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この残酷で救いの溢れた世界ー3

「気がついたかの?」


 ああ、また倒れたのか。この世界に来てそんなのばっかりだな。

 視界に映っているのは豪華なシャンデリアが煌々と輝く煌びやかな豪室、などではなく木製の天井が自然光に照らされて木目が見えている一般的な家と、俺をのぞき込む少女の顔だった。


 倒れる直前のことは覚えている。この少女はゴブリンを一掃し助けてくれた。あいつら3人と同じく……命の恩人だ。


 ムクっと上半身を起こし、少女に向き合う。紅い宝石のような輝きをもつロングヘアを頭の後ろで一つにまとめ、好奇心が詰め込まれたようにランランと黄金の瞳を輝かせて、何故か……メイド服を着用している。


「助けてくれてありがとう。俺は三雲焔、君は?」


「我はアリシア・グラデチュード、魔王様に仕える魔王軍幹部の1人じゃ。ここゼヒドニアのヘイドを含める4つの地域を治める領主でもある。お主は人間の国、ミラド王国の人間か?」


 ちょっと待て、待て。この少女が魔王軍幹部? こんな若いのに? 確かに魔法は強いかもしれないが、この小柄さがデメリットだろう。魔王軍はそれほどまでに人材不足なのか?


「何か失礼なことを考えておるだろう」


「い、いや別に。お察しの通り俺はミラド王国の人間だ。どうする?俺を殺すか?」


 こんなちんちくり、おっと。こんな少女でも魔王軍の一員、目の前に敵国の人間がいるのにミスミス逃すことは無いはずだ。メリットがない。


「何を言っておるのか……お主らミラド王国が一方的に侵略してきているのに対し防戦しているだけ、お主を殺したところで守れる命などひとつもないわ」


 おいおい、聞いていた話と違うぞ。魔王は狡猾邪悪最凶の三拍子が揃っていて、どの種族に対しても侵略を行うという暴挙に出た愚王だと聞いていた。


「それともなんじゃ、お主は我らに害を与える者か?」



 違う。少なくともアリシアは善意で助けてくれた。そんな彼女を疑っている自分が馬鹿らしくなる。


「そんな訳ない、命の恩人に対して恩も返さずに敵対するなんてこと……絶対にしないよ」


「ならばなんの問題もない! さあご飯にしよう。丸一日寝込んでおったのじゃ、その身体のことは触れないでおくが、ここではゆっくりして行ってくれ」


 俺の血だらけだった服はアリシアが脱がしてくれたらしい。俺の……拷問の傷跡が多く残る肌が直接空気に晒せれていた。釘によって皮膚の下の肉まで抉られ、その直後に回復魔法で半強制的に皮膚を合わせたため、火傷のあとのように消えない傷跡が体の至る所に残っていた。いつ何時でもその傷跡を見て、俺はあの拷問の時間を思い出すことになるのだろう。

 あ、上裸なだけで下は普通に着替えさせられていたみたいだ。


 ◇


 寝かされていたその部屋を出ると、すぐ前に螺旋階段があり、下の階のリビングに着いた。そこには執事の格好をした男性と湯気と匂いで空腹を誘うご馳走が用意されていた。


「起きられましたか」


 下に降りれば居るかと思っていたもう1人の存在がいない。スミカだ。俺が無力なばかりに父を亡くした少女。彼女はアリシアのように力も持たない、小さな少女だった。


「スミカは?」


「スミカ様はすでに昼食を取られ、今は寝室でお眠りになられております。紹介が遅れました。私はアリシア様に仕える悪魔のシューラグドと申します。この館にいる間は私が責任をもって安全と安らぎを守らせて頂きますので、どうかごゆっくりと傷を治してください」


 俺だけでなくスミカもしっかりと助けてくれていたみたいで安心した。黒い髪に褐色の肌、瞳の色は青色で、片眼鏡をかけている。身長が高く、いかにも執事という気品を漂わせていた。


 リビングまで降りてきて確信した。この家は超級の金持ちが住むようなお屋敷ではない。まあ地球で見ると大きいはずなのだが、人間の貴族達の家と比べるとどうしても見劣りしてしまう。魔王軍幹部というくらいなのだからもっと金を持っているだろうに。


「さあ、食事が冷めてしまいます。どうぞ、召し上がってください」


 湯気を吹き上げているスープ。まず、それに口をつけた。丸一日固まったままだった体をまるで解凍していくように体中に温かいスープが染み渡った。ふぅ、という声が自然に出てしまった。一口で、そのスープはなくなってしまった。

 次はメインディッシュである肉料理。焼き目がついた大きな肉に、香ばしい匂いを漂わせているオニオンソースに似たものがかけられている。その横には新鮮な野菜のサラダが添えられていた。口直しの為にもサラダを一口頬張った。口の中が新鮮な野菜から染み出た水分で潤い、スープの温かさがシャキシャキの野菜とともに飲み込まれた。これでメインディッシュを迎え入れる準備は整った。ナイフで切り取り、フォークを口に運ぶ。


「おいしい」


 自然と言葉が紡がれた。肉汁がソースと絡み合い、絶妙な味を作り上げ、肉の旨みを120%引き出していた。何度も口の中で咀嚼し、その味を堪能し、飲み込む。それを5回ほど繰り返した時、大皿は空になっていた。


「ご馳走様でした」


「お口にあったようで何よりです。元の世界の食事とは色々と違うでしょうから少し心配していたのですが、その様子では問題なかったようですね」


 問題も何も、地球でもここまでおいしいご飯は……元の世界!?


