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とあるタイムマシンの行方

タイムマシンの真実

作者: かげる

 虹彩(こうさい)が瞳孔を大きくしている。これが彼女の生まれついた性質だった。暗がりでも明瞭(めいりょう)に視界の映像をとらえることができる。彼女には名前が無かった。自然エネルギーの枯渇(こかつ)した暗黒の世紀末には名前など必要の無いものだからだ。


 そんな人間がタイムマシンに乗り、過去に行き着いた。ドドドドという振動はやがて止まり、出口に向かう。彼女の心拍数は正常値だった。冷静な態度で『開く』ボタンを押す。


 開いた出口の先に見えた光景に一言。


「おおう。どうやらバカな時代に来てしまったんだな。別に珍しくもないんだけど」


 彼女は嘆息(たんそく)しながらも足を踏み出した。


「…お前は何だ⁉︎」


 白衣を身にまとった男達が、戸惑っている。どの顔も似た表情をしている。彼女は「ちょっとやばいかな」と苦笑い、室内を見渡す。無数にケーブルが束ねてある先に、大型の球体があった。彼女が乗ってきたのとよく似た、形状だった。


「お、おい、その機械に勝手に触るな! おい、誰かそいつを止めろ!」

 

 体躯の良い大人が、彼女を掴みにかかった。


 それを、いとも簡単にかわす。まるで『未来を予知していた』かのような、あまりにもスムーズな動きだった。


「なんだ、こいつ」


 不敵な笑みと目の深淵な黒が、この場所にいる研究者達を、戦慄させる。こいつはやばい、と本能で、察知した彼らは、増援を呼ぼうと、部屋を出た。


 その隙に、彼女は、人間が入れるほどの大きさの球体に、触れた。指先の感触から、それが『タイムマシン』だと、理解した。さっき乗ってきたのより、少し大きくて、頑丈そうだ。ふと、床にプリントが落ちていることに気づいた。それには、機械の設計図が書いてあった。


「…


 …そうか。そういうことか。これは」


 抑揚のない声で、つぶやいた。


 足音が近づいてくる。十人もの警備服をきた人間がやってきていた。


 彼女は瞳から、無駄なものを流した。これは、人間が激情したときに流すものだ。機械には不要な、物質だ。だけど、その深淵の瞳から、流れるのは、紛れもない、人の血の通った、涙だった。


 機械と人間の狭間。

 それが彼女だった。

 タイムマシンの成れの果てだった。

 文明が発達し、心も、科学で具体的に計算できる世界で、彼女は作られ、長い間を生きてきた。未来を予知するのは、彼女が、タイムマシンより上位性能をもった機械ロボットだったからだ。


 どこから見ても人間に見える機械。

 彼女が生きてきた世界では、有機物でできた人間は、誰もいない。最も、成功作として、つくられた彼女の名前をつけた人間はいない。人類は滅んだのだ。


「ねえ。君ら、こんなもの作って、どうしたいの? 過去に戻れたら、それが、なんなの? なんの意味があると思ってるの?」


 瞳は力強く、不動だった。研究者達は、急な質問で、わけがわからない様子だった。


「私はね。完成してるから、だから、わかるのだ。君らが、目先のことにとらわれて、失敗することが」


「失敗? 失敗は成功の元だ。我々は数多くの成功するための失敗を重ね…」


「設計図に書かれた内容を読んで気づいた。このタイムマシンを君らは誤解している。この子らは、2%の確率でしか成功しないと君らは、とんだ勘違いをしているのだよ。物質が未来に行くんじゃない。このタイムマシンは心が未来に行くのだ。だから機内に、爆発によって消し飛んだ遺体があったとしても、それを『失敗』とはいわない」


 彼女は言った。未来には心と物質が向かうのだと。過去の肉体を、わざわざ、未来に持っていくのは、負荷がかかりすぎて、現実的ではない。しかし論理的に手順を踏まえて、証拠を説明する時間が彼女にはなかった。


「私が乗ってきたのを合わせて、ここにタイムマシンが二つある。勇気がある者は、乗っていくがいいよ。私は、この新しいのにするがね」


 大型のタイムマシンに乗り込む。

 誰にも、彼女を止めれなかった。

 スイッチを、押す。


 ズゥ…バン‼ ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド‼


 タイムマシンはこの世界から消失した。残された研究者達。唖然としたかのように、立ち尽くしている。その中で、密かに決意をかたくなにした人物がいる。彼だけが前に進み出た。


「さっきの人の言っていることが本当なら…」

「おい、何をしている? あいつの言うことが真実とは限らんぞ。検証を重ねてからでも、遅くないはずだ」

「黙って見ていてください! 」


 もう一つのタイムマシンに乗り込んだ。彼の目は微動だにしない。それは目先のことしか見えていないからだった。機内の操作は、だいたいわかっていた。だから、躊躇ちゅうちょなく、彼は『起動』のスイッチを押すのだった。


 ズゥ…バン‼ ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド‼


 その音は、彼の鼓膜を震わせたが、心拍は平常のままでいられた。それは、失敗をしないという自負からくる自信に、安心していたためだった。


 刹那


 タイムマシンは爆発した。

 粉々になった球体には、焼け焦げた遺体。

 現場の悲劇。

 悲惨な現実。


 しかし、これでも、ちゃんと、未来にはいけた。

 未来には、タイムマシンと男が、創り出された。

 しかし、成功は研究者達には観測されない。

 残された研究者達は言う。


「また、失敗したか」


 100%で成功しているが2%しか目に見えない。

 目で見えるものが真なら、それは、それで。


 彼は死んだのか。

 それとも…。

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