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Silky Tiger  作者: 張茉莉
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喰らう者、喰われる者

日常……のつもりだったんですけどね。

ドラッヘ帝国が落ちてから早く二年が経つ。

ドラッヘ帝国の従えていた魔物はティーガー王国が従えることとなり見事ワイバーン及びドラゴンを捕らえることが出来たが問題が一つ発生した。

「おい!肉をもっと持ってこい、こいつらの腹は底無しだぞ!」

それは、馬などより余程食糧を必要としてしまうことだ。この巨体、力をすれば予測可能ではあったがそれでも避けられない事態。

しっかりと健康な体にするには何より肉が必要でそれを確保するために日々兵士達は趣味の一環であった狩りに行っていたが。

「これでも足らないっていうのか……」

数千匹取ったところで数千体いる竜達の腹の足しにもならなかったのである。



「で、私に異世界の知恵を貸して欲しいと」

私、ああいや俺はそんな兵士達の相談を聞いていた。

ちなみに大変なことにこの二年間貴族達との会合ばかりで、王女たる振る舞いを行わなければならず。その時の振る舞いが完全に身に染みていて自分を見失いそうになる。

「はい、王女様ならば何か解決策をと思いまして……」

兵士の一人は非常に困った顔をしている。まあ、この二年ハインリヒ先生もいないのだし仕方はないが。

「なるほど、ならばギルドなるものを作りましょう」

「ギルド、でございますか」


よくこちらの世界での創作物にはギルドとかいうものがあった。そこに持ち込まれた依頼を冒険者と呼ばれる一般人が受け、達成することで冒険者が利益を得るという一つの職場みたいなものだった。


そういった要点を話し、この場の全員の意見が一致したところでギルドマスターと呼ばれる管理者を誰が行うか話そうとしたところ。

「──へ、私ですか」

「お願いします、シルキー様!」

わた、俺がなることになったようだ。お父様に話してみても。


「やってみるといい、シルキー」


なんてことだ。それが似合うようなものでもないのにとライナーに話してみても。


「いいじゃないですか、お似合いだと私は思いますが」


おいおい。私はそんな器じゃないのに。これは言い出しっぺがやるべきとかそんな世界を超えた理を感じるのも無理はないだろう。あ、俺。


そういう訳で街に出てギルドにするのにいい建物、あるいは空き地を探す。

「いらっしゃいいらっしゃい、パンはいかがですかー!」

「安いよ!リンゴ安いよ!」

二年前よりなかなかに賑わってきているこの街。レーヴェ国との戦いを控えている今、お父様がより経済を回すべく職を持たぬ者に職を与えている。

かつてドラッヘ帝国の領地であった場所もティーガー王国の一部としたお陰で膨大な土地を手に入れたために農業、工業などありとあらゆるものに力を入れている。

その結果、国全体は豊かになり今こうやって賑わっている。


そして歩くこと二十分。道端に座る無精髭を生やした中年ぐらいの男性に話しかける。

「あの、申し訳ございませんがここは空き地なのでしょうか?」

「ん?ああそうだよ。元々屋敷があったのさ」

とうとう空き地を見つけた。かなり広いためにギルドとしては十分すぎるだろう。

「で、お嬢ちゃん。そこを欲しいのかい?」

む、私は仮にも王女なのだから知名度はかなりのものだと思ってたんだが。

「ええ、勿論ですわ。どこへ行けば買えますか?」

「へへへ、そこは俺たちのもんだからよ。身体で払えば譲って──ギャァッ!?」

あまりにも失礼なことを言うので、創造魔法で縄を作り縛り上げる。

「ボスになんてことしやがる、お前らヤッちまえ!」

どうやらここは無法地帯の様子。わらわらと感じたことのある雰囲気の人間が次から次へと現れる。

「えー、お金なら払いますので……」

「お前をぶち犯せば金もお前も手に入るから容赦しねぇ!」

そんな言葉を唾とともに吐き出す男たち。

「……品のない連中」

心底気持ち悪いと思った。


「ひいぃ、助けてくれぇ!」

それから一分も経たずに男たちは一人残らず縄で縛り上げられている。正直昨日から何も無いのに朝から腹立たしいので勘弁して欲しい。恐らく月一感覚で来る腹痛が来るのだろう。

