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デリアの世界   作者: 野原いっぱい
24/35

デリアの復活(二)


挿絵(By みてみん)


「リク、ねえリク、起きて」


体を揺さぶられ、耳元で呼ぶ声に気がつき目を覚ました。


「ああ、良かった。気を失ってただけで大丈夫だったわね」


カミラの声を聞き、しばらく目を凝らした後、すぐに我に返った。


「俺は助かったのか」


「そうよ、今のところ。私たちは助かったのよ。でもまだ油断できないわ」


「俺はゴール族の一撃で吹き飛ばされてしまった。もう駄目かと思った」


「し!大声を出すと聞こえるわ。彼等からまだそんなに離れてないから」


「奴等が近くにいるのか。いったいどういうことなんだ」


「私が彼らより早く意識を取り戻し大急ぎでリクをここまで引き摺ってきたの。今ごろ彼等も正気に戻っているはずよ」


「というと奴等も気を失ったというのか。いったい何があったんだ。それにここはいったいどこなんだ」


彼は周りの見慣れない樹木を見て怪しんだ。

それは彼等が日頃親しんでいる植物とは似ても似つかぬ物であった。


「わからないわ。あの戦いの最中、突然辺りが暗くなり稲妻があちこちに走って強い風が吹き出したの。私はリクにしがみついていたんだけど、ゴール族も皆地に伏してしまったわ。次の瞬間猛烈に輝きだして目を開けていられなくなったの。そして身が軽くなったような気がして、その後のことは何も覚えてないわ。気がついたらここにいたの」


リクは立ち上がり周囲の目に見えるものを観察していった。

しかしながら地面、草木、花や枝葉まで彼が今まで接してきた自然と形状も色も異なっていた。

見上げた空の色まで違っており、黄調が青地に変わっていて、ところどころ白い雲が浮かんでいる。


「俺たちはとんでもない所に来たようだな」


その時、ゴール族の呼びかけあう叫び声が聞こえてきた。


「ここに居たらその内見つかってしまうわ。早く彼等から離れましょう」


「いや、もう少し待って、その前に奴等の様子を見たいんだ」


リクは用心深くその声の方向に近寄っていく。カミラも恐る恐るその後に続いた。

樹木に囲まれた斜面をしばらく登り、高所の茂みに腹ばいになって顔を覗かせた。

視界が開け台地の全容が見渡せる。

明らかに彼等が生まれ育った世界と大地の構造も色調も異なった景観であった。

けれどもそこには彼等の敵のゴール族が埋め尽くしている。

二人とも数万ともいえるおびただしい数の戦士達の集結に圧倒されてしまった。

そして彼等の口々に発するわめき声が轟音となって耳に飛び込んで来た。

ところが『ヒュー』と聞こえる甲高い音声が鳴り響くと、彼等の声が一斉に途絶えた。そして、全ての顔の向きがリク達と反対側に位置する小高い岩場に集中した。

そこには、戦士達とは別種の異相のゴール族が居た。

彼は一回り大きく複眼で且つ、頭に無数の先端が尖った植毛が生えていた。

彼は戦士達を前にし、呼び掛け始めた。


「ゴールの民よ。勇敢なる戦士達よ。驚くでない。お前達は新たな世界に足を踏み入れたのだ。この地の蛮族は精神が堕落し社会は退廃している。主は我々にこの地を浄化し作り変えるよう命じられたのだ。全ての蛮族を抹殺し全ての敵を駆逐せよ。そして我々がこの世界を支配するのだ」


