現代文
エリ:えぇわかってるわ。だから私も今日断るつもりで行ったのよ。だけど…はぁ、そう簡単な話じゃないの。ねぇお願い。いつまでこうしているつもりなの?(林太に背を向けて)…最近は私もどうしていいかわからないのよ。
林太:ちっ。酒が切れた。金。
エリ動かない
林太:金!!
エリ:(振り返って)ねぇ聞いてた私の話?いつまでもこのままじゃいけないって言って
林太:(立って)早くだせって言ってんだよ!俺の夢応援してくれるんじゃなかったのか?…あぁ、お前も裏切んのか。今までの奴らと同じように…。
エリ:違う。そうじゃない…。わかった、お金は渡すわ。(お金を取る)だけどお願い、ちゃんと絵は描いてちょうだい。
林太お金を受け取りエリスを抱き寄せる
林太:お前だけが頼りだよ。
林太外に出る
○場展
林太座って酒を飲んでいる
女1:ねぇ、ここ座ってもいい?見るからにここの国の人じゃないみたいだけど、どこから来たの?
林太:他に席が空いてるだろ?
女1:そう堅いこと言わないでよ。一人で飲むより二人で飲んだ方が楽しいでしょ?ねぇ、あなた何してる人なの?
林太:…俺は絵描きだ。
女1:へぇ~すごい。有名なの?
林太:…いや。
女1:じゃあ、これからってとこね。私、あなたの夢応援するわ。いいなぁ、夢があって。私親が病気で借金してるのよ。だからお金に困ってて。…そうだ!あなたの夢を叶えるためにお手伝いできることはないかしら?そりゃあ、タダでって訳にはいかないけど。ちょうど私も働けるところを探していたの。…恋人とかはいないの?
林太:いるよ、だからもう話しかけるな。
女1:へぇ~。じゃあその人の絵を?
林太:言葉通じないのか?
女1:いいじゃない、聞いて減るもんじゃないんだから。どうなの?
林太:描かないよ。
女1:ふ~ん。どうして?
林太:何でもいいだろ。
女1:あ、わかった!あなたの彼女…いまいちなんでしょ。せっかく有名な絵描きになれるかもしれないのに、モデルにもなれない彼女なんてあなたにはもったいないと思わない?ねぇ、彼女のことが描けないなら、私がモデルになるよ。2万ペソで、私、何でもするよ?
林太:(水をかける)悪い手が滑った。彼女の絵を描かないのは、彼女を描けるだけの腕が俺にはまだ無いからだ。お前がモデル?悪いがお前は彼女の練習台にもならない。今日は下劣なブスに酒をまずくしてもらって本当にラッキーだよ。
女1:(立って)一生素人やってな。
女1はける
女2登場
女2:あの、聞き耳を立てていたようですいません。さっきの話、聞いてしまって。
林太立ち上がろうとする
女2:あ、怪しい物じゃないんです。話だけでも聞いてください。私の兄は画家を目指していました。先日亡くなってしまったんですけど。今の話を聞いていたら、なんだか描けなくて苦しんでいる兄の姿を思い出してしまって…。ぜひ、モデルにしてくれませんか?私が練習台になれるかわからないけど、お役に立ちたいんです。お金もいりません。兄の背中をあなたに重ねてしまっているだけですから。
林太:今までモデルの経験は?
女2:兄に描いてもらう約束はしてたんですけどね…
林太:すいません。
女2:いえ。
林太:実は、一作目は彼女の絵にすると心の中では決めていたんです。だけど、自分の腕にも自信が無いし、変なプライドが邪魔して、彼女にモデルを頼むこともできなかった。彼女のすねをかじって生きている自覚はしてるし、もちろん感謝だってしてるけど、酒にまみれて口げんかばかり…。情けないよ。
女2:彼女さんのこと、大好きなんですね。
林太:早速、練習に付き合ってもらっても?
女2:もちろんです。
○場展
エリ:えぇわかってるわ、このままじゃいけないってことは。でもだからって、どうすればいいっていうのよ。
林太:なぁ
エリ:何?お金は足りてるはずよ。
林太:見ろよこの女、モデルやってくれるってよ。今まで女を描こうと思わなかったのはなるほど、そばにいたのがお前だったからだな。
エリ:……は?
女2:ちょっと。(エリに)ごめんなさい。家にいらっしゃるとは思わなくて。
エリ:どういうつもり?
林太:だから、モデルやってくれるんだって。喜べよ。絵、描いてほしかったんだろ?
女2:そんな言い方。私、日を改めるわ。
林太:いいって。
女2:彼女に悪いわ。
林太:気にしなくても大丈夫だよ。俺がいいって言ってるんだから。
女2:でもこんなの
林太:大丈夫だって。向こうの部屋に行ってください。後で行きますから。
女2:連絡をください。出直してきますから。
林太:エリのことなんていいって。俺は早く絵を描きたいんだよ
女2:でも…
エリ徐々に息が荒くなる
エリ:うるさい!!!!
エリナイフをとり林太に向ける
女2:え…
林太女を外に促す
しばらく沈黙 エリ息は荒いまま震えている
林太:(落ち着いた様子で)怒ったのか?どうしたんだよそんな物騒なもん持って。言っとくけどな、俺は一度も頼んでなんかない。お前に拾ってもらって、お前を信じたんだ。…お前だけは信じられると思ったんだけどな。
林太エリに歩み寄る エリ後ずさる
エリ:それ以上近づいたら本当に刺すわよ。
林太:あぁ、じゃあ刺せよ。逃げたりなんかしないからよぉ。
エリ:待って!来ないで、来ないでってば!!
林太ナイフを持ったエリを抱きしめ腹にナイフが刺さる
林太:なぁ、お前が愛した俺は、どんな俺だ?
林太崩れ落ちる 死亡
エリ:あ…あぁ。違う、違うの、ねぇ、違う。こんなはずじゃ…。あ…あぁごめんなさい。ねぇ、お願い、目を覚まして。
♪ひそかな夢