「王女様、ご無事ですか!?」

そうしているとライナーが走ってくる。

「ああ、無事だ……ですよ」

もはや前の喋り方に違和感を覚えるレベルなのはどうなんだろう。それにもイライラしてしまう。

「なら良いのですが……次からは私めも連れていってください。私は貴女様の護衛なのですから。それで、この者達は?」

「ええ、土地を売ってくれないかと聞いてみれば身体で払えばとか言ってきたのでつい」

「なるほど、そうでしたか……」

ライナーは腰に下げた剣を鞘から抜こうとする。ライナーにはお父様より私に手を出そうとしたものは処刑するようにと命じられているため、この場で殺すことも認められるが。

「おやめ下さいませ、ライナー。この者達には利用価値があります。なのでこれよりの生涯を私に従うことを約束させることで此度の罪を不問にしようと思うのですが」

「はあ、王女様がそう言うのでしたら。おい、寛大なる王女様に感謝するんだな」

「王女……王女……何故ここに……」

「施設を作ろうと国中を歩き回って、ここに行き着いたのです。そしてここにいい空き地を見つけたなと思ったのですよ」

男たちは驚愕している。まあ、王族が目の前にいるのなら無理もない話ではあるが。

「それで、俺達ァ何をすればええんで……?」

「冒険者──つまり、私がこれから建てる施設を拠点に動く人になっていただきます」

これから何をしようとしているかなどを詳しく話す。

「なるほど、わかりやした。報酬が出るんなら大歓迎でさぁ」

二つ返事でオーケーをもらった。よし、とりあえず冒険者確保は出来た。

「それで、とりあえずギルドの施設が出来るまではお城にて作法と剣を教わってください。切った張ったには慣れていると思うのでそこは問題視しません」

「わっかりやしたぁ!」

「ライナー、この人達を城へ」

「王女様、しかし護衛たる私が──」

「これは命令だ馬鹿野郎、いいから連れて行けって言ってんだよ」

「は、はい!」


ああ、やっと元の口調が出たはいいもののなんだかこう。イライラにイライラが増して沸点が低くなってる。

こういう日が月一で来るのは本当に勘弁して欲しい。これをアンジュ──専属メイドに相談してみても。

「青い日ですね」

としか答えてくれない。どっちかといえば血が出るので紅い日だと思うんだが。


とりあえず空き地に業者を呼び、ギルドを建てるにあたって設計図や中に設置するものなどを話し合う。

それは大体一時間ほどで完了し、俺は城へ帰るために歩みを進める。しかし、ここに来て腹痛が来てしまった。しんどい、痛い、しんどい。

恐らくまたしても血だらけになっているのだろう。

痛みにより冷や汗をかきながらもどうにか近くの食事をする店に向かう。


「いらっしゃい……ませ……お、おおおおお王女様ァ!?」

「どうも、食事をしに来たのですが……どこでもいいのでとにかく座らせてください」

とにかく痛くてしんどい。ので一番近いところに座らせていただく。

「こ、こちらがお品書きになりますが……」

そしてお品書きを差し出され、何があるのかを見ていく。

「では、この牛のステーキを」

「わかりました、すぐにお持ちします!」

そうして店員の人はすぐに厨房へ向かう。

こういう日はどうにも肉が食べたい。鉄分をとりたい。じゃないとぶっ倒れるような気がする。

そして、十五分ほどでステーキが来る。

「お待たせしました、こちら牛のステーキになります!ごゆるりと堪能ください!」

目の前に運ばれてきたステーキからは焼いた肉のとてもいい匂いがして、食欲をそそる。

「どうもありがとうございます」

そうしてナイフでステーキを切り分けたものをフォークで口に運ぶ。

その肉はとても柔らかく、噛めば噛むほどに肉の旨味が溢れ出しまさにここが天国なのかと錯覚してしまうほどに極上だった。

続いてステーキに合わせられていた野菜を食べてみると野菜本来の甘みが口の中に広がり、自然の優しさを感じる。

「ど、どうでございましょうか……」

恐る恐る店員が俺に伺う。これは勿論──

「とっても美味しいです!」

満面の笑みでそう答えるしかないだろう。いやもう自分の口調とかどうでも良くなるぐらいに美味しい。

そうして食べていると声をかけられる。

「隣、いい?」

「!?」

周りの人達が今のタメ口に驚いているが、一番驚いてるのは俺だ。今の今まで気配を感じなかったぞ。

「どうも、長旅で疲れてね。少し肉を食べたいと思っていたところなんだ」

隣に座ったのは銀色の髪と紅い眼が特徴的なツインテールの少女だった。

「ところでさ、お前普通じゃないな?隠してもその眼で分かる。過去にいっぱい悪いことしてきた眼だなそれは」

なぜ、わかる──とは言わず。

「なぜそうお思いに?」

「眼が全て語ってる」

「なるほど、ならあの店員さんはどういう人で?」

「男遊びが激しいな」

「あのお客さんは?」

「賄賂をして誤魔化しているが、何人か殺してる」

なるほど、言い当てられた人はどちらも図星のようで驚愕している。

「そして、あなたは?」

「知りたいか?まあ、名乗ってもいいがまずはそちらから名乗れ」

「シルキー・フォン・ティーガー。あなたは?」

「アリア・クラリス・ベルク。レーヴェ国第二師団を統括する中将だ」

「──な、に」

師団、師団だと。それも第二!?