その声は決して大きくはなかったが、鮮明に脳内に伝わってきた。


「ウオウ!」


全ての戦士が呼応し、大地に喚声がどよめく。


「出発せよ。我々の目指す敵はこの方向にいるぞ」


彼が正面の方角を指差すと戦士達が向き直り動き始めた。

リクとカミラの二人はこの様子をつぶさに眺めていた。

この衝撃的な場面に度肝を抜かれ頭が麻痺しまっている。


「どうするのこれから」


「どうって、どうやら俺たちは奴等と一緒に別の世界に紛れ込んだようだな」


「このまま放っておくの」


「いや、奴等の思い通りにさせてたまるか。捜すんだ。奴等と戦える俺たちの味方を」


「そうだわ。まだ彼等のことを知らないはずよ。早く伝えなきゃ」


「よし、行くぞ。奴等より先に行くんだ。急ごう」


二人はまだ新世界のことを知らないまま、未知なる冒険に乗り出した。


*

ギリア王国領から北辺境を目指す街道に、戦時服を装ったリーラ妃一行の姿があった。

先導するのは、かつて父親のサラミスやバイブル達と魔獣と戦ったサライであった。

彼はバイブル王からの懇請で今回の特殊な任務に参加することになったが、この辺りの地理に精通しており、また異質な戦いの経験も豊富で、最も相応しい人選と言えた。

バイブル王とは従兄弟どうしで、リーラ妃とも親密であった。

更に彼女のロンバード時代からの親友で今は夫婦となったダンとアリスも付き添っている。二人とも優れた剣士として知られており、相手が定かではないものの、久し振りの腕の見せ所と意気込んでいる。

更にギリア国の屈強の兵士5名が従っており、いずれもサライの配下の者達であった。

そして、リーラ妃の馬に同乗しているのが、娘のタミアの体に乗り移ったデリアその人であった。


この急造の編成が組まれたのも、彼女からの情報によるものであった。

目的が敵の正体の見極めであったため、小人数で出発したが、実際にはギリア国挙げての出撃準備に突入していた。

更にロンバード王国にも協力を得るため、デリア自身がバイブルやリーラと一緒にロンバード八世と会い、この地の危機について説明した。

彼は最初デリアの姿形に目を白黒させたが、ロンバード王家の成り立ちや祖先の史実について誰も知らないことに言及され驚いてしまった。

そして何よりも彼女自身が始祖であることを知ると、最大限の敬意を払い一致協力して敵と対決することを誓った。

そして友好訪問の今後の予定は取りやめ、急遽自国に戻り、王国軍を組織することになったのである。


特別編成の一員にとってもデリアの存在は謎であった。

けれども彼女が高い教養の持ち主だと解るや、皆心服しその指示に従った。

ところが、奇妙なことに彼女は熊の人形を背負っており、何となくちぐはぐな印象を与えたが、理由を正すと、


「いずれ役に立つことがあるから」


との返事が返ってきた。

目的地は北辺境の山岳地帯でレアからの情報では、明らかに時限に裂け目が生じており、異次元からの侵入者がいるとのこと。

破壊者との間の時間軸に差があり、レアにも敵の正体は掴めないが、その規模は相当大きなもののようだ。早めに敵の実態を知り、対抗手段を整える必要があった。

そのための編成隊で出来る限り近道を選択して進んで行った。

さすがにサライの誘導は的確でその日の内に辺境への入り口にあたるライズ河を渡ってしまった。

そして周囲が見渡せる適当な場所で休憩を取った。

熟練の兵達は片時も見張りを怠らない。


「いったいどのような相手が我々の敵として現れるんでしょうかね」


以前に魔獣を見た事のあるダンがデリアに問い掛けた。


「私にも分からないわ。でも私達の生存を脅すような難敵であることは間違いないわね。相当気を引き締めて立ち向かう必要があるわ」


その言葉に皆動揺を禁じえなかった。


「もしこの戦いに私達が勝利し、この問題が解決したら、本当にタミアは生き返るの。信じていいの?」


デリアはリーラ妃の突然の母親としての質問に思わず笑みをこぼした。


「大丈夫よ。タミアはこの体に戻って来るわ。それに私はあの娘が死んだとは思っていないの」


「それはどういうこと」


「私がこの娘の体で目を覚ました時、水を飲んだ形跡がなかったからよ。もし池で溺れたのだったら、何度も吸い込んでお腹に残っていたはず。もっと違和感があって気分が悪かったはずだわ。だから、水面に誤って落ちたとしてもすぐに呼吸は停止し苦しまなかったと思うわ。なぜならレア、つまり私を再生した創造者がその瞬間あの娘の魂を抜き取ったのだと思う。私と同じように彼女はこの体に戻るはずよ。だから安心していいわ」


それを聞いたリーラ妃は胸をなでおろした。


「じゃあその時あなたはどうなるの」


今度はアリスが興味深げに尋ねた。


「私はこの娘の体から離れて元の精神エネルギー体としての存在に戻るの。今のところ現在のこの世界で私が転移出来るのはこの娘だけのようね。でも二度と干渉したりしないわ。だからその時にあなた方とはお別れね」


