山道
山道に差し掛かり、早駕籠が遅くなった。
昼、夜関係なく走り続けていた籠が、少し遅くなった気がした。お時は籠の上の方に付いた窓のようなものを少し持ち上げて外を見た。
辺りは少し薄暗い。空気の匂いが変わったのを感じた。聞こえるのは籠屋さんの歩く音だけ。ふと、大きな木がたくさん並んでいるのが見えた。身体が少し斜めになる感じもある。江戸から出たことがないお時だったが、それが山道なんじゃないかな?くらいにはわかる。
「山道?」
思わず籠屋さんに聞いている。
「そうですよ。」
「ただでさえ疲れているところ、こんな質問をしてしまい、申し訳ありません。」
「いえいえ、これが仕事ですから。」
「もう一つ、聞いてもいいですか?」
「なんですか?何なりと聞いてください。」
「何処に向かっているのですか?」
「美濃ですよ。」
「美濃ですか。」
聞いてみたけれどそれがいったい何処にあるのか分からない!でも、最近、噂でよく耳にする土地の名前なのは知っている。立派な侠客の親分がいるらしい。
名前は見受山の鎌太郎っていうらしい。
あ、辰五郎親分の身内だったような、、、。
そんな時はどうでもいいわ。私は何故そこへ向かっている訳?辰五郎親分は何を考えているのよ!どうでもいいけど、私は江戸に帰れるの?向かう土地を聞いた途端、もう不安しかないお時なのであった。
「お嬢さん、この山超えて、里に出たらもう美濃まではすぐですよ。長い道のりもあと少しです。」
心なしか少し冷えてきた。開けた窓をお時はそっと閉めた。仕事とはいえ長い道のりをこうして運んでもらうのは申し訳ない気持ちになる。
実はお時は店の中にいる時から人の事を敬うことのできる、器量の良い人なのだった。
行き先を知ったお時だったが、何故自分がそんな土地へいくのかいまいち分からずにいた。