長旅
駿河から離れると富士山が綺麗に見えるはずなのに、無い。天候のせいにした3人だったが。
駿河の街をあとにして、向かう先には富士山が聳え立っている筈なのだが、あいにくの天気で何も見えない。
「この辺りだろうか。」鎌太郎は富士山がみえているであろう場所に向かって手を合わせた。
「何が?兄貴どうした?」太郎が拝んでいる鎌太郎に聞いた。
「富士山、拝んでるんだよなぁ。兄弟。」不動はそう言うと、鎌太郎の横に立ち、同じように手を合わせている。
「じゃあ俺も拝んでおこう!」と太郎も並んで拝みだす。
「ねえ富士山、お花ちゃんの行く末を、そこからしっかり見守っていてくださいね。もう病気になど負けぬよう。もう悲しい思いはせぬよう。よろしくお願いしましたよ。」と鎌太郎は心の中で拝んだのであった。
初冬の空はこうした今にも雪が降りそうな曇り空をしている。枯葉が舞ってどこか遠くまで飛んでいく。
時々、心がどこかへ飛んで行きそうになる。本当はこのままどこかへ。いや、どこかではない。もう言うまい。
「兄貴、しばらく歩いているせいか旅人姿がサマになってきたね。」
「そうか?」
「哀愁背負ってるよ。」
「旅人てのは哀愁背負ってなんぼだぞ!」
「そんな話は聞いたことが無いが、みんな心に何かを抱えて生きているんだろな。これからもっと抱えて行かなくちゃならねーんだろうな。」
「俺らがいつでも支えてやるから。1人で抱えてこむなよ。兄弟なんだからな。」
「心強いな。」唇の端を少しあげて鎌太郎は薄く笑った。
「あれ?富士山、あっちじゃねぇ?」
拝んだ方向と真逆にうっすらと巨大な富士山の影がみえる。
「本当だ。真逆みて拝んでた!なんてこった!」
3人は改めて富士山に手を合わせ、こんどは旅の無事を祈願した。
「早駕籠に乗りてえなぁ」鎌太郎がふと本音を口から滑らせた。」
「哀愁背負ってだわけじゃ、なさそうだな。兄弟!」
「、、、。」
鎌太郎が黙る。
「すまん。悪い。旅の路銀には限りがある!歩くぞ!」
お天道さまはまだ真上。まだまだ遠くまで行けるところまで行こうと歩きだした3人なのであった。
美濃まではまだまだ遠いのであった。




