死獄(二)
死獄(二)
緑に囲まれたリーマ市、一歩郊外に出ると豊かな田園地帯が眼前に広がる。カルム川の静かな水面に映る透き通った青空に、高らかにラッパの音色が響き渡った。もし旅人がこの心地よい日の、美しい情景に出くわしたならば、自然の恵みを感じたことだろう。ところが、こののどかさとは裏腹に、市内は重苦しい空気が支配していた。
街路の要所要所にガルガナ兵が立っている以外、出歩く者はほとんどいなかった。
多くの市民はそれぞれの家で息を殺して外の様子を窺っていた。市の繁栄の中核を担うべき男達の多くは、パルサ鉱山に連行され、強制労働を余儀なくされてしまったのである。従って、市内に残っているのは、ガルガナに忠誠を誓った市民、老人、女子供のみとなってしまった。
いつもと異なる静寂の中、市中央の一角にだけはとりわけ人だかりが見られる。
普段は演芸、祭典等が催される都市国家内で最も有名な屋外観劇場である。数千人の観客を収容でき、人気の役者、歌い手等が熱狂的な声援に応え、各々の芸を披露するはずのこの劇場も、今日はいつもと趣きが異なっていた。客席と舞台の境界は柵で仕切られており、その前には多くのガルガナの兵士が立ち並んでいる。観客席には多くの市民、近隣の都市からやって来た人々が詰め掛けていた。
だが、彼らは開演を待ち望んでいるのでも、目当ての俳優の登場を期待しているのでもなかった。これから舞台で行われるであろう惨劇を悲痛な思いで見守るために待っていたのである。
文化面において、はるかに後進であるガルガナのザボン王は、自らの力をリーマ市民に誇示するべく、象徴的で格好の場所を選んだのであった。が、その演出は市民達にはあまりに残酷で刺激的すぎた。
進行役はガルガナ国の軍務長官であった。彼は高圧的な態度で柵の前に集まってきている人々に向かってしゃべり始めた。
「ただ今より、神聖なるガルガナ法典に従った公正且つ厳粛な裁決により、死刑の判決が下された罪人に対し、刑の執行を始める」
客席側のあちこちから声にならないどよめきが渦巻く。
「最初に、リーマ市前内務長官サイモン出よ」
彼の指示で、兵士達は一人の男を取り囲み舞台上に連れ出した。彼は目隠しされ、猿ぐつわを咬まされていた。柵を挟んだ前列には彼の家族達であろう数人の男女が、悲痛な叫び声を上げ、助命を請うている。しかし、彼らの願いも空しく、サイモンと呼ばれた男は、情け容赦なく軍務官の前に立たされた。
「被告人、サイモン、ガルガナ法に則り反乱罪で刑を執行する」
軍務官が宣告すると、サイモンは口も聞けず、相手を見ることも出来ないままに、舞台の片側に作られた木柱の前に連れて行かれた。そして、その柱に胸と足を固く縛られた。その反対側には弓矢を持った数人の兵士が配置についている。
「お父様!」
「サイモン!」
と観客席から痛ましげな叫び声が飛び交っていた。その声に気がつきサイモンは何か言おうともがいた。が、軍務官はそれらの様子を斟酌することなく、構えの合図をした。
狙撃兵達は終始無表情である。
そして、軍務官の
「やれ」
の一言で一斉に弓を引いた。
その直後サイモンの体には、数本の矢が貫いた。観客席からは、何とも表現の出来ない胸の張り裂ける様な呻きが漏れる。女達は泣き声を上げ、ショックで失神する者もいる。
兵士達は絶命した男を柱から離し、舞台裏に運んで行った。およそこの民主性を重んじる文化都市には相容れない残酷な光景であった。
けれども、軍務官は周囲の反応を意に介さず次の罪人の名を告げた。この間、集まった市民はやり切れない絶望と恐怖に苛まれていた。
そして次の死刑囚が舞台に引き出された。
その観客席の後方に二人の若いリーマ市民がいた。一人がもう一人に声を掛ける。
「忘れるものか。俺達は決してこの屈辱を忘れたりしない。そうだろサルファイ」
「こっちを向くなシリウス。兵士達に怪しまれる。出来るだけ怒りを忍び、悲しそうな顔をしているんだ」
彼の言うようにガルガナ兵は反抗しそうな市民を手当たり次第連行し、パルサ鉱山に送っていた。彼らは何とか今日までその追及を逃れていたのである。
「だが、このままでは済まさぬ。いずれ奴等に報復してやる」
その言葉には、憎悪の念が込められていた。
「ザボンだ。彼等はザボンに操られているだけだ。シリウス、復讐からは何も生まれてこぬ。ところで仲間達からは連絡は取れそうか」
