石松さん
石松さんの登場です
初秋になったとはいえまだ暑い。まだ蝉の声がするが、夏の終わり。蝉の種類もかわる。ツクツクボウシツクツクボウシと賑やかに鳴いてはいるが、どこかその声は和む。
夕方ともなるとリリリーンと鳴く声や、コロコロと鳴く声が大合唱で響き渡る。何故かその声には風情があり、秋の訪れを感じさせてくれる。
毎日の同じような1日はそういった風情を感じることで救われたような気さえする。
不動は1人の旅烏を連れ、鎌太郎の屋敷へ久しぶりにやってきた。
ああ、不動じゃねえか。久しぶりだなぁ。元気にしてたか?お蝶や啓太郎たちも元気にしているかい?
ああ、元気だよ。大の助の兄弟も、太郎の兄弟も元気そうでなによりだ。いやな、お蝶に頼まれてこのお方をこちらまで案内させてもらったよ。
鎌太郎は不動の後ろにいる旅烏に目をやった。
そのお方は?
森の石松の親分さんだよ。
片目に丸い目隠しに、青と白の着物姿。背丈は不動よりは少し小さなそのお方は、鎌太郎に顔合わせがしたいと追分まで来てくれた。
森の石松さんといったら東海道一の親分、清水の次郎長親分のところでも、知らない者が居ないほどの侠客!そんな人がわざわざ鎌太郎を訪ねてきてくれた。
だがしかし、自分も同じ稼業。この世界に入って日は短いが、同じ侠客の1人。ここで顔を売らないでいつ売る?
鎌太郎は、石松を1番良い部屋へ通し、そして話は始まった。
続きます。