歴史変えちまい隊の第二の主人公、今井俊哉の物語り
コレが始まったのは、確か、両親が離婚した頃だったと思う。
「怖い夢を見るんだよー、おばあちゃん!怖いから寝たく無いんだよー!」
「おばあちゃんと寝れば大丈夫だから、心配すんな俊哉。たかが夢だからな、何にも怖いことなんて無えんだよ。」
俺は、父親の方の祖母に引き取られ、育てられた。
確か、小学2年の時だ。
おばあちゃんは、毎日俺と一緒に寝てくれた。怖い夢を見て、目を覚ました俺をなだめすかせて寝かせてくれた。きっと、ばあちゃんは、両親が離婚した事が原因で、俺が悪夢を見るようになったと思っていたに違いない。亡くなる時まで、俺が悪夢を見ることを心配していた。俺が18歳の時である。
父親は言った。
「お前にはすまないが、この金で、縁を切ってくれないか?…俺には、家庭がある。お前はもう大人だろう?これくらいの金があれば、しばらくやっていける。この家は、お前にやるから。頼む、縁を切ってくれ。」
縁か…縁なんてあったんだな。
あんたの事はどうだっていい。
俺の家族はばあちゃんだけだ。
俺は頷いて、茶封筒に入った金を受け取った。
しばらく、しばらくの後、俺はどうなるんだろうな?
父親の言った通り、しばらくの間、俺は一人で暮らすことが出来た。金はなるべく減らさないように、俺は、慎重に暮らした。しかし、一年後、金は底をつき、俺は食べるためにアルバイトを探し、深夜の警備の仕事に就いた。19歳の冬である。
俺は気力に欠けていた。
何の気力かというと、生き続ける気力だ。
しかし、死ぬことも出来なかった。それは俺が、見続ける悪夢のせいであった。俺は死の恐怖を知っていた。
「おい、今井、お前また屋上に行っただろ?止めろって、お前さ、飛び降りて死にそうだから嫌なんだよ。職場で死亡事故とか最悪だからさ。死にたいなら他のところでやってくんない?」
「はは、死にませんよー、そんなこと怖くて出来ないっすから俺。屋上は気分転換したくて行くだけっすから、変なこと言わないで下さいよー。」
「なら良いけどさ。お前、いつ見ても目がヤバいから、なに?寝てないの?不眠症?」
「あー、近いっすねー。いや、逆かな?うーん、俺、寝るの嫌いなんすよねー。嫌な夢ばっか見ちゃうもんで。つい、寝ないようにしちゃうんっすよー。」
「ふーん、まあ、業務に差し支え無いようには、寝ろよ。責任取るの俺だからさ、そこだけはよろしくな。」
「はーい、了解っすー。」
「お前、見た目と態度に違いありすぎ。」
その頃の俺は、3日に一度、気絶するように眠り、悪夢によって起きる、という生活をしていた。そのため、常に顔色は真っ青で、目の下にはクマがあり、目の焦点がいまいち定まっていなかった。死にそうなやつに見えるのも、もっともであった。
きつい。
毎日が辛い。
死なないなんて言ったけど、これから先、どうするか分からない。
深夜、俺は眠らないように、コーヒーを毎日飲んでいた。そのうちに、美味しいコーヒーを飲むことが、俺の楽しみになっていった。
「自分でブレンドとか、してみっかな〜。」
2月。
冷え込む日だった。
俺は屋上の鍵を開け、外に出る。
寒い。
でも空気が澄んでいる。
俺は空を見上げた。
「空に落ちることが出来たなら、きっと俺は、とっくに落ちてただろうなー。なんって。」
靴音がした。
同僚じゃない。
「誰?一応、鍵閉めてたんだけど、どうやって入ったの?」
俺の持つ、ライトに照らされた人物は、イギリス紳士のような姿で立っていた。
「入ったのではありません。現れたのです。今井俊哉さん。」
「現れたって、それに、俺、あんたに会ったこと無いと思うんだけど、名前、なんで知ってんの?」
「あなたには、大変貴重な、そして高度な予知能力がある。今日、この時、あなたのその能力は、最大に強まることに成功しました。よく、耐えて下さった。大抵の方々は、死、を選びます。」
「ちょっと、よく分かんない。で?あんたはどうして現れたの?」
「あなたをお連れするためですよ。今井俊哉さん。あなたの悪夢はもうお終いです。その力を我々、未来のためにお貸し願いたい。」
「貸すって、あげたいくらいなんだけど。悪夢が終わりって本当?」
「はい。あなたが我々にご協力して頂けるのなら。」
「なんか怪しいけど…俺マジで限界近いからさ。良いよー。協力する。」