三幕 衝撃
「そこまで!試験官が用紙を回収するので待機するように!」
試験官の声が会場に響く。
その瞬間至る所から溜息や、喜びの声が聞こえてきた。
「お疲れさん。イルムは筆記試験どうだった?」
用紙が回収された後、煉が聞いてきた。
「まあまあ、ってところだと思う」
そうは返したが、実は自信がなかった。
記憶で何とかなる範囲は完璧、しかし思ったより計算系の問題が多かった。
全然ダメ、というほどではなかったがハイレベルな争いに加われるかどうかと言われると微妙だろう。
「俺もそんな感じかな。まあ大事なのは実技だからな、ここで一気にアピールするぜ!」
煉は次の実技試験に向けてもう意気込んでいるみたいだ。
正直、実技は計算よりも自信がない。戦闘技術は全然の私にしては地獄の試験内容であることは間違いない。余った筆記試験の時間、ここをどう突破するかをずっと悩んできたぐらいだ。
「試験会場が戦闘訓練場に移動するみたいだね、一緒に頑張ろう!」
不安を隠しながら煉にそう言い席を立ちあがる。
「そうだな!そんじゃあ訓練場に向かおうぜ」
私は煉と一緒に訓練場に歩き始めた。
戦闘訓練所に着くとさっきの試験場の2倍ほどの人が集まっていた。
これだけの人数の中受かることができるだろうか、そんなことを考えていると放送が流れてきた。
「受験生の諸君、筆記試験ご苦労だった。」
私達は後ろにいるので良く見えないが、前の檀上に立っている赤い髪の男の人、どうやらこの人が喋っているらしい。
「私は実技試験の試験監督を務める【宇塚秋吾】だ。
スペリオルの隊長でもある」
「マジかよ!?スペリオルの隊長が直々に試験監督をするだって!?」
煉が驚いているのも無理はない。
例年なら実技試験はノクチルカの【新庄紬】副隊長が務めているからだ。
スペリオルの隊長はとても多忙で戦場を常に駆け回っている。
その隊長が自ら受験生の試験監督を務めるというのだから、驚くに決まっている。
「それほど今年の受験生は逸材が多いってことなんでしょうね…」
更に落ち込んでしまうような事態だが不思議と私は落ち着いていた。
奇跡が起こって上手く実技ができたとしたらむしろ目に留まって合格、なんてこともあるかもしれない。
元々ダメもとの実技試験だったのだからこれはプラスだと思えた。
「今回も例年通り、試験官との手合わせによる実技試験となる。
そして今回はもう一人特別試験官を呼んでいる」
そう宇塚隊長が言うと隣に高身長の男性が壇上へ上がった。
その瞬間、会場がざわめいた。
「どうも、俺はストラグルの副隊長、【天満=ハイドリヒ=遊一】です。フルネームは長いんで天満って呼んでもらえると助かります。
今日は俺も試験を手伝わせてもらいます」
信じられない。
ストラグルの副隊長で隠密行動なら世界一とも言われている天満さんが試験官だなんて。
私の憧れのストラグルの副隊長の前で実技試験。
さっきの楽天的な考えは一瞬で消え去った。
「嘘だろ…?豪華なんてレベルじゃねぇ、ストラグルのメンバーが試験官だなんて伝説の第1回の試験ぶりだぞ!?」
煉は興奮しているのか驚愕しているのかわからないような声で叫んでいる。
「今回の実技試験は数人の相手をする予定なんで、担当になった人はよろしくお願いしますね」
天満さんはそう言って下がっていった。
「天満さんと戦える…!?」
会場のどよめきは更に大きくなる。
試験に合格できるできない以前に天満さんと手合わせするという事実。
ストラグルのメンバーと手合わせをする経験なんて一生に一度あるかないかの事だ。
当然選ばれたい。誰もがそう思う。
――私は頭が真っ白になってそれどころではなかった。
目の前で憧れの人の戦闘を見れるだけでも凄いのに、もしかすると自分と手合わせしてくれるかもしれない。
心臓が今にも飛び出しそうな中、実技試験が始まった。