「でもデリア、あなたは私達が崇めるべき祖先よ。でもどうして今の姿で・・もしかして救世主として復活したと・・」


「ホホホ、私は救世主でもなければ幽霊でもなくてよ。いいわ今回お願いして同行してもらっているのだから話すことにするわ。もともと私は別の星の宇宙船からレアに連れて来られたのだけど、あなた方と全く同じ人間よ。本来であれば今のロンバード王国の高峰の麓の村落で家族とともに暮らして、そのまま一生を終えるはずだった。ところがこの地に異星獣が現れ息子のヤマトと二人で、レアの力を借りて戦うことになってしまった。今のギリア国やこれから行く辺境がその舞台となったの。敵は一体づつ時間をかけて現れ、その都度私達は特殊な武器で倒していった。全てを葬るのに相当な日数を要したの。私達はある村を拠点にしてレアからの報告を受けて異星獣の出現した場所に出掛けていくことを繰り返したの。私達が敵の攻撃を受けても防護服を着用している限り安全だったのよ。そしてとうとう最後の一体となったの。ところがその敵はそれまでと違い知性を持っていた。レアからも事前に用心するように言われていたわ。その村の人々は私達に好意的で、その時ヤマトは一人の娘と恋仲となっていたの。ついつい油断したのだわ」