「ああ、我々のように地下に潜伏している者。そして地方に逃れた者の一部とようやく連絡が取れた。だが、奴等と戦うにはまだまだ不充分だ。誰かが先頭に立って動かないと反乱は無理だ」
「待つんだ時期を。今に必ず機会が訪れる。その時まで出来るだけ人集めをしておくんだ」
「わかった。今にみろ必ず仕返ししてやる」
このような会話が行われているとはつゆ知らず、ガルガナ兵は刑の執行を続けている。市民達はこの悲惨な場面を正視出来ず、お互い慰め合い、涙に暮れていた。
この緑豊かな田園都市を恨みのこもる真っ赤な血で汚していたのである。
*
ここはバンガル地方の中心都市から北側に位置する街外れの一軒の民家に、老人が住んでいた。
その家は一人で住むには広すぎたが、妻も子供も居る気配はなかった。今日も夜が更け、一日の疲れた体を寝床で癒そうとするところであった。
その時、何度か表の戸をたたく音が聞こえた。
彼はこの遅い時刻にいったい何の用事なんだと、ぶつぶつ言いながら扉の所まで歩いて行く。その間も絶え間なく戸が叩かれている。
「分かったよ。そう焦るなよ。今行くよ」
と不平たらたらでかんぬきを外した。扉を開けると、大柄な男達三人とその後ろに女性と子供が立っていた。彼が予想していたガルガナ兵でなく目を白黒させたが、前にいた男が、
「モロダイ、夜遅く悪いな、俺がわかるか?」
と言うと、モロダイと呼ばれた男は、まじまじと彼らの顔形を眺め回す。
やがて思い出したようだ。
「バイカル、バイカルなのか。本当にお前か?」
男が頷く。
「生きていたのか。久し振りで驚いたぞ」
モロダイは喜びを表したが、やや慌てて、
「まあ中に入れ、そこで人に見られるとまずい」
彼らを中に引き入れた。
彼はバイカルと再会を喜び抱き合った後、
「サドニス、ジュラも元気そうだな。真っ黒になって、一体何年ぶりなんだ」
「ちょうど十年だ。モロダイ」
彼はすぐにその答えの意味に気づく。
「ま、まさかバイカル。お前達ははまだあの時のことを・・」
「そうだ、そのまさかだ。我々は約束の十年をようやく迎えた」
彼はその言葉に絶句し、申し訳なさそうにうな垂れた。
そして歯を食いしばり伝えた。
「俺は、お前達の依頼を果たすことが出来なかった。預かった家族を守ってやることが出来なかった」
「じゃあ俺達の家族は?」
「連れて行かれたんだ、ガルガナの奴等に。俺の息子も一緒に。今は一人でこの家を守っている」
彼等はお互いの顔を見合わせ、真偽を測りかねている。
「なぜそのような事に、俺達はいったい何の為に・・」
サドニスは呆然自失の態であった。
「お前達はこのバンガルがどうなったか知らないのか?」
「いや数日前、この娘達から大体の話は聞いた。だがどうしてなんだこの変わり様は」
バイカルは部屋の中の荒れた有様を見回して尋ねた。
「そうか知ったのか。実は俺の息子は今、ガルガナに駆り出されてリーマ都市に兵卒として行ってる」
「え!、リーマにガルガナの兵士として!」
スーシャは驚いて口を挟んだ。
モロダイは不可解な表情で彼女の顔を眺めた。
「彼女はリーマ都市の人間だ。父親がガルガナ兵に捕らえられたそうだ」
とバイカルは説明した。
「そうか、それは気の毒に。今リーマ都市は占拠されたと聞く。だが、なぜ女の身でここまで」
「私の父はソロンと言います」
彼女が話し出すと、モロダイは仰天してしまった。
「なに!、あのリーマ都市の最高指導者ソロンのことか?」
「そうです。父はバンガル死獄に幽閉されたと聞きます。それで、そこに行かれようとしているこの方々に無理言ってついて来たのです」
「バンガル死獄だって、バイカルお前達はやはりあの洞窟へ行こうというのか。でももう十年だ。生きているとは・・」
モロダイは泡を食ってしまった。
「だが、あの時王にも息子にも約束をした。我々はその為にアルガニア山中で長い年月耐え忍んだ。ところでモロダイ、王は今どこにいる。そして我々の家族は?」
二人の兄弟も膝を乗り出していた。
が、彼は言い難そうで押し黙ってしまった。
「言ってくれモロダイ、我々はもう何を聞かされても驚きはせん」
とバイカルは促す。彼は眉間に皺を寄せ苦しげに話し始めた。
