恋心
鎌太郎の初恋は夕霧だった。
夕焼けが山々をあかく照らす頃、鎌太郎達は屋敷に着いた。
お蝶や皆んなが出迎えてくれた。
石松さんの生まれた日のお祝いかぁ。なんだか何か違うことが待っていそうな気がするねぇ。
と、ヤクザ兼岡っ引きの拓海が言った。
仇討ちでもありそうな気がするねぇ。
と、お蝶が言う。
皆んな片手に酒を持ち、話をアテに好き勝手に言う。鎌太郎も、もしかしたらとは思うけれど、それはまだわからない。行ってからしかわからない。
石松さんはあの若さで、所帯も持たずに亡くなってしまったが、誰か良い人は居なかったんだろうか。
え?兄貴知らなかったか?言わなかったかなぁ、俺。
え?どういう事?
太郎が鎌太郎に石松が鎌太郎のところに草鞋を脱いでいる間、ずっとほとんど一緒に居た女が居たことを話した。その女は、宿場女郎だったが綺麗な人だったという。
鎌太郎は知らなんだ!全然知らなんだ!何故に教えてくれなかった!と嘆いている。
いや、女と遊ぶくらいは普通だから。
俺らヤクザだし。
、、、。そういえば兄貴、遊んでないなぁ。
ちょ、ちょっと待って。皆んなは遊んでいるのか?
まぁ、それなりに。
と大の助が答えた。
、、、。お前らなんか上手いこと、なんかやってるね。俺、根が真面目だから。親分を一生懸命やってたわ。
親分が遊んじゃあ、子分に示しがつかないもんな。そういう親分だから皆んな付いてくるんじゃないか。仕方ねえよ。兄弟。あねさんでも迎えなよ。
そうだなぁ。俺もいい年だしなぁ。
いい人がいると良いね。鎌ちゃん!
お蝶が楽しそうに鎌太郎に言った。鎌太郎はなんだかからかわれているような気がして少し黙った。そして言った。
俺に相応しい相手が居るかどうか。相応しいってどんなかわからんけど、相応しくないとなぁ。
兄弟に似合いの相手か。。難しいな。
兄貴はどんながいいの?
俺か?俺は年上がいい。で、面倒見が良くて、男勝りなべっぴんがいい。
兄貴、その人、旅籠かなんかやってない?
やってるよ。
てことは夕霧さんじゃないか。
ああそうだ。俺は夕霧さんがいいわ。
もうばあちゃんじゃないか?
失礼な事を言うな!おばさんだろ。
それもちょっと失礼じゃないか?
そう言って笑う皆んなと一緒に鎌太郎も笑った。
会いたい人がいるとしたら、夕霧さんだと鎌太郎は改めて思うのだった。
会いたい人は誰にでも居るもんです。