*

「マヤ、僕の仕事ももう少しで片付くよ。それが終わればこの村で君と一緒に暮らしたいんだ」


「まあ、嬉しいわヤマト。私も楽しみにしてるわ。でもデリアが許してくれるかしら」


「もちろん君とだったら間違いなく賛成してくれるよ。母さんもマヤのことを気に入ってるよ」


「私もデリアが大好きよ。色々なことを教えてもらっているもの。それとあなたやデリアにも私から話しておきたいことがあるのよ」


「何だい、マヤ」


『ヤマト、ヤマト』


彼等の居る小屋の外から女性の声が聞こえてきた。


「デリアがあなたを呼んでいるわ」


「何だろう。行ってみるよ」


彼は急いで立ち上がり身繕いした。そして慌しく入り口に向かう。


「いつもの服を着なくてもいいの」


後ろからマヤが声を掛けた。床の上に防護服が置かれている。


「ああ、今はいいよ。あとで取りに来るから」


「待って、私も行くから」


ヤマトが小屋から外に出る。マヤもその後に続く。けれども母親の姿は近くにはなかった。


『ヤマト、ヤマト』


再び声が聞こえて来た。

近接した森の方角から呼びかけがあった。彼はその方向に進んだ。

村の周囲には万一に備え、異星獣が入って来れないよう電磁線の結界が張ってあった。

丁度彼の今いる場所がその境にあった。


「母さん、どこに居るの」


ヤマトは呼び掛けながら更に前に進む。

そして結界の外に足を踏み出した

途端、それが現れた。今までよりはるかに小型ではあったが、三つ目の異星獣そのものであった。

彼は咄嗟に罠にはまった事に気がついた。


「マヤ、逃げるんだ。そして母さんを呼んで来てくれ

ヤマトは大声で後ろのマヤに声を掛けた。

次の瞬間、異星獣が熱線を放った。彼はまともに光を浴び、地面を転げまわった。


「キャーッ!」


それを見た彼女は大声を張り上げ、村に走り出した。


「デリア、デリアー、ヤマトが、ヤマトが!」


彼女は助けを求めて必死で村落に駆け込んだ。

デリアがその声を聞き、住居から外に飛び出した。


「デリア、ヤマトを助けて。お願い、ヤマトを助けて」


デリアはマヤの様子を見て、一瞬にして事態を察知した。

そして彼女が指差す森の方向に駆け出した。

デリアの手には武器が握られていた。

敵の突然の攻撃に備え、日頃の用心を怠らなかった。

猛然と駆け足で走り、彼女が現地に辿り着いた時には、ヤマトは全身火だるまの状態にあった。

異星獣は止めを差そうと、狙いを定めていた矢先であった。

これを見た彼女は烈火のごとく怒りを覚え、異星獣に銃を突きつけた。


「これでも喰らえ!」


彼女が引き金を絞ると、ビームが放たれた。

異星獣は予期せぬ攻撃に逃げる間もなく急所に光線を喰らい、一瞬にして全身が変色し始めた。

そして真赤に輝くと同時に爆音がして、粉々に砕け散ってしまった。

異星獣の末路であった。

しかしながら、勝者であるはずのデリアの表情には、少しの喜びもない。

むしろやり場の無い苛立ちに包まれていた。

ヤマトは炎に包まれ、もはや手遅れの状態で地面に横たわっている。

その時、マヤが騒ぎを聞きつけた村民と一緒に駈け付けた。

その状況を目の当たりにした彼女は半狂乱状態となり泣き叫んだ。


「ヤマト、ヤマトー」


回りの者はあたり一面に燃え上がる断片を茫然と見守っている以外なかった。

ヤマトの身体もその中に含まれている。


「私がいけなかったのよ。デリアの呼び声を聞き違えて」


その言葉の意味を、デリアは即座に理解した。


「何てこと、何て事なの。私のお腹にはヤマトの赤ちゃんがいるのよ」


更に一層の衝撃を受けたデリアは、ある行動を起こそうと決心した。


「マヤ、待っているのよ」


デリアは嘆き悲しむ彼女を労わりながら、森の奥に歩き出した。

そして、一段と密生した茂みの所まで来て、覆ってある熊笹を取り除き始めた。

すると全面が金属製の座席の付いた乗り物が現れた。

大地を高速で移動出来るスカイカーであった。

もともとが宇宙ステーションから発進した移民船に搭載された新天地での交通手段としての乗り物で、異星獣の出没先への移動用として利用していたのである。

彼女は座席につきエンジンスイッチをオンにした。

するとモータが動き出し、レバー操作で空中に浮かんだ。

そして高速で移動し始めた。眼下に今までいた森や村落が見渡せた。

それらがあっという間に見えなくなり、原野や湿地の上空を進む。

前方に林木で覆われた山々が見えてきた。

目指すは山間に不時着した宇宙船であった。

しばらくして下方に草木に囲まれた船体が姿を現した。

もし徒歩で行くなら数日の道程であったろう。

上空からゆっくりと降下しだした。と同時に宇宙船の上部の扉が開く。

そしてスカイカーは船内に吸い込まれていった。


 乗り物から降りたデリアは廊下を目的の部屋まで早足で進む。

途中何度も厚い扉に阻まれたが、彼女が近づくと自動的に開いた。

保安機能が働いており、特定の人間しか出入り出来なくなっていたのである。

そして彼女の居室に到着しその中に入った。


「レア、私よ答えて、デリアよ」


『デリア、お待ちしておりました。とうとうやり遂げましたね。これで全ての異星獣を倒し、とりあえずの危機を回避することが出来ました。おめでとうございます』


「いいえ、ちっとも良くないわ。ヤマトが殺られてしまったわ」


『存じております。私も最後の敵にはある種の能力があると認識していましたが、まさかあなたの声音を使ってヤマトをおびき寄せるとは予想もしませんでした。あの場合、彼が防護服を着ずに出てしまったのは仕方がなかったのかもしれません。彼には大変気の毒なことになってしまいました』


「そうよ。もともとこの戦いはあなたからの連絡で私が単独で行うべきだったの。あの子を巻き込んだのは私よ。まだ若くてこれからという時に犠牲にしてしまって、口惜しくてならないわ」


『しかし彼も承知でこの戦いに臨んだのだと思いますよ。あなたがた人間の感覚からすれば、この惑星の危機を未然に防ぎ、一身を投げ打って使命を全うしたことは大いに称えられるべきであると・・』


「駄目よ、そんなこと。ヤマトには将来を言い交わした娘さんがいて、その娘にはヤマトの子が宿っているのよ。彼女は悲嘆に暮れていて、そんな名誉などなんの役にも立たないわ」


『じゃあいったいどのようにせよと』


「ヤマトを生き返らしてほしいの。あなたなら出来るわ」


『それは無理ですよ。命を落とした者を蘇らせることは私にも不可能です』


「あなたには時間の移動が出来るはず。現に私や娘のパジルが未来や過去に移動しているわ。異星獣の出現前に戻ってヤマトに警鐘を与えてほしいの。何なら私を戻してもらってもいいわよ」


『それは出来ないことなのです。時間の進行には因果関係という絶対の法則があり、変更することは不可能なんです。例えば異星獣が倒れる前提としてヤマトの犠牲があり、あなたがここに来たのもその流れの延長にあります。従って仮にヤマトに偽の声の正体を教えても、結局別の方法で異星獣に殺されてしまい、あなたがその仇を討つことになります。私が時間を行き来したり、あなた方を移動させる際も因果関係に抵触することはありません』