「二万人もの人間を指揮し、鍛えるのはなかなかに骨が折れる。そうは思わんか姉上」

「ええ、全くですね」

反対側の方に気がついたら同じく銀色の髪だが蒼い瞳が特徴的な腰まで髪を伸ばした女性がいた。

「失礼、わたくしレーヴェ国第一師団を統括する中将──アルウェン・クラリス・ベルクです。よろしくお願いしますね、王女様」

「ああ、我が国では師団は四つある。くく、そう恐れなくてもいい。要するにそっちから攻撃しなければ師団を向かわせずに済む」

正直、冷や汗が止まらない。しかもこの二人、師団を統括するほどの人間というだけあって強さはかなりのものだ。

つまり、少しでも殺気があれば俺でもすぐに殺せる。

「ですので、これはご挨拶です。もし我々レーヴェ国に歯向かうのなら──あなたの国民ごと全て殺します」

「逆に我々に従うのならお前らの安全は完全に保証する。どうだ、悪い話ではないだろう」

なんてことだ。食事なんて場合じゃない。こいつらは断れば今すぐにこの国を滅ぼす。それほどの力がある。

「ですが困ったことに、帝王様はあなたが抗うのを楽しみにしているのです」

「ああ、全くだ。虐殺は好みではないというのにな」

「……時間を、貰えますか」

今の俺達では、勝てない。

「構わない、どうせお前は首を縦に振るしか出来ない」

「前向きな答え、期待していますねシルキーさん」

そう言って二人は店から去っていく。

たかだか竜騎士を従えただけではダメだ。もっともっと力を手に入れなくては。



「ビクビク震えていましたね、アリア」

「ああ、あれは強い。何せ私達の強さを肌で感じ取れるのだからな。それすら分からない愚か者ならばあの場で殺していたよ」

国を出て、レーヴェ国に帰還する二人。

「──アリア」

「わかっている、国のトップが何の用だイシカ王」

その後ろに剣を構えて立っていたのはティーガー王国国王イシカ・フォン・ティーガー。

「何、ここでお前らを殺せれば大幅にこちらが有利になれると思ってな」

「ふ、たかだか異国の王如きが私たちに叶うと?ふは、ふはははははは──」

アリアは天を仰ぎ高らかに笑う。

「何がおかしい……!」

「おかしいだろうよ、王女様は実力差を分かっていたのにお前は私に立ち向かうのだぞ?全く、愚か者にも程がある」


アリアの身体がまるで中に蠢く何かがいるかのように脈打つ。


「ふ、はぁっ──!」

イシカはその場から前方に飛びアリアに斬りかかるがアリアは不敵な笑みを浮かべイシカの“頭の上に乗っている”。

「遅いにも程がある、これで王だと?おいおい全くこれではこの国は危ういな」

「な──」

アリアは羽のように軽くその頭の上から飛び、地に落ちる際にイシカの後頭部に回し蹴りを喰らわせる。

イシカは大きく吹っ飛び、意識を失う。

「念のために本気で蹴っておいて良かったよ、これで意識を失う程度とはな」

アリアはイシカに近寄り、髪を鷲掴みにして持ち上げる。

「だが、さらに念には念をだ。他の者達は知らないが私は例え敵が意識を失っていても殺すまで何度でも蹴り、殴る。私にとっては殺すか殺されるまでが戦いなのだよ」

アリアはイシカのみぞおちに拳を入れる。その一撃のみで例え意識は戻ったとしてもイシカは再起不能と言えるだろう、しかし。

「まだ生きているな、仕方ない。首をはねてやろう」

手を離したかと思えば首目がけて再び回し蹴りをし、文字通り“首をはねる”。まるで“巨大な刃物”で勢いよく切ったように。

しかし、これだけやろうともアリアは息一つ切らしていない。

「アリア、帰りましょう」

「ああ、その前に。証拠は隠滅しなければな」

そう言ってアリアは食事を行う。


アア、久シブリノ強者ノ血肉──


そうして、数分後に“食事”は完了する。

「アリア、今宵の“肉”の味はいかがでしたか?」

「上々、これを毎日でも食べたいものだ」

そうして二人は去っていく。その場には──


ナニモノコッテイナカッタ



そして城に帰還するシルキー。

「お、王女様!大変でございます、国王陛下がどこにもおられません!」

「……待っていれば帰ってくるでしょう。何せあのお父様は私よりも強いんですから」

もしかすればさっきの二人と話をしているかもしれないが……

「そういえば、あちらの世界では今日の月をこう言っていましたね。ストロベリームーン、と」

紅。炎の紅、血の紅。そして。

「──紅の瞳」

アリア・クラリス・ベルク。あれは恐らく私が戦わねば駄目な存在になるだろう──

さあ強敵の登場です。自分の中で考えている中でもあれはおぞましく強いです。

アルウェンの方にだって主人公が勝てるビジョンが浮かびません。日常なんてありませんでした。

ちなみに師団というのは一万人から二万人ぐらいまでの規模を指しています。

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