屋敷に慣れたお時さん
屋敷に慣れたお時さんは、新吉を手伝い始めていた
鎌太郎一家に来てから5日が経った。
もう何処に何があるかわかった。それにもう、みんな怖くない。みんな礼儀正しいし、優しい。
三下の新吉にくっついて行ってご飯の用意の手伝いもするようになった。
洗い物をするために水を汲みにいく事もする。
水を汲みに外へ出たら、風が吹いていた。空は今にも何が降りそうな黒く分厚い雲が空を覆っている。
「こりゃ、雪が降りそうですね。」一緒に水を汲みにきた新吉がお時にそう声かける。
「そうですね。寒くなってきましたね。」
ここにずっと居るのも悪くないかもしれない。
冷たくなった指に息を吹きかけて暖をとる。
「ここの暮らしにも慣れてきたみたいだね、お時さん。」と辰五郎が声をかけてきた。
「はい。慣れるとここは、江戸にはないものが沢山あります。ないものもありますが、いらないものだったのかもしれない。」
そう言って笑うお時は、鎌太郎に会う前にもう、屋敷に慣れた。本当にここでずっと暮らしていく気持ちでいる。お蝶の言葉を丸呑みした訳ではない。けれど、愛は育っていくものなのかもしれないと、そう思うようになっていた。
屋敷に入っていく前にお時は深呼吸してみる。色の無い透き通った空気が鼻をつんと通り抜けていく。この感じが好きだなぁと思うのだった。
ずっと居るのも悪くないと思うようになっているお時さんだった。