「お願いレア。ヤマトには私に付いて来させたばかりに苦労ばかりさせたのよ。ようやく異星獣を倒してマヤと幸せな家庭を築こうという時に死なせて、残念でならないわ。出来る事なら私と変わってやりたいわ」


デリアは痛切な思いで哀願した。これに対してレアからしばらく返事がなかった。そしてデリアが絶望的な気持ちに傾きかけた時、レアからの答えが返ってきた。


『デリア、ひとつだけ方法があります』


*

『ヤマト、ヤマト』


「デリアがあなたを呼んでるわ」


「何だろう、行ってみるよ」


彼は急いで立ち上がり身繕いし、入り口に向かった。


「いつもの服を着なくていいの」


「ああ今はいいよ。あとで取りに来るから」


「待って。私も行くから」


ヤマトは外に出たが母親の姿はなかった。


『ヤマト、ヤマト』


今度は森の方角から声が聞こえてきて、その方向に進む。


「母さん、どこにいるの」


彼は呼びかけながら更に進んだが、前方に突然異星獣が現れた。

彼は咄嗟に罠に嵌った事に気がついた。


「マヤ、逃げるんだ。そして母さんを呼んで来てくれ」


彼は大声を張り上げた。と同時に異星獣が熱線を放つ。

その時彼を突き飛ばして異星獣に立ち向かって行く者がいた。

その者はまともに光を浴びながら近づいていった。

そしてヤマトの耳に声が届いた。


「ヤマト、そこにある銃で撃つのよ。早く!」


それはデリアその人であった。

彼女は全身炎と化しながら異星獣に飛びついた。

彼女は防護服を身につけておらず、正に自殺行為でしかなかった。

ヤマトはその成り行きを茫然と見守っていた。


「早く撃って。何してるの」


デリアの必死の訴えで彼は目の前にあった銃を取り上げた。

そして異星獣目掛けて引き金を絞った。ビームは正確に異星獣の急所を貫いた。

そして全身真赤に変色し、炎に包まれながら相手を動けなくするため組み付いたデリアともども、爆音と同時に粉々に砕け散った。

それは夢のような一瞬の出来事だった。


「母さん、何故だ、何故なんだ!」


ヤマトは銃を放り投げ、突然のデリアの最後を信じられぬ思いで嘆き悲しんだ。

しかもどこを見ても燃え殻が散乱し、彼女の痕跡はなかった。


「ヤマト、ヤマト!」


この成り行きを全て目にしたマヤが彼に近づいた。

騒ぎを耳にした村民も集まって来ている。


「何てことなの、何てこと。私のお腹にはヤマトの赤ちゃんがいるのよ」


彼女のデリアへの哀惜の叫びが周囲に響き渡った。


*

その頃、宇宙船の一室にホログラムが浮かび上がった。

それを見上げて双子犬が吠え立てる。

そこに映し出されたのはデリアの全身映像であった。

そしてもはや実体のない彼女に向かって声が聞こえて来た。


『デリア、これで良かったのですね』


「ええ、私は満足してるわ。何の後悔もしていない。ありがとうレア」


『確かに異星獣が消滅しヤマトが生き残りました。彼は娘さんと一緒に暮らしていかれることでしょう。けれどもその為には、あなたとヤマトを入れ替える必要があった。つまり異星獣の声音にヤマトが誘き出されましたが、今度はあなたが身代わりとなって熱線を浴びて燃え尽き、ヤマトが異星獣に止めを刺したのです。そのために予め、あなたの魂を抽出し、肉体が消滅した後もこの場に現れて、因果法則を逸脱しなくて済んだのです。ただし今までのような肉体あっての感覚が味わえなくなってしまいました。あなたの家族にも二度と再会出来ないのです。もし心残りがあるようならまだ間に合います。再び元に戻しますか』


「いえ結構よ。私は以前に両親との別れを経験したわ。あの時はショックだったけど。ううん、今度も同じよ。でもこれでヤマトとマヤが無事に家庭を築き、二人一緒に子供を育てていくことが可能になったのよ。これほど嬉しいことはないわ」


『私もあなた方人間の微妙な感情の変化、愛情や精神の尊さが理解できるようになってきました。知れば知るほど大変敬服します。またもともと私の創造世界にあなたを引き入れたことが発端で、それらの不幸を招いておりお詫びの言葉もありません』


