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恩を桜舞い散るあの頃で14

「そっか。いよいよ始まっちゃうんだね、戦争が」


 今日の軍事会議で正式に魔王討伐隊が結成された。

【騎士王】率いる王国騎士軍。騎士王だけでなく今の勇者以上の力を持った騎士がゴロゴロといる王国最大戦力。彼らは王国の防衛を担う。

 そして【破王】と私たち、そして今まで王国の暗殺部隊として暗躍していたらしい暗部で結成された魔王討伐遊撃隊。魔王軍の幹部などの強力な戦力を狙い撃ちしていく。

 最後に【嵐王】と嵐王自ら募集した傭兵団で結成された対魔王軍主力部隊。戦場の最後尾を守るのが王国騎士団だとしたら前線の押し上げを担うのが彼らだ。


【嵐王】は王国が有する王冠職のなかで最もスキルと天職が合っていると言われている。

 破壊の権化といわれる【破王】の先生と比べて、【嵐王】は災害といわれている。敵味方関係なく周囲に厄災のごとき攻撃のため【嵐王】は高額で傭兵団を雇い戦場に立つらしい。王冠職の出番がある戦場での戦死率は7割を超えるとも言われている。その確率が少し上がるだけで、報酬は何倍にもなる。そのため【嵐王】の募集で人が集まらなかったことはないそうだ。


「まずは王国内で3人を探しましょう。私と先生で【嵐王】の方や暗部の方と顔合わせや、これからの事を話し合ってきますので、今日の午前中は捜索に当ててください」


 昨日の軍事会議を経て、王国は国民を避難させることを決定した。ゼヒドニアと面している街だけでなく、帝国と面している街の人々にも、この王都へ避難勧告が出されたはずだ。


 人が多くなれば嫌でも戦争を意識させられる。国民たちもピリピリとし、治安も悪くなるかもしれない。そんな時に最大戦力の私達が王都にいるとなれば、国民はより安心を得るために防衛に回ってほしいと願うだろう。国民も魔王討伐という使命があると分かってはいるだろうが、自身の安全を第一に考えるのは当然だ。

 そうなる前に出発する必要がある。

 勇者が魔王討伐に向かっている。この戦争も終わりに向かっている、そう希望を持たせることが大事らしい。


「時間の猶予はあまり残されてないの。みんな、頑張りましょう!」


 ◇


 sideセブン・ブリデン


 王国と帝国の国境上の街、ナフタ


「さすが王国。ゼヒドニア国境よりも先にこっちの避難を優先させましたか」


 街に人の気配はない。僕と入れ違いで王都に向かったのでしょう。


「ほとんど捨てたも同然ですね」


 いつも国境の監視に当たっている騎士以外は王都に近い街の守護に当てられているのだろう、街を守るために残された騎士は一人もいないようだ。


 けれど、この判断は別に悪いことじゃない。

 王国は帝国と違い王族が絶対的な権力を手にしている。だから王国内で内戦はほとんど起きず、安定した国力がある。

 しかしその長所ゆえの問題がひとつ。

 帝国内で内戦があったとき、王国の人口は移民によって倍増した。元々は帝国の方が人口が多かったが、今では王国の方が街二つ分以上人口が多い。

 そのため、農地には街が作られ、守護のための騎士が派遣されてきた。


 街を減らすことでそこに割く戦力を浮かすことが出来る。たとえ街一つ失っても、そっちの方が今は重要だろう。


「セブンだな」


 もぬけの殻となった街で僕に声をかける女の子がいた。


「………桜庭ミクサ」


「さすが、よく知ってるな。……王国はお前と手を組んだように見える。足止めは無駄になったようだ」


 僕は王国に予告していた時間よりも1時間ほど遅れて王都に到着した。不可侵条約の内容は変更されることなく結ぶことが出来たが、王国側が遅刻を理由に吹っ掛けてくる可能性もあったわけだ。


「まぁ元はと言えば、王国の方が僕達と手を組みたい訳ですし……それはそうとして。……どうやってあれ程の雷と暴風を呼び込んだのですか? いくらあなたのスキルでも空を操るなんてことは出来ないでしょう?」


 条約を結びに王都へ向かっている途中に嵐にあった。

 その嵐は僕をその場所に釘付けにし、能力を浪費させた。


 僕のスキル【転移】はふたつの使い方がある。

 自分以外を転移させる使い方。これには制約はない。今僕が1人で帰っているのも、先に伊藤桜を帝国の王室に転移させたからだ。

 もう1つは自分を転移させるという使い方。これには25メートル以内という制約がつくが、ほぼ連続で使うことが出来る。


 しかし、いくら転移しても嵐から抜けることは出来なかった。結局、自然消滅し、1時間半後には晴天が広がっていた。


【転移】はタダじゃない。魔力とともに体力を奪っていく。それは体がつかれるというよりは集中した事で疲れるという感じだ。距離が伸びることに比例するように疲労度は増していく。

