五幕 隊長
実技試験が進んでいる中、
スペリオル隊長である宇塚は戦闘訓練所の待機室で受験生の資料を確認していた。
「…確かに報告通り今年は珍しく粒ぞろい、と言ったところか」
受験生の資料を見ながらそう独り言を漏らす宇塚。
過去数年は大した実績を持ってもいない、実力も足りないといった受験生ばかりだっただけに、
今年の受験生は実績、実力ともに十分な者が数名見受けられる事に宇塚は気分が高揚していた。
「珍しくお前が戻ってると思ったら、成程、今年は粒ぞろいだったって事か」
「それはこっちの台詞だ。しばらく帰ってこないと聞いていたが?」
「李が後処理をしてくれるっていうんでな。厚意に甘えて帰って来たってところだ」
銀髪で長髪の男が宇塚にそう答える。
「俺としてはお前の顔は見たくもないんだがな、帯刀」
「相変わらず手厳しいことを言うな宇塚」
帯刀と呼ばれた男は苦笑いをしながらそう返す。
【帯刀忠成】。ストラグルの創設者の一人であり、隊長でもある人物。
戦闘能力を求められるストラグルの中でも随一の技術を持ち、メンバーをまとめ上げる圧倒的なカリスマも兼ね備えた人物としてΔ内で知らない人はいないともいわれる人物である。
「手厳しい?そもそも俺はスペリオルがストラグルの裏方だという認識を世間が持っているのが気に入らない。
ストラグルなど戦闘能力だけの集団が羨望の対象だと?笑わせてくれる」
「…俺が戦闘能力だけと言われるのは構わないが、ストラグルの事を悪く言うのは黙ってられないな」
「ふん、今のは言いすぎた、謝罪しよう。俺はお前が気に入らないだけだからな」
宇塚と帯刀はアヴァネクサス入隊時から犬猿の仲として有名だった。
戦闘能力では帯刀が勝るが、統率能力などは宇塚が優秀、といった風に二人はいつも何かしらで競い合ってきた。
今はお互い隊の隊長となったがストラグルばかり有名になっていくので宇塚は当然面白くなかった。
「それで粒ぞろいとは言っていたがスペリオルに入隊するような奴は居たのか?」
そう帯刀が聞くと同時に宇塚は受験生の3人の資料を出した。
「今回ならばこの3人が該当者になる可能性がある。
【扇町朱音】、【堂島煉】【相沢織】。この3人だ」
「扇町は【ミズガルズ】の小国の姫で筆記試験は満点、実技の方も実力はあるだろう。
堂島は放浪の医師として戦場を駆け回ってたという経歴を持っている。筆記試験も申し分なく判断力も優れているだろう。ただ本人はクリサリス志望らしいがな。」
淡々と資料を見ながら説明していく宇塚。
「そんでこの相沢って子は【第四機動隊】出身って書いてあるな。
へー確かに去年とかに比べてかなり良いやつばっかりじゃないか」
帯刀は相沢の資料を見ながらそう呟く。
第四機動隊という単語に反応して宇塚がその後に続ける。
「第四機動隊はお前の所に居る桃谷が前に属していたところだったな。
桃谷の後輩なのだったらある程度の実力があることは間違いないだろう」
【桃谷李】。帯刀の秘書でもある彼女は以前、第四機動隊のメンバーだった。
そして、帯刀の秘書でありながら最前線で戦う彼女もまたストラグルの狭き門をくぐった一人である。
「それに関しては俺も同意見だな。筆記試験の出来具合的にもある程度の期待はもてそうだ」
「だが…3人ともストラグルには相応しくないな」
帯刀はそう言うと相沢の資料を宇塚の目の前に置き、代わりに1枚の資料を手に取った。
「だが今年は…こいつの戦闘センス次第ではストラグルに新メンバーが加わるかもしれん」
帯刀がそう言うと宇塚は豆鉄砲でも喰らったかのような顔になった。
「この3人以外にストラグルに入隊の可能性がある奴がいる?
全ての資料に目を通したがそんな奴は他に居なかった筈だ!」
「まあ見てればわかるさ。そんじゃあ俺は天満の様子を見てくるとするかね」
帯刀は静かに持っていた資料を置き、部屋を出ていく。
宇塚はその資料を見るが、疑問しか頭には残らなかった。
「【フォスク=イルム】…?筆記試験は平凡、特に目立った実績もないこいつが…?」
急いで理由を聞こうと宇塚は部屋を出るが、帯刀の姿は既になかった。