「あら、レア、あなたから謝られるとは思わなかったわ。確かに変わったわね。さてと、それよりこれからのことよ。私はどうなるのかしら」


『先ほども言いましたが因果関係を維持するため、ヤマトからこの場所の記憶を失くしました。それと異星獣の消滅直後にスカイカーや電子銃も消去しています。従って彼がこの宇宙船に来る事はありません。けれどもまだ完全に敵を葬ったわけではありませんし、子孫に危険の芽を伝承していく必要があり、彼の頭には異星獣と戦った記憶と、あなたに命懸けで助けられた意識が残ります。一生母親への恩を胸に抱いていくことでしょう。そしてデリアあなたは体は失くしましたが、決して死んでしまった訳ではありません。精神は健在であなたが望むのであれば永遠の命を獲得されたのです』


「いやよそんなの。霊魂のような存在で生き長らえたくないわ」


『いえ決してそのようなものではありません。あなたの精神は努力次第で向上しますし進歩します。更に生身の人間とのコンタクトつまり交流も可能です』


「どういうことなのそれは」


『あなたがヤマトと接触された際、ある神経組織のコピーを彼の方に移植しました。それによって、彼自身には無理ですが、その特定の子孫の脳に乗り移り、別の人間に意志を伝達することが可能です』


「まあ、呆れた。私にそんな守護霊みたいな真似をさせるわけ。それと随分先のことになるんじゃないの」


『今までの時間感覚とは異なり短縮は可能です。それは私が指導します。そうすることでこの世界の危機を子孫に伝え回避することが出来るのです。更に今まで困難だった特殊な能力も身に付けることも可能になります』