「王はガルガナ軍が侵攻してきた時、彼らに拘束されそのまま消息が分からぬ。王妃を初め王族達もガルガナに連れて行かれ殺されたと聞いている。そして、我々はザボン王に忠誠を誓うよう強要され、多くの若者は強制的に彼らの軍に編入されてしまった。小国ゆえの悲哀、末路だといって過言ではなかろう。皆が言ってる。お前達さえ居たならば、王族達もあのような羽目に陥らなかったであろうと。更に女、子供は順次ガルガナの地に送られ、奴等の側女とされたり、働かされたりしている。特に小さな子供たちは、ある場所で洗脳されているそうだ。サドニス、ジュラの妻子も連れて行かれた。私の妻は悲憤の内に一昨年死んでしまった。だが非力な私にはどうすることも出来なかった」
彼は話し終えた後、目に涙を浮かべうな垂れてしまった。サドニスとジュラは呆然として立ち尽くす。
「わかった、だが今さら悔やんでも後戻りは出来ない」
バイカルは心に渦巻く複雑な思いをかろうじて押し止め、質問した。
「それで死獄の鍵は誰が持っている。末息子だけでなく、この娘の父親も投獄されている。我々は明日にでも向かいたいのだ」
バイカルの意向を聞き、スーシャも願い出た。
「私も皆さんのご心痛の程、充分に推察致します。でも私達リーマ市民も同様の運命が待ち受けているのです。既に十数人の者が死刑にされたと聞いています。その為にも父を助け出したいのです。そして再びガルガナと戦い、彼らに鉄槌を下したいのです。お願いです、モロダイさん。私達に力を貸して頂けないでしょうか」
モロダイはか弱い女性でありながら、必死の形相で訴える姿に心を打たれた。
「もちろん、私も息子もガルガナのやり方に憎しみを感じている。同様に反感を抱いている者も多く、今まで何度も奴等を追い出す方策を話し合ったが、結局無力だと知り諦めた。だが娘さんの父親はソロンだと言ったな。彼はリーマ都市建設の立役者として我々にも知れ渡っている。彼なら奴等を倒す方法を考えてくれるはずだ。協力するよ」
更に続けて、
「バイカル、鍵はバンガル旧王宮に駐在している軍司令が持っているはず。今リーマ都市侵攻で警備は手薄になっている。王宮内に忍び込み奪い取るのはそう難しくないと思う」
「あそこなら私もよく知っている。サドニス、ジュラ明日にでも乗り込むぞ」
とバイカルが言うと、ガルガナに対して憤激していた二人は、
「もちろんだ、親父」
当然のごとく呼応。
「そうか、やるか。久し振りに私も元気が出てきた。お前達が帰って来たのは心強い。あのガルガナの兵士達に一泡吹かしてやろう」
モロダイは目を輝かせた。
「そうと決まれば今夜はぐっすり休むといい。その前にお腹が空いているだろう。今適当な物を見繕ってくるから少しここで待っているがいい」
そう言って隣の部屋に入って行った。
*
「ところでバイカルさん、あなたの息子さんはなぜあのような所に入れられたんですか?」
スーシャは勧められた椅子に寄りかかり、疲労した体も暖炉で暖まり徐々に回復してきたことで、思わず気になっていた疑問が口を吐いて出た。
バイカルはやや躊躇していたが、サドニス、ジュラに眼差しで了解を得、沈痛な面持ちで語り始めた。
「もう話ししてもよかろう。昔、私はバンガル王の側役人で、サドニス、ジュラの二人は王室直属の近衛兵だった。私達は王に忠誠を誓い、それなりに信頼されていた。ところが末息子は短気な性格で、私達が甘やかして育てたせいもあって大変な乱暴者であった。何度も暴力、喧嘩沙汰を起こして、幾度か苦情を言われたが、まだ子供だということで大目に見てもらった。そう当時はある程度地位の高い子息が通う教練所で学ぶ生徒の一人であった。しかし、その後も奴の行状は改まる様子はなく、とうとう王にも噂が聞こえてしまった。その為、王から直々に、厳重な監視と規律、教育指導を徹底するよう指示があり、末息子に今後一切面倒を起こさないことを誓わせた。
ところがある日、同い年の王の長男、つまり皇太子と王族の子息、その取り巻きの若者達と一緒に遠乗りの機会があった。どうやら息子は彼らにとって格好の苛めの対象としての目的で誘われたようだ。日頃の振る舞い、悪行を知られてか軽薄者として笑いものにされ扱われてしまった。更に酷い仕打ちを受け、それまでの辛抱を抑えることが出来ず、皇太子達と言い争いになってしまった。まさか自分達に危害を加えるはずがないと信じた彼等は、なおも息子を卑しめ辱める。もちろん相手が一人だと見くびり挑発した。そしてとうとう息子は自分を見失ってしまう。その時の記憶が欠落するほど頭に血が上っていたようだ。