 疲れている時の【転移】は思ったところに転移しないというリスクが伴う。


「友達に頼んだのよ」


 友達? 勇者の中にそれらしきスキルの持ち主はいなかったと思うが。とりあえず、桜庭ミクサの力ではなかったことが分かっただけで十分だ。


「はぁ、レオ・ナンバーズに続いてあなたまで。なぜあなた達に狙われないといけないんでしょう?」


「レオ・ナンバーズ? 彼とは関係ない。むしろそっち側かと思ってたけど」


 レオ・ナンバーズと関係がない? 彼も僕を殺しに来たが、別の目的で僕を殺しに来てるのか? この忙しい時に面倒だな。


「彼も僕を殺しに来たけど、それはいい。なぜ僕を狙う」


「勇者召喚の真実。過去、これほど多くの勇者が同時に召喚されることなんてなかった。魔力と魔法は入れ物、容量がある。歴代の勇者召喚を見ても、この魔法にどれだけの魔力を込めても最高で4人までしか召喚できないはず」


 よく調べている。王都に文献があったのか? まさかこの世界に来て、生きること以外に考える余裕があるとは思っていなかった。


 魔法と魔力によって容量が決まるというのは正解だ。人間にもそれは当てはまる。

 天職とスキルと魔法適性。これらによって人間の容量は埋まる。勇者はこの容量が馬鹿みたいに大きい者に与えられる天職だ。


「よく知っていますね。というか、詳しすぎですよ」


「【人造神人】」


 …………は?


「初代勇者と同じ時代を生きたとされる人造人間」


「ちょっと待てぇぇ!! どこでそれを聞いた!? どこでそれを知ったぁ!?」


 馬鹿な、馬鹿な、馬鹿な、馬鹿な!!!

 どこの文献にも残っていないはずだぞ!


「セブン・ブリデン。お前が【人造神人】だな。そして、お前のほぼ無限の容量が受け皿となり、今の勇者召喚が成り立っている。その器が崩れれば不運な勇者5人を残して他の人は地球に返送される」


「……どこで知った」


「そしてお前は【人造神人】の力を勇者召喚に割き、万全の状態ではない」


「どこで知ったと聞いてるんだ!!」


 ありえない。

 こんな小娘が、たった数ヶ月如きで僕の秘密までたどり着くなど、ありえない!!


「王国だよ。だから、王国を破滅の道に進ませたくなかったんだ」


「嘘だ、王国にそんなことは残されていないはずだ!」


「これ以上話すことは無い。私達が帰る為にも死んでもらう」


 王国だと? 王国と帝国の文献は全て抹消したはずだ。まさか、僕が知らない何かが王国にあるのか?


「全て話してもらうぞ桜庭ミクサ」


「あまり舐めるなよ」


 とりあえず、桜庭ミクサを半殺しにして、吐かせる。

【転移】以外にも戦闘用のスキルは何個もあるが、今使えるものが少ない。

【転移】【切断】【魔龍】【再生】

 まともに役に立ちそうなのはこれくらいか。まさか勇者が生存している間に正体がバレると思っていなかったから残っている容量に収まっているスキルが少ない。


 桜庭ミクサは棒立ちで何の構えもとっていない。

 だが、やつのスキル【絶】【集熱】はどちらも戦ったことがない。


 とりあえず【転移】で死角をとり、そして【切断】で四肢を切り落とす!


「っ! まずいっぽ」


「届くわけないだろ。ナメてんのか?」


【切断】によって生み出された半透明の刃は余裕で骨を断つ威力はある。

 しかし、勢いよく飛び出した刃は桜庭ミクサの右脚を切り落とす前に、何かにぶつかり、止められた。その何かが切断できる気配はない。

 これが【絶】か。


「油断しすぎだ!」


 一度距離をとると同時に刃をさらに生み出し、それを桜庭ミクサの体内に【転移】させる。さすがに体の中への転移は防げ


 パキンッ


「無駄だって。もうこっちの番だな?」


 転移させたはずの刃は体内に転移させられず、粉々に割れ、宙に散った。


 それに舞い上がるそれを目で追ううちに桜庭ミクサの右手の先に変化があった。


 空間が揺らいでいる。


「発射」

「【魔龍】!」


【魔龍】は使用した魔力を何倍にも増幅し、龍の形で相手に襲いかかるスキル。とっさながらも決して少なくない魔力を使った。


 だが、ジュウ。


 桜庭ミクサの右腕から直線で放たれた白色の熱光線に焼かれ、一瞬で消滅した。


「っ、肩かっ!!」


 転移するほどの余裕はなかった。それほどの速度の攻撃だったからだ。

 しかし代償は大きい。

 今の一撃で肩が貫かれ、左腕が地面に落ちている。

【再生】を発動してはいるが、傷口を焼かれているせいで、治癒速度が遅い。


「まだまだ行くぞ」




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