片目を失った石松さん
石松さんの昔の話
その日は月が綺麗な日でした。酒を飲みながら石松さんのことを話してくれた兄弟の方もいらっしゃいましたよ。
その兄弟の話もね、会っていない石松さんがまるで目の前にいるような話でしたよ。
鎌太郎: ほう。そりゃどんな話ですか?
そう聞く鎌太郎に新吉は嬉しそうに話し出した。
石松さんが清水一家にくることになった話なんですけどね。
もとは、大きな旅籠の一人息子だったそうです。けど親父さんとは血が繋がってなかったそうで、あまりしっかりと叱ることが出来なかったのか、石松さんはグレてヤクザの真似事ばかりするようになって。
親父さんも困り果てていたところ、石松さんに縁談の話がきて、親父さんはこれからは旅籠のあとを継いでやっと真面目にやっていってくれる。とそう安心していたところでした。
石松さんは町でも評判の悪で、その辺りのヤクザから一目おかれる存在で、何かあるとみんなから頼りにされる。良いようにいえばそうなんですけど、悪くいえばただの尻ぬぐい。
でも石松さんは人が良くてなんでも引き受けてしまう。すぐ人を信じてしまうところもあって、騙されることもしょっちゅう。
そのたびに暴れる。裏、表の使い方もわからないから、バカだバカだと言われていたが、石松はただのバカ正直なだけだった。って言いながらその兄弟のお方がホロッと涙を流してね、
あいつはバカだから縁談の決まったお嬢さんの兄貴と口論になって、それじゃ済まなくなって刃物が出てきて、石松はその時に片目をやられちまいやがった。それで泣き寝入りしておけば良かったのにあいつはやり返しに行く!と言って
それ聞いたあいつの親父さんはお前がヤクザとやり合って死ぬのはわかってる。お前が死ぬのを見ていられない。ワシは死ぬ!と言って本当に自分の腹を突いて死んでしまった。死ぬ前に親父さんが言ったんだと。お前がもし、ヤクザに勝って生き残った時には立派なヤクザになれ!と言ったそうです。
片目をやられた石松は仕返しに行って、勝った。
自分でも死ぬと思っていた石松は生き残ったけれど、生きていてももう親父さんもお嬢さんも居なくなってしまって立派なヤクザになれる自信もなくて死んでしまおうとしたところ、
そこで初めて立派なヤクザの清水の次郎長親分さんと出会ったそうで、
石松さんはその頃から次郎長親分の元で立派なヤクザになるべくこの一家にきたそうです。
鎌太郎: 石松さんにはそんな過去があったんですね。人ってのはいろいろあるもんですね。
まだまだあるんですよ。
鎌太郎: 聞かせていただきますよ。
石松さんの昔の話