「それはこの世界を創造したあなたの思惑通りになるということだわ。私は都合のいい協力者という訳ね」


『いえ決してそんなつもりはありません。もし気が進まないのなら、あなたの判断で自らの消滅も可能です。私が手を下すことはありません』


「わかったわ。どうやら私もこの姿でしばらく存在せざるを得ないわね。じゃあ教えてくれる。私が覚えなくてはならないことを」


『わかりましたデリア。時間はたっぷりあります。あなたに全てを伝えます。この世界の未来のために』



*

 デリアの話は一通り終わった。

聞き終えたリーラ達からしばらく言葉が無かった。

それは彼等にとって信じ難い物語といってよかった。

ようやくリーラが声を掛けた。


「デリア、あなたはとても辛い体験をされたのね。私だったらとても耐え切れないわ」


「今からすれば遙か昔の懐かしい出来事でしかないわ。でも今は幸せよ。なぜなら私の血を分けた子孫、つまりあなた達がこの世界にあって元気に活躍しているから」


その時、見張りの兵士から声が掛けられた。


「誰かこちらに来ます」


皆一斉に彼の方向に振り返り、即立ち上がる。

そして前方の原野を見通せる場所に移動した。

まだ遠方ではあったが、丘の頂きから走り下りてくる二人の姿が目に入った。

更にその後方から5名の者達も視界に現れた。

いずれも全力で駆けており、逃げる者を追掛けている様子が見て取れた。

しかもその差は徐々に縮まっている。

ところが、彼等の全身が判別できる距離で、リーラ達の目が驚きに変わった。

彼等は普段接している人々、いわゆる人間ではなかった。

かといって動物でもなさそうである。

前方の二人は顔が丸く目が大きめで、鼻が黒、耳が立っており、頭髪はなく皮膚は白と橙の縞柄であった。丁度猫に似てなくもないが、二本足で走り衣服も身につけていた。

その後ろの者達は更に異様で、目は複眼で飛び出しており、触角のような繊毛があり口は小さめであるが両端から牙が飛び出している。

鎧のような物を着込みその隙間から露出している肌は黄褐色であった。

いずれも手に武器が握られていた。

体は人間と比べても大柄で、前を逃げる小柄な二人との力量差は一目瞭然であった。

どうやら両者は敵同士で、状況からいって追手から仕留められそうな気配であった。


「あの二人を助けるのよ」


デリアがそう言うと、兵士達が彼等の方に向かって行った。

丁度追いつく寸前であったが、初めて見る異種族の出現に複眼の者達は一瞬驚いたようだった。

彼等は立ち止まり兵士達の品定めを始めた。

その間に二人の逃亡者は分け入って来た兵士達の後ろに隠れるように逃れた。

激しく息を切らしている。

両者は同じ人数でお互い睨み合った。

どのように言葉を掛けるべきか思案する間もなく、先に手を出したのは複眼の者達であった。

彼等は武器をかざして兵士達を襲った。

相手のことなど聞く耳を持たない問答無用の攻撃であった。

これに対し日頃から鍛えられた屈強の兵士達も即座に反撃、お互い刃を交わした。

しかしながら、最初の一撃でパワーの差は明らかになった。

複眼の者達の力が勝り、兵達は防戦一方となった。

この展開は丘の上で見守っているリーマ達には衝撃であった。

もはや5名とも敵の刃から逃れるのに精一杯の有様であった。

このままでは兵士達は殺されてしまう。

急いでサライ、ダン、アリスの三人が加勢に繰り出した。

辛うじて間に合い倒されなくてすんだが、複眼の者達に怯む様子は見られなかった。

一瞬新たな敵の出現に戸惑いはしたものの、戦いの手は少しも弛まない。

三人とも歴戦のつわもので、ようやく互角となったが、複眼の者達はむしろ白熱した争闘を望んでいるようにも思えた。

このままでは膠着状態でいずれは疲れ切って倒れてしまうだろう。


その時、デリアがリーラの手から離れ、丘を駆け下り始めた。


「デリア、今近寄っては危ないわ」


リーラも慌てて後を追掛ける。

そして、戦いの間近まで来て立ち止まり、声を張り上げるのと、リーラが追いつくのと同時であった。


「すぐにそこから離れるのよ。今すぐに!」


その声を耳にして、皆一様に彼女の真意を測りかねた。


「さあ早く、吹き飛ばされたくなければそこから離れて地面にうずくまるのよ」


今度はサライがその意味を悟り、兵士達にも促しながら真横に駆け出した。

ダン、アリスも戦いを止め、それに続く。兵士達も左右に散った。


「デリア、いったいどうしよっていうの?」


「リーラ、私を後ろから支えてくれる」


戸惑いながらもリーラは小さな背中を抱きかかえた。


「あなた達今度は私が相手よ」


その声に複眼の者達は彼女の方に振り向き、身構えた。

次の瞬間、デリアが大きく息を吸い込み、と同時に彼女の目が輝きだした。

更に周囲の空気が揺れだして渦を巻き始める。

リーラはその直中で大気の急激な変化に驚き、デリアに覆い被さりながら思わず目を瞑る。


「エイ!」

デリアの口から掛け声がほとばしると、渦が突風となって複眼の者達を直撃した。

彼等は彼女に関心を示し、まさに近寄ろうとした瞬間で、防ぐ余裕もなく風圧をまともに浴び吹き飛んでしまった。

予想もしない攻撃を受けダメージも強烈だったようだ。

いずれも離れた地面に投げ出され、身動きもせず横たわってしまった。


「こ、これは・・」


皆、唖然とした表情でこの成り行きを見守っていた。

ただサライはデリアの発した言葉を、以前父親のサラミスから気流攻撃の訓練の際に聞かされていたため、瞬時に反応したのであった。


「そう、この力は私が精神エネルギーの存在になってから、レアから教わって修得したのよ。もちろん本体がないので愛犬の脳を借りて特訓したわ。そして異星獣を倒す武器として、この能力を子孫に伝えたのよ」


