第4話 お母さん
「だめ!裕介に何するんですか?」
未来が見てしまったのは、校長が裕介を殴りかかろうとしているところだった。校長は、悪びれた様子は全くなくむしろ邪魔されて怒っていた。
「君は誰だ。急に入ってきて。」
未来は校長の顔をまじまじと見た事がなかったがとても顔が整っていて何よりとても若いのにとても驚いて呆気に取られていた。
「あ、うちは未来です。校長こそこんな事していいと思ってるんですか?いくら校長でも暴力なんて!」
「未来?君もしかして…裕介のパートナーか?なるほどな、良かったな、裕介。こんな友達がいてくれて。」
そう言うと校長は裕介の方を見てにやっとした。まるで何かを企んでいるかのように。
「まあ今回の所はこの子に免じて見逃してやろう。でも調子に乗らないようにな。じゃあな。」
校長は意外にもあっさりと引いて去っていたので未来は少し驚いた。
「なー、裕介?大丈夫か?何があったの?」
ずっと心配そうに見ていた広斗が裕介に話しかけた。
「あー広斗、大丈夫だ。すまねえな。俺ちょっといつもんとこ早いとこ寄るわ、あ、後ブスもとっとと帰れよ」
「ちょっと!せっかく助けたのに酷い奴だな!全く。」
「えっと、未来帰ろっか。」
「うん!」
※ ※ ※ ※ ※
「そういえばさ、広斗って好きな子いる?」
「え!どうしたの急に。まさか好きな人でもできたの?」
「いや違うよ!広斗の事好きって言う女子多いからなんか気になって。」
「そうなんだ。まあいるけどね、好きな人。」
「え!誰?知りたいなあ!」
「……」
広斗は一瞬言ってしまおうか迷った。自分の好きな相手は未来であると。だけど、それを言ってしまってはいけないと思った。裕介にとって未来は必要な人物となる可能性があると思っていたからだ。それでもやっぱり未来への想いは相当なものだと自分で気づいていた。未来と居ると気持ちがどんなに辛い時でも明るくいられるのだ。
「あ、無理して言わなくていいよ?」
「未来。」
「え?」
「になったら言うよ。もう少し先の未来で。」
「う、うん。」
広斗は思わず言ってしまう所だったが、鈍感な未来なので全く気づかなかった。
「お母さん!こっちこっち!」
未来と広斗の前を小さな女の子がはしゃいで来た。
「こら、香苗、待ちなさい。あ、ごめんなさいね。」
「お母さん!ずっと一緒だよ!」
「はいはい、当たり前でしょ。」
「当たり前か…」
未来はお母さんを小学校に上がる前に亡くしていて、お母さんと小さい子供が楽しそうにしているのを見ると時々胸が痛んだ。
「お母さん…」
「未来……」
広斗は未来は周りを気遣えて、明るく出来るひまわりのような人だけど、自分の事は少し溜め込んじゃう所があるなと感じていた。そしてそれは裕介に少し似ていると感じていた。
「あ、ごめんね!つい…ね」
「いいんだよ。無理するなよ。な?」
「うん。ありがとう。」
未来は、スクールバッグにあるお母さんの写真を取り出して大丈夫だと心に言い聞かせた。そして、少し泣きそうになるのをぐっと堪えて雨が降りそうな空を見上げた。