喧嘩っ早い石松さん
喧嘩には理由がある。
良い男なのは良い男なんだけど、頑固というか、なんというか、こうだと思うとそうする。
悪い奴は悪い。約束を破った奴は悪い。
それがシラフな時ならいいけど、酒を飲むともう大変なことになる。よくするのは喧嘩で、相手が誰だろうと向かっていくからタチが悪い。
尻を拭うのはいつも親分の次郎長で可愛いっちゃあ可愛いんだけど、それが何度も何度も続くといい加減、腹も立つ。怒って効くならいいけど、怒るにしても、石松だけが悪い訳じゃない。
理由があって喧嘩は起こる。だがしかし、起こりすぎ。何故に石松ばかりがこんなに喧嘩になるのか考えた。
石松は喧嘩っ早い。特に親分の事になるともう黙ってはいられない。
それに付け込まれ、目の前で親分の事を悪く言う奴がいる。同じように兄弟たちの事を悪く言う奴もいる。石松はそれが1番、我慢ならない。
それだけ、石松は親分思いで、兄弟たち思いの良い奴。だから喧嘩の理由を聞いたら怒るに怒れない。自分の為に怒っている奴を、可愛いくない奴はいない。
それはわかっているが、喧嘩ばかりする厄介な奴でもある。
と小政さんは石松さんのことをそう言っておりました。
鎌太郎: ここへ来た時もそうでした。筋の通った良い男なんだけど、次郎長親分や兄弟分の話になると楽しそうに話してましたよ。家族みたいなもんですからね。皆んなの事を愛しているんでしょう。
石松さんが亡くなったのはそのせいなんですよ。
と新吉は話し出した。
石松さんのことを話す新吉さんの顔は暗くなる。