もうすぐ清水
清水が近づく。
旅に出て、5日が経った。
そろそろ清水に近づいてきたのか、塩の香りがする。あたりの人の顔つきも変わってきた。
どこを見てもキリリとした良い男とすれ違うし、小股のキレ上がった良い女に目がいく。
鎌太郎はチラリと太郎と不動をみた。
2人は何とも思わないのかただ歩いている。鎌太郎がこちらを見ている気配を感じ、ん?という顔を鎌太郎に向けた。
もうそろそろ清水かな?
鎌太郎が聞くと2人はそうだなぁ。そろそろ清水だなぁと答えた。
そうか。やはりそうか。
なんでだ?
少し塩の香りがする。
兄貴、鼻がきくなぁ。俺は何も匂わない。
じゃあなんで近くだとわかるんだ?
さっき通った石碑に書いてあったからなぁ。
そうなのか。全然知らなかった!
兄貴、歩くのに慣れてきたからなぁ。気がつかなかったんだな。
そうして歩いていると、目の前に海が見えた。その壮大な景色は鎌太郎が今まで歩いて、溜まっていた疲れを吹き飛ばしてしまうほど美しかった。
ここに帰ってきたかったんだなぁ。石松さんは。この景色をまた見たかったろうになあ。大勢の敵を相手に1人戦って命を落とした石松さんの姿が目に浮かび、鎌太郎は瞳を閉じた。その瞳から、ひと筋の涙が溢れた。
胸の奥のほうが痛くて、そこに手を当てた。胸ではなく心が痛いんだ。
もうすぐだ。急ごうか。と不動が言う。
生まれた日を祝いに来たんだ。そうだよな、兄貴。
ああ、そうだ。生まれた日を祝いに来たんだよ。もうこの世に居ないけど、そこにはいるんだろうよ。よし!急ごうか。
ああ、急ごう。
3人は足早に清水の次郎長一家を目指したのだった。
亡き人を思いしのぶ鎌太郎たちだった。