異郷(エピローグ)
(エピローグ)
「デリア、ちょっと行って来るわ。あとは自分で調べるのよ。それとレア、念の為この部屋のシールドを強化しておいて」
「ハーイ」
『承知しました。部屋の防御シールドオン、強化開始』
彼女はデリアの返事と、レアの復唱を耳にしながら私室から出て、緊急連絡のあったメーンブリッジに急いだ。今回の移住船の飛行は順調に来ており、新惑星への到着真近の段階での、別の宇宙船の接近は訝しいものがあった。先発隊の歓迎船であれば識別できるはずだし、このエリアに連邦の宇宙船の活動報告はなかった。
メーンブリッジに到着すると、船長を始め主だったメンバーが集まっていた。異常事態が発生した場合、主要な乗員に召集が懸かるようになっており、彼女もその一人であった。
「いったいどうしたの。相手は誰か突き止められないの」
「パジル博士、お待ちしておりました。十五分程前に急に我々の後方に現れ同じ距離を保っています。何度も呼びかけていますが応答はありません」
船長が答えたがかなり戸惑っている様子であった。室内にはある種の緊張感が漂っていた。
全ての目がモニターに釘付けになっていた。
「相手から危害を加えられる恐れもあるわけね」
彼女がズバリ指摘すると、皆から動揺が起こった。
この船は旅客用に出来ており、攻撃を受けた場合、対抗すべき武器は装備していなかった。
「そうとも言い切れません。追尾されてからかなり時間が経ちますし、射程圏外に位置しています。一応念の為船体のシールドをオンにしています」
船長は否定したが、目的が分からない以上説得力はなかった。彼女はもう一つの疑問を問いかけた。
「本当に宇宙船なの。信号の発生源が何か別のものか考えられないの」
「それはどのような・・」
船長が返答しようとした瞬間、モニターからシグナルが途絶えた。
「いったい何があったんだ?」
「信号が消えました。別の装置でも同様に突然消去しております」
必死に探索を繰り返したが見当たらなかった。その時船内の警報ブザーが鳴り出した。
「どのセクションだ?」
船内のいずれかに異常が生じた場合、自動的に警報装置が働き隊員に知らせるようになっている。
「パジル博士の私室からです」
それを聞いて彼女は即座に歩きだした。
「警備隊員も付いて来るんだ」
船長を含め三名の乗員が後に続く。何か予期せぬことが立て続けに起こっているようだ。不安が頭を掠めた。
「レア、答えて。何があったの」
彼女は部屋に戻りながらターミナルコンピュータと連絡を取った。
『はい、未登録の生命体が侵入しました』
「デリアはどうしているの。無事なの」
『同時にデリアと双子犬の三体については検出出来なくなりました』
「どういうことなの。待って、すぐ行くから・・」
彼女をはじめ隊員達に緊張が走った。異常なトラブルが発生していることは明らかだった。それも今度は船内の私室に侵入者がおり、乗員の安否が気掛かりであった。
部屋の前に到着した。
彼女が開放操作をすると、扉は難なく開いた。
一同が用心深く中に入る。すると、後ろ向きではあるが、黒髪を長く垂らした少女が熱心にモニタを見回している姿が目に入った。身につけている衣類も原始的な皮革製の粗末なものであることがわかる。
明らかにデリアではなかったし、部屋には彼女以外にいる様子はなかった。
物音に気がついたようで少女は振り返った。その顔たちを見て五人のメンバーは一斉に驚いた。少女はパジル博士を見てあどけない笑みを浮かべ声を発した。
「まあお母さんの言った通りだったわ。私によく似ているって」
その言葉は隊員達には理解できなかった。そこには髪の色こそ違え、博士にそっくりな少女がいた。
少女はにこやかな表情で彼女を見つめながら、今度は覚えたての言葉で、一語一語ゆっくりと話しはじめた。
「はじめまして。私の名前はパジル。母デリアの娘です。あなたの孫にあたります」
意味は理解できたものの、その内容に皆唖然としてしまった。
どうやら時間をかけて説明を聞く必要がありそうであった。
異郷 (完)