新吉のお話
話し出した新吉のお話
その日は秋の夕暮れがとても綺麗で、ススキの穂がサラサラと風になびく、とても過ごしやすい日でした。
アッシは上州からお伊勢さんに向かう旅烏で。あちこちの一家でお世話になりながら旅をしております。
鎌太郎: そりゃまたお伊勢さんに何用で?
新吉: 一家に居た頃に旅のお方が草鞋を脱いでいる時に聞いた話が面白くってアッシもお伊勢さんに行きたくなりまして。親分にその事を話しますと、行ってこい!男を磨いて帰ってこい!と、快く送り出してくれまして。ハハハ。
いろいろな一家にお世話になりまして、だんだんと時は過ぎ、そして清水港に着きました。東海道一と謳われる次郎長一家とはどんな一家だろうとアッシは少し緊張しながら訪ねてまいりました。
大きな立派なお屋敷で、訪ねていくと大勢の方々がいらっしゃいました。威勢の良い活気にあふれた賑やかな明るい一家で、東海道一と謳われる理由がすぐにわかりました。
奥へ通され、中へ進むと皆さんが挨拶をしてくれ、そのまた奥の親分に会いました。親分はキリリとした2枚目で、ゆっくりしていな。と一言くれましてね。アッシはあー、この一家に草鞋を脱いで良かったなぁとつくづく思っておりました。
しばらくして、大政さんに小政さん。だんだんと話によく聞く一家の28人衆の方々の顔と名前がわかってきたのですが、アッシが1番会いたかった石松さんがわからなくて。聞いたんです。
親分の遣いで金毘羅さんに行っているよ。と聞いて、あー会えないのか。と少し寂しく思っておりましたら、小政さんがあと5日もすれば帰ってくるから会っていきなよ。石松は本当に良い奴だから、きっと待ってたと言ったら喜ぶよ。
そう言ってもらい、その言葉に甘えて石松さんを待つことにしたんです。
5日後、、、。会いたかった石松さんは。。。
石松さんの最後の話。