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君への手紙

君の頭上に輝く太陽を

作者: まさかす

 暖かい太陽、熱い太陽、眩しい太陽、輝く太陽。


 恵みの太陽。

  大地に降り注ぎ、ありとあらゆる物に恵みを与えてくれる。


 エネルギーとしての太陽。

  エコに目覚めた私に無くてはならない存在。


 心を暖かくしてくれる太陽。

  御日様の下で歩けば気分爽快。


 洗濯物も良く乾く。布団を干せば、ふっかふか~の、ほっかほか~。


 あなたの出す紫外線を嫌う人もいるけど、私はそんなあなたが大好きです。


 燦々(さんさん)と輝く太陽、まさに、ありがとSUN!  





 薄汚れた紙にはそんな事が書いてあった。それは偶然公園で拾った1枚の紙。ポエムらしき事が書かれたその紙は何処からか風に乗って、私の足元に纏わりついた。


 それはさておき

 

 ふむふむ、太陽ねえ。ずっと疑問に思っていた。漠然と思っていた。我々は太陽の周りを回る地球という名の衛星の住人。その太陽が消えたらどうなるのか?

 

 ばれたら想像もつかない程の罰を受ける気がするが、私は太陽を破壊出来るミサイルを所持している。とある人里離れた山中で以ってこつこつ製造した。これは太陽が消えたらどうなるのかという疑問を解消したいが為に製造した物である。そう、これは好奇心なのだ。好奇心からそんなミサイルを作った。好奇心、探究心は大切であり、行動に移してこそ意味がある。だから実行した、ミサイルを発射した。


『防衛省は日本国内の山中から宇宙に向けて、何らかの物体が発射されたと緊急発表を行いました。詳細については現在も引き続き、分析を急いでいるとの事です』


 それはすぐさま自衛隊のレーダーに察知されたようで、テレビにはそんなニュース速報が全局で流れ始めた。政府も自衛隊も把握していない飛行物体が、突如日本の山奥から宇宙へ向けて発射されたのだ。報道する人達、それを会見で発表する政府要人の狼狽ぶりと言ったら笑ってしまう。


 さてさて、計算上ではそろそろミサイルが太陽に着弾しているはずだな。どれどれ、外の様子はどうなってるかな?


 おっ、気のせいか太陽が大きく見える。いや、正確には2つに割れたようだ。


 おっ、はっきりと太陽が2つになったのが見える。半月(はんげつ)が2つって感じだな。太陽だから半陽かな?


 おっ、2つに割れた太陽が小さくなっていく。あっ、そうか。太陽の衛星でもある地球なんだから、太陽が半分に割れた事で、太陽の引力から地球が解放されたようだ。地球が太陽から遠ざかって行ってるから小さく見えるんだな。


 おお、どんどん太陽が小さくなっていく。太陽からの光も弱々しくなっていくようだ。


 時刻は夕刻。一応、日が沈む時間。弱々しい光を放つ2つの太陽が沈んでいく。とりあえず今日はご飯食べて風呂入って早寝するか。


 翌朝午前7時。何だか外が暗い。おまけに昨日と打って変わって寒い。というか午前で無く午後7時か? いや24時間時計をみると間違いなく午前。テレビを点けるが太陽関連のニュースしかやってない。


『先日、日本のとある山中から発射されたミサイルと思しき飛行物体についてですが、政府は会見で、ミサイルらしき物体が太陽へ着弾した事を、自衛隊並びにJAXA双方が確認したと発表しました』


