表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/18

能・力・上・昇


「あははははははははっ!」


 大振りな剣撃が四足獣型の魔物を引き裂いて血飛沫を浴びる。

 狂化状態の稲はそれを気にも止めず、次の獲物に目をつけて跳ねた。

 俺はその光景を視界に納めつつ、未来視のスキルによってこの後の展開を見た。

 稲は側面から跳びかかってきた魔物に牙を突き立てられている。

 ただそれに怯むこともなく狙った獲物を突き殺し、脇腹に食らい付いた魔物の頭蓋を柄頭で粉砕していた。


「流石、バーサーカー」


 そんな未来を見て感心しつつ、稲が噛み付かれないように対処する。

 今まさに稲に跳びかかった魔物に向けて魔法を放った。


「ウォータージェット」


 超高密度に束ねられた圧縮水流。

 弾丸のように、光線のように伸びた一条が跳ねた魔物を貫いた。

 その牙が届くことはなく地に落ち、稲は狙いを付けた獲物を突き殺す。


「ふう」


 狂化状態の稲はたしかに強く、一対一ならほぼ勝てる。

 だが、いかんせん周りが見えておらず不意打ちに弱い。

 メメさんがスキルの性質上ソロは危険だと言っていた理由がこれだろう。

 うまくサポートできるのは、未来が見える俺くらいなものだ。


「ラスト、もーらい!」


 最後の一体となった魔物が跳ねると共に、稲の得物が投擲される。

 その剣は見事に腹部を貫いて、ダンジョンの壁に縫い付けた。

 藻掻き苦しみ、魔物は息絶える。

 これでこのダンジョンも攻略完了だな。


「よっと」


 壁に突き刺さった剣を引き抜き、血を払って稲に手渡す。


「ありがとう……です」


 稲はお礼を言って剣を鞘に納めた。


「魔物も全滅したし、あとはクリスタルだな」


 横たわる亡骸を躱して台座のもとに向かい、クリスタルと手に取る。

 光の粒子となったそれを吸収し、また存在の次元が引き上げられた。


「あっ」


 そうすると稲がなにかに気がつく。


「どうしたんだ?」

「よく……わからない、けど……変な感じ、しました」

「変な感じ? もしかしたら今のでレベルが上がったのかもな」


 俺がレベルⅡに上がったときは自覚がなかったけれど。


「とにかく、一度メメさんのところに戻ろうか」

「……そう、します」


 足下に魔法陣が展開され、俺達はダンジョンの入り口まで転移した。


§


 跳ね橋を渡って街に戻り、その足で冒険者管理協会へと向かう。

 その道中、繁華街を歩いていると隣にいる稲が色んな人達から声を掛けられる。


「あら、稲ちゃん。お帰りなさい」

「今日も無事みたいで安心したよ」

「隣のあんちゃん、稲ちゃんを頼んだよ」


 稲の隣を歩くときは、いつも見ず知らずの人達からこう言った言葉を掛けられていた。

 毎度毎度こうだと、流石に気になるな。


「なぁ、稲。聞いてもいいか? この状況のこと」

「……稲、狂化スキル……制御できない、から」


 稲は話してくれた。


「……喧嘩、とか……ひったくり……反応して、発動する」

「あぁ、そう言うのを制圧してるうちに、か」


 喧嘩は周りからすれば迷惑でしかないし、ひったくりを制圧したならヒーローだ。

 狂化状態の副産物とはいえ、周囲の人たちから慕われる十分な理由になる。


「でも……たまに……やりすぎる、から……直したい」

「そっか」


 稲も色々と大変だな。


「――誰か! あの人、捕まえて!」


 不意に女性の叫び声が聞こえて、そちらに目が向く。

 見ればバックを抱えた男が逃げていく姿が見える。

 噂をすれば影とはよく言ったものだ。

 このタイミングでひったくりが起こるとは。


「って、ことは」


 すでに狂化しているだろうと稲を見る。

 けれど、その様子はなかった。

 いつもの伏し目がちな無表情のままから変わらない。


「……あれ?」


 とうの本人も困惑していた。


「あぁ、不味い」


 やっぱりレベルⅡになっていたんだ。

 たしかメメさんは任意でオンオフが出来るかも知れないと言っていた。

 それが正しいなら今の稲はスキルをオンにしないと狂化状態にならない。

 自動発動がデフォルトだったせいで、自発的にオンにするという考えが出てこなかったんだ。


「なら、俺が!」


 未来視のスキルを発動し、ひったくり犯の逃走経路を予測する。

 そして千里眼で周囲の状況を俯瞰視点から把握し、魔法を唱えた。


「フェザーバレット」


 魔力が集い、羽根を模し、弾丸のように飛ぶ。

 それは駆け抜ける風のように行き交う人々避け、逃げるひったくり犯の背中に直撃した。


「ぐえっ!」


 羽根が弾けて衝撃が拡散し、肺の空気をすべて外へと吐き出させる。

 これでしばらくは呼吸に精一杯で立ち上がれないはず。


「よくやったぞ、にいちゃん!」

「流石は冒険者さんね!」

「ざまぁみろ、ひったくり野郎め!」


 巻き起こる拍手にすこし戸惑いつつ、ひったくり犯のもとへと向かう。


「バインド」


 そうして四肢を魔法で拘束し、然るべき行政機関に連絡する。

 すぐに来てくれるみたいだ。


「反応……できなかった」


 連絡が終わると、側に稲が来ていた。

 その様子からして落ち込んでいるみたいだ。


「最初は戸惑うものだよ。俺もそうだったから」


 これから慣れていけばいい。

 まぁ、俺もつい最近になってレベルⅡになったから、偉そうなことは言えないけど。


「うん……これから、稲……がんばり、ます」


 それから警察が現場に駆けつけ、ひったくり犯は御用となった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