浜名湖にて
浜名湖の湖は大きい
「浜名湖だな。」
大きな海のような湖が見えてきた。
「富士五湖の一つだなぁ。」
「不動はこの辺りもよく知っているんだなぁ。」
「ああ、親分の遣いでよく周っていたよ。」
「この湖には大きな魚がいるんだろうなぁ。」
「見たことないけどなぁ。船釣りに行って船だけしか浮かんでなくて帰って来ない人がいるらしいよ。」
「喰われたのか?」
「わからねー。」
「行ってみるか?」
「喰われたくねーなー。」
「そうだな。早く帰らないとな。」
大した会話はない。けれど景色が変わり、見るもの全てが新鮮で、気持ちが軽くなっている。
「旅っていいもんだなぁ。」
「一家にずっと居るのは退屈だもんな。ヤクザな割に出入りも無いし、縄張り争いも無いもんな。平穏に時が過ぎていくもんな。」
「兄貴だんだんデカくなっていったよな。相撲部屋に居た時は全然太れなかったのにな。」
「そうなんだ。山のようになっていく。」
「また旅に来ればいい。」
「そうだな。」
「俺な、考えていたんだが暇だから喧嘩ってするんだろうなぁ。」
「だなぁ。」
「しょうもねー事が気になり始めてそれをずっと腹に溜め込んで、ある日突然、ドカーンと爆発しちまうんだよ、きっと。」
「俺、祝言あげるの怖えーよー。」
「俺も嫌だー。」
「俺は元からムリ。」
「だなぁ。お蝶は男だからな。」
浜名湖が遠く小さくなってきた。不動はもう、呆れて何も返してこない。
「悪かった。」
「すまなかった。」
「ごめん。」
「反省してます。」
「謝るなら最初から言うんじゃねーよ。」
そう言って不動は少し笑った。
「帰ったら、絵でも習おうかなぁ。」
「俺も習おうかなぁ。」
「じゃあ俺も。」
浜名湖、もう小さく小さくなって、米粒くらいになってきた。
「何描く?」
「俺、石松さんを描く。」
「石松さんかぁ。じゃあ俺は次郎長親分描く。」
「俺はお蝶描こうかな。」
「不動、言っていい?」
「何を?」
「いや、いい。やめておく。」
遠く遠く、小さくなっていく湖のように、遠く遠くへ離れていく距離が、鎌太郎には辛かったのだった。
遠く遠く離れると雪になって消えてしまう