「バイブルもその力をサラミス様から授かりました。でもパワーを使い過ぎた反動で今は使えなくなったと言っていたわ」


「そうそれは残念ね。今見たとおり彼等がまともに立ち向かって来れば、身を守るのは並大抵ではないわね」


その時、彼等が助けた異種族の二人が声を掛けてきた。

顔の造り、身体が全く異なるため面食らったが、高音で発する言葉の雰囲気から感謝の気持ちは伝わってきた。

もちろん意味はさっぱり理解出来なかった。


「じゃあこの二人から話しを聞いてみようかしら。誰か熊の人形を取ってきてくれる」


依頼の内容を不可解に思いながらも、兵士の一人が迅速に動いた。

彼女の力を見せ付けられ、迷うことなくその指示に従った。

彼女が人形を受け取ると、異種族の前に掲げた。


「じゃあ、もう一度話ししてくれる。あなた方の言葉を判別出来るかしらね」


どうやら彼等も体の小さいデリアがリーダーだと判断したようで、彼女に向かって再び話し始めると、人形が徐々に反応しだした。

最初は口を動かし、母音を発生するだけだったが、途中からはっきり言葉を発し始めた。


「大変ありがとう。おかげで命拾いしました。なんと言ってお礼すればいいか」


これにはリーラ達も驚いてしまった。不思議なことに明確に彼等の会話を理解できたのである。


「これは通訳人形なの。レアの知っている星の種族であれば私達の言葉で伝えてくれるのよ。もちろん逆も可能で、今の私の言葉は彼等の言語で伝えてくれているはずよ」


デリアの話も人形が同時通訳をしていた。

異種族の二人にも意味が通じたようである。


「じゃあ、教えてくれる。あなた方は誰でいったいどこから来たのかを」


「私達はカミュー族で私の名前はリクで彼女はカミラと言います。私達はどうやら別の星からゴール族の兵士達と一緒にこの星にやって来たようです。と言うのは空や大地、植物の色や姿形も全く異なるからです」


「あなた達を追掛けていたのがゴール族ね。どういう関係にあるの」


「彼らと私達はお互い敵どうしです。というより闘争力に勝るゴール族は他の全ての種族の殲滅を企てています。カミュー族もほとんどが殺され私達はわずかな生き残りで、戦いの最中に突然暴風に襲われ、気がついてみると彼らと一緒にこの星にいました」


「じゃあゴール族は先ほど倒した彼等だけではないのね」


「そうです。兵士のほとんどがこの星に運ばれたようです。私達が意識を取り戻した丘にゴール族が集結しているのを見ました。一万以上の多数の兵士が指導者の号令に耳を傾けていました。それはこの星の種族を抹殺し彼等が支配するというもので、私達は急いであなた方に伝ようと思いその場を離れましたが、途中であの5名に見つかってしまいました」


その話にリーラを始めメンバーの誰もが動揺した。

明らかに力の勝る難敵が一万以上いるとなると重大事であった。


「ありがとう。あなた達のおかげで早めに手がうてるわ。けれど彼等は相当強敵よ。何か弱点はないの」


「私達も様々な方法や武器で彼らと戦いましたが、全く歯が立ちませんでした。生まれつき全てのゴール族が兵士として育てられ、好戦的でほとんどが強力なパワーを持っています。そして狙った相手は息の根を止めるまで徹底して襲ってきます。まるで獲物を求める狩人のように残忍で冷酷です」


「じゃあ、カミュー族は逃げるしか手がないわけね。でももともとそうなの」


「いえ、以前の彼等は素朴で勤勉な農耕種族で、私達にも友好的で折り合いよく共存していました。ところが数年前から突然気質が変化しだして、我々を虐待するようになりました。聞くところによると、そのころゴール族の王が代わって、それ以来今の兵士達が作り出されてきたといいます」


「作られたとはどういうこと」


「はい、彼等は我々のような男女の生殖行為で子供が生まれるのではなく、王一人が繁殖能力を持ち、子孫を増やします。私達より成長が早く寿命は短いのですが、一度に多数の単一性の種族を、それも同じ能力の持ち主を生み出す事が可能です。見たところあなた方も私達と似ているようですね」


「そうよ。私達も男女別々で女性が妊娠して子供を生むのよ。個性も一人一人違うわね。それで兵士達は今どこにいるの」


「全ての兵士があなた方が来た方角を目指しています。私達は一足先に出発しましたが、先遣の隊員に見つかってしまいました。間もなく本隊がこの辺りを埋め尽くすはずです」


「それは大変ね。私達もここを離れる必要があるわね。でもその前にサライ今の話聞いたでしょ。急いでバイブル達に伝えてほしいの。それと手分けして近隣の人々に避難するように言って。もしゴール族を見かけたとしても決して近寄ってはだめ。万が一戦う事になった場合でも、一対一では敵わないことも忘れずにね」


「わかった。早速出発する。行くぞ」


「今のところとにかく彼等の攻撃を防いでほしいの。その間に解決策を探ってみるわ」


サライと兵士達6人が来た道を大急ぎで戻って行った。

ゴール族の実力を目の当たりにしただけに、いずれも真剣な表情であった。


「デリア、私達はどうするの」


リーラが彼女に尋ねた。ダンとアリスも身を乗り出している。


「カミュー族の二人にゴール兵士達が集まっていた場所に連れて行ってもらうわ。彼等を動かす物は何か、それを知る事が私達の身を守る鍵になると思うのよ」


カミューのリクとカミラも快くその依頼を引き受けた。


「でも何があるのか分からないわ。障害が待ち受けていることに間違いはないわね」


一行の目は北の方角に引き付けられていた。











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