西・洋・騎・士
先を走る稲が西洋騎士の片方にドロップキックを見舞い、蹴り飛ばす。
俺は残ったほうに刀を振るい、一太刀を浴びせにかかる。
「ギ――ギギ」
錆びた金属が擦れるような深いな音を鳴らし、西洋騎士は剣を上段に構えて振り下ろす。
それは単調な上に緩慢な動きで、見切るのはたやすい。
かるく躱して踏み込み、すれ違い様に脇腹を斬り裂いた。
「中は空洞」
鎧を斬った感触しか手元に伝わってこない。
「ゴーレムの類いか」
創造主の命令を忠実に守る人形。
このダンジョンを造った誰かの命令で動いているのだろう。
「なら、バラバラにするのが手っ取り早いな」
そうと決めてすぐ駆け出し、西洋騎士に肉薄する。
反撃を繰り出す暇は与えない。
まず得物を握る両腕を斬り落とし、得物を取り上げる。
からんと剣と籠手が地面に転がり、無防備となった鎧を切り刻んだ。
「さて」
雨のように鎧の破片が落ちて散乱する。
その光景を眺めつつ、未来視のスキルを使用した。
すると、大量の破片に追いかけ回される自身の映像が脳内に流れてくる。
「しぶといな」
未来視が終わると同時に、バラバラにした西洋騎士の破片が浮遊する。
それらは自らが弾丸の役目を果たすように、回転しながら突っ込んできた。
「古き良きホラーって感じだ」
中身のない幽霊騎士に、勝手に浮かび上がるポルターガイスト。
地球がまだ地球だけだった頃より、もっと昔にあったものだ。
「どうしたもんかな」
迫りくる破片を二つ三つ刀で弾いて、それから駆け出した。
追い掛けてくる鎧の破片は大量にある。
また斬っても数が増えるだけかも知れない。
「ん?」
逃げ回りつつ打開策を思案していると、ふと散らばったままの破片が目に入る。
ほかは浮かび上がって攻撃してくるのに、あれは地に落ちたままだ。
「おっと」
回り込んできていた破片を躱して進路を変更。
散らばったままの破片に駆け寄って、その中の一つを回収する。
「んー……あぁ、これか」
鎧の裏側に描かれた魔法文字。
これがゴーレムを動かしている動力源だ。
この破片の文字は半ばから断ち切れていた。
「つまり、こうされると困るんだろ?」
立ち止まって振り返り、魔法を唱える。
「アイル」
背中に広がる風羽から無数の羽根の弾丸を放つ。
それら一つ一つが破片を撃ち抜き、魔法文字を貫いていく。
負けじと破片は押し進むが羽根の弾幕を超えられず、とうとう最後の一つが打ち抜かれた。
穴の空いた破片がいくつも転がり、宙に浮かぶものはなくなった。
「これで仕舞いかな」
風羽を掻き消して一息をつき、刀を鞘に納める。
「――」
その刹那、今まで沈黙していた西洋剣が飛び出し、俺の右肩を貫いた。
鮮血が舞い、壁へと縫い付けられる。
表情に苦痛が浮かびながらも、無理矢理に刺さった剣を引き抜く。
そして、夥しい量の血液が流れ落ち、血だまりの形成する。
「俺もまだまだ詰めが甘いな」
そこで未来のビジョンが終了し、現実に戻ってくる。
目の前では先ほどと同じ光景が目に映り、浮遊した剣が飛び出してきた。
「それはもう見た」
柄を握り、抜刀し、弧を描いた太刀筋が、西洋騎士の剣を半ばから断つ。
からん、からんと、剣先と柄が転がった。
「本当に、これで終わりだな」
未来のビジョンを見て確認する。
たしかにこれで終わりだった。
「ふぅ……そうだ、稲は」
視線を残骸から稲へと向けると――
「あははははははははっ!」
笑いながら西洋騎士の鎧を踏み砕いている稲の姿が目に映る。
何度も何度も足を下ろし、念入りに粉々にしていた。
四肢の先端はすでになく、胴体もほとんど粉々だ。
残すところは兜のみ、それすらも稲の細い足によって破壊される。
「剣も壊したほうがいいぞ」
そう言うと稲はすぐに剣を真っ直ぐに振り下ろし、浮かび上がろうとしていた西洋剣を鋒で貫いて地面に縫い付けた。
「剣は……盲点……ありがと、です」
あ、オフになった。
「俺も一杯食わされたからな。未然に防いだけど」
貫かれていたら即撤退だ。
その足で病院に向かうところだった。
「ちょっとしたトラブルもあったけど、ここまでは順調だな。一応」
この広場はちょうどダンジョンの中心に位置している。
深度壱のダンジョンなら、クリスタルがあってもいい場所だ。
だが、俺達が挑戦している深度弐はまだ終わらない。
寧ろ、ここからが本番のつもりで攻略に望まないと。
「まだ疲れてないよな?」
「大丈夫……行け、ます……最後まで」
「その意気だ。じゃあ、行こうか」
脅威を一つ乗り越えて、ダンジョン攻略はまだ続く。