秘・密・部・屋
広場を抜けて厳粛な雰囲気の漂う通路を歩く。
幸いなことに石像はなく、追いかけ回されることはなさそうだ。
その代わりなのか、通路の壁には美しい絵画が飾れていた。
主に風景画ばかりで、見ていると額縁から外に通じていそうに思えてくる。
この絵画も持ち帰れば高値で売れそうだけど、残念ながら大きすぎて個人で持ち帰るのは困難だ。
異次元にも収納できそうにない。
「んー……んん?」
警戒しつつも絵画を眺めながら通路を歩いていると、ふと違和感を覚える。
立ち止まって、壁を見つめて、首を傾げた。
「なにを……見て?」
「いや、千里眼によるとここに空間があるはずなんだけど……」
周囲の構造を考えるに、ここにすこし大きめの空間があるに違いない。
けれど、視界に映っているのは磨かれた石材の壁のみ。
入り口もここ以外にはあり得ないはずだが、はてさて。
「なんだか気になるな」
壁に近づいて手で触れてみる。
石材の硬さや冷たさ、滑らかさを指先に感じるが、とくに変わった様子はない。
「んー……」
指先に力を加えつつ、真っ直ぐに下ろしてみると不意に壁の一部が沈み込む。
「お?」
手の平を当てて押し込むと、なにかが噛み合うような音がする。
すると壁の内側で装置が動いたのか、音と振動を伴って動き出す。
それは目の前から壁を排除し、隠し部屋を俺達に晒した。
「わーお」
「す、すごい……」
隠し部屋には数々の財宝が保管されていた。
壁に飾られた絵画、ガラスケースのうちに光る宝石、それらが鏤められたアクセサリー、箱から溢れんばかりの金貨、絢爛な鞘に包まれた宝剣、などなど。
総額はいったいゼロが幾つになるだろう。
金額を想像するだけで胸が躍った。
「早速――っと、待った」
油断して罠にでも掛かったら笑えない。
部屋に入る直前で踏み止まり、きちんと未来視のスキルを使用した。
そうして見えたのは、肩を射貫かれて負傷する自身の姿だった。
しかも毒矢だったのか、傷口がぐずぐずに溶けている。
「今日はよく肩を負傷する日だな」
そう言いつつ隠し部屋に足を踏み入れる。
瞬間、左右正面から矢が放たれた。
それらを刀の一振りで一掃し、時間差で放たれた最後の一本を左手で掴み取る。
「これだけ毒が塗ってあるのか」
鏃に紫色のいかにも体に悪そうな液体が塗られていた。
未来の映像ではこれが肩に刺さっていたようだ。
回避できていなかったら引退ものだな。
なんとも殺意が高くて恐ろしい話だ。
「これでもう大丈夫だな」
安全に処理するために毒矢だけ別の異次元に収納し、部屋の財宝に手を伸ばす。
随分と豪華な装飾が為された杯を手に取ってみる。
見た目以上にずっしりと重くて、普段使いには向いていないように思えた。
「こんなので飲んだら、酒の味なんかわかんないだろうな」
まだ未成年だから酒なんて飲んだことないけど。
「稲、好きなのを先に幾つか選んでおいてくれ。あまったのを山分けしよう」
「あ、あの……稲、なにもしてないです……から」
そう言って稲は後ろ手に手を組む。
「遠慮してるのか? ダメだぞ、自分の取り分はしっかり主張しないと」
「でも……見つけたのは、未来さん……だから」
「二人でダンジョンに入ったんだから、二人で見つけた財宝だよ」
そう言って視線を財宝へと向け、その中の一つを手に取る。
「ほら、手を出す」
それでも遠慮がちに稲は手を出し、俺はその手を握ってペンダントを渡した。
「俺のおすすめだ。きっと稲に似合う」
稲はしばらくそれを見つめると、ぎゅっと握り締めた。
「うん……ありがと、です」
結局、稲は俺が渡したもの以外を選ばなかったけれど、ほかの財宝はきっちり二等分した。
こうやって無理にでも平等に分けたほうが後腐れがなくていい。
関係も長続きすると言うものだ。
「さーて、と。懐も暖かくなったことだし、クリスタルを目指そう」
「はい」
隠し部屋を出て通路に戻り、ダンジョンの最奥を目指す。
すでにこのダンジョンも三分の二を通過した。
あともうすこしでクリスタルに手が届く。




