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鎌太郎親分徒然日記  作者: 美藤蓮花
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お花の宿

帰ってきたお花。

「お嬢様、お帰りなさいませ。」

奉公人のお幸の明るい声がおもてから聞こえてきた。


「帰ってきたようです。」

と大将が立ち上がっておもてのほうへ歩いていく。


少し緊張した面持ちで、太郎は握りしめたかんざしを懐に入れた。


「お花、お帰り。」


「あらおとっつぁん、ただいま。出迎えてくれるなんて珍しいわね。何かあったの?」


「お花の顔を見に旅人さんがきているよ。顔を出してくれるかい?」


「こんな顔で良かったら、いくらでも見てもらってくるわよ。」


そんな声が聞こえて、とんとんとんと小気味よい足音がだんだんと近づいて、襖の前で止まった。


すうっと空いた襖の向こうに、ずっと見たかった笑顔の可愛らしい娘がいた。


「いらっしゃいませ。あら!いつもありがとうございます。太郎さんと不動さんじゃないですか。そちらのお方は初めてお目にしますね。」


「お花ちゃん、俺らの名前、覚えてくれているのかい?」


「旅籠に生まれたからか、覚えちゃいます。」


お花はそう言って下を向いて笑う、その顔を覗き込んだ鎌太郎は寂しそうに言った。


「こんな子に名前を覚えてもらって、お前たち、いいなぁ。」


それ聞いた2人はワハハと笑っている。


「旅人さんは何て名前なんですか?良かったら教えてくださいな。」


「俺かい?」


少し嬉しそうに、鎌太郎は自分を指差してお花に聞くとお花はうんと頷いて鎌太郎を見ている。


「見受け山の鎌太郎親分だよ、お花ちゃん。」


その2人のやりとりを見ていた太郎は、なんだか思っていた。この2人、お似合いだなぁと。なので、太郎が代わりに名乗っている。おまけに懐に入れたかんざしの入った箱を出して言った。


「はい。これ。お土産。江戸で買ってきたんだよ?親分が一生懸命選んだんだよ。」



「お、おい!太郎!みんなで選んだじゃないか!」


「でも買ったのは兄貴だろ。」


「それはそうだが。」


「見受け山の鎌太郎親分さん?えっ?あの見受け山の鎌太郎親分?」


「やはりお花ちゃんも知ってたか。」不動がそう言って小声で鎌太郎にだけ聞こえるように言う。


「な、兄弟、兄弟は俺たちみたいにここに何度も来なくても名前が知れ渡ってるんだぜ。罪な男だね。」


「名前が知れ渡って、なんで罪な男になるんだよ!」と、今度は鎌太郎が小声で不動に言った。


そんな声が聞こえていないお花は、鎌太郎を見て言う。


「あちこちから来る旅人さんが話すものだから知っていますとも!良い親分が美濃の街にはいるよって、評判でしたから。」


お花はジーっと鎌太郎を見て


「話だけじゃわからなかったけれど。」


と言いかけて、口を押さえてプルプルと首を振った。


その様子を見て太郎と不動は笑っているが、鎌太郎はその続きは気になるし、笑っている2人も気になるしでキョロキョロと3人の顔を見回していたが、それもどうでもよくなった。


「元気になって良かった。俺たちはその顔が見たくてここに来たんだよ。来て良かった。だってその笑顔が見れたんだ。」


「親分。。」


「兄貴、これ、刺してやんなよ。」耳元で太郎が鎌太郎に言ってくる。


「いや、だって、これはお前が刺して、それで、、」小声で返してくるそれに、太郎は首を横に振り、お花ちゃんを見てみろ!と言うふうに目をお花に向けた。


お花は真っ直ぐに鎌太郎を見ていた。その目は少し潤んでいて、キラキラと輝いて、なんだかとても綺麗だった。


鎌太郎は太郎からかんざしを受け取ると、お花のところへ近づいた。


お花はしおらしく、刺してもらうのを待っている。


髪に触れた指が少し震えたが、しおらしく待っているお花がなんだか可愛いくて、その髪にそっとかんざしを刺していた。


「よく似合ってる。」


「本当に。な、兄貴。」


「ああ。一生懸命選んだんだもんな。兄弟。女の子にかんざしなんてお前、初めてだよなぁ。」


「あ、ああ。そうだな。初めてだ。お花ちゃん、もらってくれるかい?」


お花はにっこり笑って少し顔を赤らめながら、


「大事にしますね。」


と言ってくれた。


「お花ちゃんは毎日どこへ行ってるんだい?」


「寺子屋へ行っております。仕事ばかりしていたので、字が読めなくて。本を読みたくて行ったのですが、なかなか、漢字は難しいですね。」


「そうだったのかい。」


「小さな子供たちに混ざってお恥ずかしいのですが、楽しく過ごしておりますよ。」


「それは良かった。太郎、心配なさそうだなぁ。」


「だなぁ。良かった。本当に。」


「みなさん、もうお風呂には入られましたか?ここはお風呂が良いんです。」


「そうかい。じゃあ入りに行ってくるかなぁ。」


と、着物を脱ぎ出した鎌太郎たちを見て、お花が目を背けて小さな声で言った。


「じゃあ私はそろそろ。」


「このまま居てくれていいのに。」


「いや、それはちょっと。」


「お花ちゃんはまだあれかい?」


「はい。そうです。」


小さな声で真っ赤になっているお花に、鎌太郎が言った。


「そうかい。良かった。さ!じゃあ行ってくる!お花ちゃん、留守は頼んだよ。」


そう言って出て行った3人をお花は見送っていた。えっ?てことは私はここに居なくちゃいけないの?と見渡すと脱ぎっぱなしの着物が転がっている。財布もむき出しのまま。


仕方ない!とお花は着物をたたみ始めだしたのだった。


そこに大将が顔を出して、お花に聞いた。あれ?旅人さんたちは?お風呂へ行っちゃったよ?と言うお花を見て大将は言った。


「お花、あの旅人さんたち、良い人たちだろ。」


「そうね。ヤクザだけど良い人たちね。見ておとっつぁん、かんざし頂いたのよ。似合ってる?」


「よく似合ってるよ。こりゃ何か帰りに手土産でも渡さなくちゃならないね。何が良いかなぁ。」


と言いながら大将は部屋を後にした。


残されたお花はまた、着物をたたみ始めだしたのだった。
















大将の手土産は、、、。

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