石松の誕生日
やっと着いた清水次郎長一家。
鎌太郎たちはやっとのこと清水次郎長一家の前に着いた。
3人は若い衆に案内され、なかへと通された。そこは自分たちが想像していたようなヤクザの世界ではなく、子供たちや女の人たちがいて、何か楽しげに話している。よく聞くと石松さんのことを話している。
子供たちも石松さんのことを話して楽しげに笑っている。
それを見た鎌太郎たちは少しだけ心の痛みが取れたように思うのだった。
親分!見受山の鎌太郎親分がお越しくださいました。
若い衆が親分と声をかけたその人こそ、東海道一と謳われた清水の次郎長親分で、振り返ってこちらを見るその眼光に3人はビビリおののく。辰五郎親分と全然違うー!
と、心の中で叫びながらも平常心を保ちながら挨拶をした。
次郎長親分は、石松が世話になり、お蝶にもお気遣いいただき、今日もこうして顔を出してくださったこと、痛み入ります。なんかね、石松には哀しい葬式は似合わない気がして。それなら石松の生まれた日にあいつが世話になった人や近所の人を招いてお祝いしてやろうと思ったんだが、あいつは捨て子だったんで生まれた日がわからない。
さあどうする?
となった時に近所に住む太郎坊ってのが言ったんですよ。石松は生まれた日が分からない。じゃあここに来た日を誕生日にしたらいいって。
それ聞いて今日この日が石松の生まれた日となった。
小さな子供と同じ目線で話すもんだから、子供たちは石松のことを友達だと話すんですよ。あいつのことになるとついつい長話になってしまう。
次郎長はそこで一息つき、下を向いて寂しそうな顔をした。
今日はあいつのことを思う存分話して聞いてやってください。あいつもそうしてやると喜びますから。
はい。お言葉に甘え、お祝いさせていただきます。
と、出した誕生祝いの包みは受け取られず、鎌太郎の懐に収まる形になった。
それはここまで来て頂いた旅費に。
と次郎長は小声で言った。
さあさあ、鎌太郎親分もあちらの方へ案内してくんな。
へい、親分。
若い衆がこちらへと案内してくれたのは子供たちが走り回っているそこだった。
子供たちが話してくれます。