 お、気づいたようだな。


『又、ミサイルと思しき飛行物体が太陽に着弾した後、太陽が2つに割れた事も合わせて確認したと発表しました』


 うんうん。割れた割れた。つうか見れば分かるし。


『現在午前7時ですが、この暗さである事からして、既に太陽が機能を失っていると見ていいでしょう。又、我々の住む地球は太陽の引力圏から離れ始めている模様です』


 おおっ! 予想どおりだ! いいじゃん、いいじゃん。


『太陽が無くなった事で、太陽光エネルギーは得られなくなりました』


 まあ、当然だな。うんうん。


『太陽が無くなった事で、急激に世界中の気温が低下し始めています』


 うんうん。これも予想通りだな。つうか寒いな。


『地球の自転は停止しませんが、もう2度と太陽の光を得る事は出来ないと、専門家は口を揃えます』


 うんうん。地球の自転はそのままか。別にいいか。


『太陽の衛星として廻っていた地球ですが、そのスピードを維持したまま、遠心力により太陽系から遠ざかり、いずれは他の惑星等と衝突する危険性も出始めてきました。又、既に太陽系は崩壊が始まっていると思われ、太陽系の他の天体も軌道を変えていると思われます』


 うんうん。なるほどな。衝突の可能性ありか。確かにそれはあるな。


 世界では「この世の終わり」と言う事で、早速暴動が起き始めた。世の中は真っ暗であるが、日本では通常の日常を過ごす人がほとんどらしい。日本人らしいと言えば、日本人らしいな。

 そうは言っても買い溜めは始まっている。既に世界の終焉へ向かっているのに買い溜めしても無駄だとは思うが。そういう私もいつものルーティンをこなす。


 そして1週間が過ぎた。世界の気温はほぼ零下となっている。


 白い砂浜と青い海が魅力的だった常夏、南国と呼ばれる地域。太陽を失った今となっては青い海など2度と見る事は出来ない。そんな常夏で暮らす人々は、冬に対応する生活装備を擁していない。日々下がり続ける気温に対し、それらの地域では凍死者が出始めた。


 ダム湖が凍り付き、河川も凍りついた。露地栽培の野菜は全て駄目になった。そして、いよいよ海が凍り始めた。


 暖房用のエネルギー消費が格段に上がった事により、石油系エネルギーの消費が激増するも、海が凍り始めた為に船舶の航行が不可能な状況に陥り、日本のエネルギー構成上1位である火力発電用の燃料である原油やLNG、それらを運ぶタンカーが航行する事が出来なくなり、いよいよ発電施設が停止目前となった。とはいえそれは日本だけでなく、世界中でエネルギー需要が供給を完全に上回り、逼迫し始めた。自動車用の燃料も枯渇し始め、政府は備蓄燃料を放出したが、すでに緊急車両以外への給油が制限され始めている。


 発電施設を持たない国へ越境売電していた電力会社は、他国への売電を停止し、自国を優先するよう迫られ素直に従った。太陽光等の自然エネルギーを重要視し、不足分の電力を購入していた国は猛抗議したが呆気ないほどに無視され、ほぼ全てのインフラが停止し暴動が起き始めた。


 そして世界中の火力発電所が停止し始めた。水道も凍り始めた。そもそも河川が凍っているので、水源そのものが無くなっている状況でもあった。川も海も凍り魚も取れず、露地栽培も不可能であるが故に食糧危機も出始めた。そこで屋内養殖や屋内栽培に期待がかかったが、それらの施設は大量の電力を必要とする為に、稼働できる状況ではなくなっていた。


 地熱発電はぎりぎり動いているが、地熱発電の高温蒸気そのものが少なくなってきていて、稼働停止は時間の問題だった。北海道では石炭がまだ現役であり火力発電の燃料としても使われていたが、採掘する為のエネルギー不足で採掘そのものが出来なくなり、こちらも稼働停止は時間の問題だった。


 日本では現存する原子力発電所を総理大臣の命令で全機フル稼働させた。が、焼け石に水であり、原子力発電をフル稼働しても、圧倒的な需要を満たす事は出来ず直ぐにスクラム(緊急停止)状態に陥り、稼働は不可能であると諦めた。


 そして停電が続発し始めた。


 電力不足で電車は止まった。燃料不足でバスも止まった。街灯は勿論、信号機も消えている。既に停電というレベルではなく、電気そのものが起こせる状況では無かった。


 食品を売る店には何も残っていない。物流も止まっている。そもそも物流へと流す食糧や資材も、生産製造そのものが出来なくなっていた。食品が残っていたとしても「売る」という行為そのものが存在していない。世界の終りに向かっている状況にあっては、貨幣価値はゼロであった。


