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迷・宮・攻・略


「よし」


 意を決して中難易度ダンジョンへと入る。

 ダンジョンは一つ一つ内部が異なり、今回は洞窟のようなものだった。

 足を進めるたびに湿度が増し、天井からは水滴が落ちて水溜まりに波紋を描く。

 ぴしゃりぴしゃりと水音だけを聞きながら通路を進むと、別れ道に行き当たる。


「試してみるか」


 いつもは水晶玉を片手に発動する未来視のスキルを空手で使用する。

 すると、あの時のように脳内に直接、未来の映像が流れ込んできた。

 それには左の通路を進んだ俺の姿が映っており、罠を踏んで負傷した上に行き止まりに行き着いていた。

 次に映像が切り替わり、右の通路を進んだ場合の未来視が流れてくる。

 こちらは何事もなく次の分岐まで進めていた。


「……右だな」


 この未来視が正しいなら右の分岐に進むべきだ。

 ただ以前の的中率は五十パーセント未満だったこともあり、警戒して右へと舵を切る。

 慎重に洞窟型ダンジョンを進み、水音や吹き抜ける風の音にまで細心の注意を払いつつ、無事に次の分岐にまで辿り着けた。


「ふぅ……一応、当たってたか」


 こうして未来視を駆使してダンジョンを進んで行く。

 途中で何度も危険な目に遭う自身のビジョンを見つつ、それを回避しながら最奥を目指す。

 そうして一度として魔物に遭遇することなく、最奥の付近にまで到達できた。


「今のところ……的中率百パーセントか」


 通常、ここまで来るのに十から二十回ほど未来視を外す。

 けれど、今回は一度として外れていない。

 すべて未来視のビジョン通りに事が進んでいる。

 まだ断定は出来ないけど、やっぱり存在の次元が引き上げられたことで、未来視のスキルが変化したんだ。


「なら……」


 視線を持ち上げると、すでにクリスタルの輝きが見えていた。

 その手前にはこれ見よがしに空洞が広がっている。

 円形の広場を縁取るように水で満たされていた。


「もう一度……」


 未来視のスキルを発揮し、未来を見る。

 そうして脳内に流れたのは、広場の半ばまで進んだところで唐突に背中を斬り裂かれるビジョンだった。


「今の……」


 見えない何かに斬り裂かれた? 遠距離攻撃か? それとも透明な魔物か?

 どちらとも言い難いが、斬り裂かれる位置とタイミングは把握できた。


「よし」


 意を決して空洞の広場へと足を進めてる。

 半ばまでいたり、あと三歩で背中を斬り裂かれてしまう。

 一歩、二歩。

 そして、三歩目を刻んだその瞬間、抜刀して振り向きざまに一刀を見舞う。

 描いた剣閃は虚空を斬り裂いたかに見えたが、刀身を介して伝わった感触は確かなもの。

 今、見えない何かを斬った。


「ギャアァアアァアアアアアッ!」


 虚空から叫び声が上がり、なにもない所から魔物が出現する。

 鏡のような鱗を持つ、魚人型の魔物だ。

 光の反射を利用して姿を透明に見せかけていた。


「まだ他にもいるはず」


 周囲を見渡して目をこらしてみるも、姿をまったく捉えられない。

 刀を構えて音に神経を集中していると、今度はかるい頭痛に襲われる。


「いっ――あ?」


 何事かと思った瞬間、自身の右腕が血で濡れていた。

 痛みはないのに流血している。

 その現象に理解が追いつかなかったが、次の瞬間に風を斬ったような音がする。

 咄嗟にその場から飛び退くと、右腕に鋭い痛みが走った。

 透明な魔物の爪に引き裂かれ、先ほどみたものとまったく同じ形で流血をする。


「もしかして、これも」


 次に自身の胴体が痛みもなく流血する。

 その様をよく見ると、自身がダブって見えていた。

 これは未来の自分なんだ。

 今の自分に、未来の自分が映し出されている。


「――」


 そうと気がついてすぐ刀を振るい、前方の虚空に鋒を突き出した。


「ギャァァアアァァアァアッ!?」


 肉を貫くたしかな感触と共に、右手の爪を振り上げた魔物の姿が現れる。

 胴体を貫かれたそれは力なく倒れ込み、これで亡骸が二つになった。


「少しずつわかってきた」


 自身に映し出される未来の自分を見て、負傷箇所から敵の位置を割り出せる。

 そこへ刀を振るえば刀身は必ず透明な魔物を斬り裂いてみせた。

 そうして更に三体、四体、五体と亡骸を重ねると、ついに魔物が姿を見せ始める。


「ギュルルルルルルッ!」 


 透明化の意味がないと判断したのか、純粋に俺を仕留めに掛かってくる。

 地面を蹴って肉薄し、自慢の鋭い爪を薙ぎ払う。

 しかし、その様でさえも俺にはダブって見えていた。


「こういうふうにも使えるのか」


 現在の敵に未来の敵の姿が映し出されている。

 俺はすべての攻撃に対して、一手先を読むことができた。

 振るわれる爪撃も、吐き出される水弾も、タイミングと軌道が予知できれば躱すのはたやすい。

 俺は広場中を駆け回って魔物達をかく乱し、仕留められる敵を確実に仕留めていく。


「これで最後!」


 そして最後の一体に刀身を振るい、白刃が魔物の胴体を斬り裂いた。


「ギャァ……アァ……」


 断末魔の叫びを上げて命が潰える。

 これでこの広場に出現した魔物はすべて討伐した。

 最後に未来視をして、本当に全滅させたかを確認する。

 脳内に流れるビジョンではたしかにクリスタルを手にした俺が映っていた。


「よし! ソロ制覇、完了っと」


 クリスタルを手にし光の粒子を吸収する。

 これでまたすこし存在の次元が引き上げられた。

 中難易度のダンジョンとだけあって、吸収した粒子の量が多かった気がする。


「これなら」


 一度は引退も考えたが、これならまだまだやれるはず。

 拳を握り締めて、希望を抱く。

 俺はそのまま足下に展開された魔法陣によって入り口まで転移した。

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