四幕 力の差
試験は滞りなく進んだ。
滞りなく進んでしまったというべきなのだろうか。
本来、実技試験は複数の試験官がそれぞれ1対1の実戦形式で、戦闘技術や判断力などを見る…というものなのだが、今回は試験官が天満さんただ一人。
「他の試験官を用意するよりも俺一人のほうが早く済みますんで」
と直前に決まったらしい。
しかも一度に複数人を相手にしている。
「215番、上空からの奇襲攻撃に対する防御行動が少し遅い」
「217番は相手の出方を窺いすぎだ」
ただただ凄い。
5人同時に相手をしているだけでも信じられないのだが、的確に受験生の弱点を見抜きアドバイスしている。
「よし、ここまでだ。試験結果は後で張り出されるから本部前の掲示板を見るように」
最低限の戦闘で相手の実力を見抜き、それを軽くいなす。
これがストラグルの副隊長の実力なんだと思い知る。
「す、すげぇ…まだ実技試験が始まって1時間もたってないぜ…」
煉がそう言うのも無理はない。
例年なら250人の実技試験をすべて終えるのにかかる時間は2時間と言われている。
現に受験票の予定にもそう書いてある。
にもかかわらず、それをたった一人で1時間足らずで済ませてしまっているのだ。
今年の受験生は逸材ばかり、その逸材たちが全く相手にされず試験を終えていく。
ただただその光景に圧倒される受験生。
当然私や煉もその中の一人だった。
「もうすぐ私たちの出番…」
番号が近づいてくる。
興奮なのか恐怖なのか解らない感情、さっきからずっと心臓の音が頭に響いて鳴りやまない。
奇跡でも何でもいい。私に力を貸して。
そしてどうか、どうか上手くいきますように――今はただ、そう願うことしかできなかった。