 公設私設を問わず、自家発電施設を有する所には弱弱しくも明かりが灯っていた。その明かりを、その「電気」を求めて人が群がった。だが施設は群衆を拒んだ。それに対して「不公平だ」「不平等だ」「同じ国民として恥ずかしくないのか」等と群衆が叫び喚き散らかし、今にも暴動が起きそうな様相が見え始めた。


 施設は警察へ連絡したが、あちらこちらで事件事故の通報を含むあらゆる通報が絶えず、既に処理しきれない状況となっていた。尚且つ階級職務を問わず、職務放棄といった事も相次いでいた事から、既に治安維持を司る警察の体を成していなかった。


 政府は自衛隊による治安維持を検討したが、各種補給もままならない事が予想される事から見送る事にした。というより懸念があった。現在の状況で自衛隊が出動すれば、間違いなく自衛隊の火器類が、国民へと向けられることが予想された為でもある。自衛隊は燃料や食料を自前で用意して展開するが、その食料や燃料を巡って国民が押し寄せることが予想され、それを拒否しようとすれば自ずと最悪の結果を招く事を危惧した為でもあった。


 そして太陽が無くなってから4週間。外は闇に閉ざされ、電気が点いている家庭や施設は一切無く、動いている自動車も存在しない。まだ()きている家庭では、残った乾電池で懐中電灯、又は蝋燭(ろうそく)の明かりで過ごした。


 電池が残っている携帯端末は既に役に立たない。電気が無い為にネットワーク施設を含む全てが稼働していない。当然テレビも点かないが、点いた所で放送施設が稼働していない。


 寒さにより凍死する人が続出し始めた。助けようと思っても救急車は稼働不能状態。そもそも救急車を呼ぶ手段が無い。既に固定電話も使用不能になっている。それ以前に医療施設も機能していない。高度な医療機器は電気が無いと意味をなさない。液体の医薬品すら凍りついており、それを溶かす手段も無くなっている。


 入院を必要とした人々の命が続々と消えてゆく。何の措置もされない死者の骸が病院に道にと溢れかえっている。中には「国民を助けるのが国の義務だろ!」と叫ぶ物もいたが、この期に及んではあまりにも滑稽だった。


 すでに全世界平均で零下50度。さらに下がる様相を呈している。冬装備を持たない南国地域の国々はほぼ全滅している。日本でも世界でも、一家心中を選択する家族が続出し始めている。

 

 国内で産油精製が出来る国や、天然ガスが産出できる国は、それらの資源を自国の為だけに発電、さらに暖房用に使っていたが、需要が供給を上回った時点でそれらの施設は停止した。


 そしていよいよ、人類は史上初めての経験を味わう事となる……


 太陽が無い事で、二酸化炭素を酸素に還元する光合成が行われなくなり、地球の酸素が減ってきた。氷は存在するので酸素そのものは存在するが、酸素を取り出すには氷と溶かした後に電気分解が必要であり、その電気そのものが無く取りだす手段が無い。


 電気も石油も無い為に、明かりを得る手段としても、何かを燃やす事で明かりを得た。暖を取る為の手段としても、紙幣を含む燃える物を何でも燃やしていたが、それが世界規模で行われた為に、あっという間に酸素を消費していった。


 既に生鮮食料は無く缶詰のみしかない。しかも、水分を含む缶詰であると凍っている物が殆どで、それを温め溶かす方法は焚き火しかなく、それは更に酸素消費を加速した。


 理性を失った政治家の中には、世界中の核ミサイルを湖に海にと全部撃ち込んで、熱エネルギーで以って凍った湖や海を溶かせと言い始める者もいた。意図的に原発のメルトダウンを起こして熱を確保しろと言い始める者も居た。だが当然、それは行われなかった。


