵本を読んでやろう」

「私がやる!」

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