旅籠にて
旅籠は人がまばらだった。
旅籠のなかは案外、人はまばらだった。江戸ともこれで当分、おさらばとなる。
「親方、元気かなぁ。」
布団に寝転び、ふと鎌太郎は呟いた。
鏡山親方は今、相撲復興の為、今は日本中を歩いてまわっている。そこで皆に相撲の素晴らしさを改めて感じてもらう為に働きかけている。
まだ、相撲がなくなった事を大勢の人は知らない。小さな声を大きな希望に変える為に、親方は今、頑張っている。
「越後で餅ついているか。。適当なことを言いやがるなぁ。本当に。」
不動が鎌太郎に答えるようにそう言った。
「俺だったら笑ってなんて居られなかったよ。」
太郎が少し悔しげに拳を握りそう言った。
「今回は皆んな、喜んで出迎えてくれて良かったな、太郎。」
「兄貴の言った通りだな。俺ら、顔が売れてきてるんだなぁ。」
太郎が寺に行くと、皆んな、昔のように出迎えてくれた。石松さんの噂がこの寺にまで届いていて、ヤクザはヤクザでも、立派なヤクザだと認めてくれたからだった。
「調子に乗って、偉くなっちゃあいけない。今があるのは大勢の人の情けのおかげ。ヤクザは所詮、ヤクザ。でも俺、ヤクザって稼業が好きだわ。」
「好きじゃないと出来ないわな。」
そんな事を話しながら、3人は眠りについた。
朝がくると帰り支度に取り掛かる鎌太郎たちだった。