「元の世界って! 地球から来たってなんで知ってるんですか!?」


「おっと、これは失礼」


「……シューラグド、お主の口の軽さは伝説級じゃな」


「お褒めに預かり光栄です」


「……はぁ」


 シューラグドは確実にわざとばらした。アリシアもその事に気づいている。シューラグドは秘密をばらすこととアリシアを困らせることに楽しみを覚えているようだ。主を困らせるのが楽しみ、という執事は中々アクが強い。


「地球、そこまでは知らなかったが、お主がこの世界ではない、別の世界から来ていることは知っていた。理由は簡単、我は【解析の魔眼】を持っておるからじゃ。つまり、我の前ではステータスは丸見えということじゃのぅ」


 俺の天職は異人。名前もこちらでは珍しいはずだ。別の世界、異世界があると知っていたならこの答えにたどり着くのは簡単だっただろう。


「俺以外にも異世界から来た人がいるのか?」


「迷い人、異世界放浪人……渡り人、呼ばれ方は様々だが、今までにも別の世界からこの世界に紛れ込んだ人間はいるぞ。だが、このタイミングか……お主は勇者召還に巻き込まれたのか?」


「っ、勇者召還のことも知っているのか」


 俺達がこの世界に来た要因はミラド王国の召喚たちによる勇者召還だ。アリシアの言い方だと、勇者召還に巻き込まれたとかではなく、本当にこの世界に迷い込んだ人もいるのだろう。俺はまだ勇者として2日間は生きられたし、この世界のことも知れた。何も知らなければ魔物と遭遇した時点でゲームオーバーになっていただろう。


「ミラド王国の動向は常に監視している。勇者召還を行ったのは知っていたが、今回は何人召喚されたのじゃ?」


「俺のクラスメイトが24人だ」


「24人!? ミラド王国にはそれほど大規模の召喚技術があったのか……危険じゃのぅ」


 今更だが、俺達を呼び出した勇者召還の前にも勇者召還は行われていたはずだ。


「今までの勇者召還は何人くらいだったんだ?」


「大抵が1人、多くても6人くらいじゃたはず。これは危険じゃ、人間がここまで大きな力を持つと」


「確かに魔王も黙っていられなくなるだろうな」


「何を言っておるか、と言いたいところだが何も知らなければ仕方がないのぅ。魔王様は元から人間を滅ぼそうとしておる。それをシスタリア、魔王の副官と我がなんとか抑えてきたのだ。ゼヒドニアにも戦争の戦火に巻き込まれて被害を受けたくないという平和主義の者達もおるからのぅ。その民達とともに侵略派をなんとか、抑えとったが、民達も勇者召還となれば、攻め込まれる前に倒してしまおうとなるじゃろうな」


「ん? ……んんっ!?」


 えつと、待て。魔王は今にも人間に対して侵略しようとしていて、それを魔王の副官のシスタリアと幹部のアリシアが平和派の民をまとめあげ対抗していると。


 それは魔王軍の副官と幹部としていいのか?


「魔王様はおかしくなられておる。御息女を亡くされてから変わってしまわれたのじゃ。だから我は……守るのじゃ、約束を。すまない、起きたばかりのお主にする話ではなかった。頭を冷やしてくる、あとのことはシューラグドに頼んである」


 「お任せ下さい」


 浮かない顔でリビングを後にして、アリシアは家を出ていったようだ。ガチャっと扉の鍵が閉まる音がした。


 「すまんなアリシアが暗い話をしてしまって、どうか多みてみてやってはくれないだろうか」


 「全然気にもならないですけど、話し方変わりましたね」


 「こちらが素なのだ。アリシアの前の話し方では距離を感じると不評でな、嫌だったら元に戻すが」


 「いや、こっちでいいです」


 さっきまではなんというかむず痒かった。主人であるはずのアリシアを呼び捨てしているあたり、シューラグドとアリシアの関係もただの主従関係ではないのだろう。


 「ところでアリシアのメイド服は」


 「無論、私の趣味だが」


 無言で手を差し出した。シューラグドも一瞬頭にクエスチョンマークを浮かべていたが、すぐに理解したのか、俺の手をがっしりと握り、俺達は男の握手をした。


 今日の出来事、アリシアのメイド服が可愛かった。

やっと3話!

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