 自前のシェルターを持つ者、要人用の公的シェルターを使える者達はシェルターへと避難した。だが、この期に及んでは密室空間のシェルターへの避難は地獄絵図となる覚悟を要した。未来があるならシェルターへの避難も手段として考えられたが、太陽無き今となっては未来は無く、単なる延命措置である。

 それなりの長期生活が可能である準備が整えられているとは言っても、それは永遠では無い。やがて尽きる食料。そんな状況下での密室。家族であれば順番に看取ることになるのは容易に想像できる。要人用のシェルターであれば、他人との密室の中での集団生活となる。食料が尽きていく日々においては、少ない食料を巡って凄惨な奪い合いが起き、まさに弱肉強食の理を以って、シェルター内では蠱毒(こどく)の様相を呈する事が予想出来る。最後に残った者は(おびただ)しい亡骸の中で、1人息を引き取る事になるだろう。


 ある日、闇夜の空に流れ星と思しき一筋の光が見えた。流れ星とは隕石の落下が殆どであり、薄い大気との摩擦熱で溶解していく様子であるが、その日のそれは隕石ではなかった。


 宇宙ステーションが落下した――否、落下させた。落下させたのは宇宙ステーションで働く宇宙飛行士達であった。


 宇宙ステーションは地上から250㎞~450㎞の高度を調整しながら浮いている。というより、地球の引力に抗う為、秒速8㎞という速度で以って地球を周回し、その遠心力でもって高度を維持している。又、その高度でも非常に薄い大気は存在し、その空気抵抗と地球の引力に引っ張られる事で高度が落ちれば、ブースターで上昇するを繰り返しながら高度を維持している。


 宇宙飛行士達は上昇を行わなかった。意図的に行わなかった。


 宇宙ステーションは太陽光を主要なエネルギーとしている。その太陽が消え去った。主要な電力源を失った。そして太陽が破壊されてから2週間後、地上との連絡が途絶えた。宇宙ステーションから見る地球は、日に日に灯かりが消えていく。暗黒の星となっていく。既に地上の人達は終わりを迎え始めている事は、宇宙に居る彼らからしても明白だった。


 宇宙ステーションも近々補給予定だった食料が尽き始め、そもそも主要な電力源を失った中、宇宙飛行士たちは話し合った。このまま残りのブースター燃料が尽きるまで高度を維持しつつ座視して終わるか。若しくはすぐにでも意図的に大気圏にて燃え尽きるか。


 結果、彼らは意図的に燃え尽きる事を選択した。地上に残した家族達と共に終焉を迎えることを選択した。暗黒の星となった地球へと落下する事を選択した。そして宇宙ステーションは、闇夜に一筋の光となって燃え尽きた。その日の一筋の光が、宇宙ステーションの最後だったという事に気づいた者は殆ど居なかった。


 いよいよ私の家の食べ物も無くなった。飲み物すら無くなった。凡そ口に出来る物は残っていない。


 世界から光が消え、闇に閉ざされ、食料も無くなり、人が、生物全てが、その生涯を閉じてゆく。ある意味、世界中が望んだ平和が、世界中の人々に平等に訪れていた。


 はあ、はあ……息が苦しい。少しでも動くと息があがる。

 

 はあ、はあ……視野がぼやける。なんか頭が回らない。


 はあ、はあ……これが酸素不足か。指先ひとつ動かすのもしんどい。


 はあ、はあ……なるほどな。太陽が無くなると、こういう事態になるんだな。


 はあ、はあ……納得いった。やはり経験は大切だな。


 はあ、はあ……さてさて、もうやる事もないから寝ようかな。

 

 はあ、はあ……そう言えば手紙の主には悪い事をしてしまったな。

 

 はあ、はあ……どこの誰かも分らないけれど、心の中で謝っておこう。


 ごめんね。太陽を壊してちゃって。


2020年05月09日 4版 誤字訂正

2020年05月07日 3版 ちょっと改稿

2019年08月13日 2版 諸々改稿

2019年04月27日 初版

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