気がついた時には既に手遅れで、皆が地面に倒れ伏していた。なんと皇太子は首の骨を折り即死。他の者も全て傷付いてしまった。だが喧嘩慣れした乱暴者とはいえ、まがりなりにも武器を持った六人もの人間相手にどうして素手で立ち向かうことが出来たのか、誰も説明が不可能であった。が、いずれにせよ息子は王の次期後継者を殺害するという取り返しのつかない大罪を犯したのだ。王と王妃はその死を深く悲しみ、息子は捕らえられ、我々も監禁となった。
王族及び重臣達は皇太子の殺害という重大な犯罪行為にあたり、当然のように息子と監督を怠った私達に死罪を言い渡した。私の妻はそのショックで急死してしまった。我々は覚悟を決め刑が執行される日を待った。
が、我々が日頃から敬愛し信頼する王は、昔から慈悲深いことで知られており、罪人を死刑にすることは望まなかった。しかし、私達を許したとあってはバンガル国民に示しがつかない。一方で、自分の息子を殺された苦悶は計り知れないものがある。そして悩み思い迷われた末に下された結論は、我々の忠節、愛国心を考慮に入れ、死刑判決を覆しはするが、末息子に対してはバンガル死獄に幽閉、我々三人については十年の間、人との交わりを絶つこと、そして、それが間違いなく履行されて初めて我々の罪を許すというものであった。その代わりに家族については責任を問わないと申された。我々はすがる思いでその申し出に従った。せめて家族だけでも救われるのなら充分だと。もちろんその内容は死より残酷なものであったかもしれないが、寛大な処置に酌量頂いたと自分に言い聞かせた。
その後、警備兵と一緒に末息子を死獄に連れて行った。当然そこがどういう所か、幽閉の意味も皆承知していた。末息子が十年どころか一ヶ月もつとは到底思えなかった。いや今でもそう思っている。だが、牢に閉じ込められる直前の別れ際に、末息子は我々に向かって真剣に言った。
『俺は大変な罪を犯してしまった。極刑にされても仕方なかったと思っている。だが生きてみせる。十年の間、この牢で苦しみもがきながら生き長らえること。それが俺の罪の償いだ。だから必ず迎えに来てほしい』
我々は約束した。絶望的で不可能だと解っていても、末息子の苦痛と、気の遠くなるような孤独を哀れに思い、その約束を果たすことを誓い合った。それから我々は親友のモロダイに家族を預けアルガニア山中へ旅立ったのだ。長かった。辛くもあった。しかし、我々を支えたのは、再び家族と暮らせる日の到来と、末息子との固い絆であった。そして我々が敬愛して止むことのない王への忠誠。これは今も変わらない」
スーシャにとって彼の話はおよそ信じ難いものであった。
しかしながら、彼女の目前には、まさしく驚嘆すべき忍耐力と不屈の精神をもった親子の姿があった。十年もの間、人との交わりを禁じられ置く深い山中の暮らしを強いられた人間。
一方で、食べ物もなく、光も差し込まない洞窟の暗闇の中で、はたして普通の人間が無事でいられようか。もし生き続けていたとすれば、強靱で人間離れした怪物ではなかろうか。
いずれにせよこの想像を絶する境遇に一言も発することが出来なかった。
「スーシャ、お前はリーマ市以外に帰るところがないと言っていたな。それは我々も同様だ。我々にとって戻る国はこのバンガルしかないのだ。この母国であるバンガルを攻撃し、家族、人々を蹂躙したガルガナには強い憤りを覚える。耐え忍んだ苦悩の十年の末に、我々を待ち受けていたのは、国も家族も存在しない変わり果てた姿であった。このやるせない思いを決して忘れることはないだろう」
*
男達はほころびの目立つ着古した衣服を身にまとい、見え隠れする肌を、途切れることがなく吹き刺す冷風と戦いながら、岩を削り土を掘り起こして、石塊を運んでいた。
いずれの顔も薄汚れた汗と泥にまみれている。誰一人として互いに話し掛ける者はいない。ただ、黙々と数百人の囚人が機械的に自分の意志を持たぬかのように決められた作業を繰り返している。そしてその周囲にはガルガナ兵が、彼らが手抜きしないよう監視していた。
その兵士達の目の前で、過酷な作業で疲れ切った男が、膝から崩れ前のめりになって倒れてしまった。仲間達が作業の手を休めて心配そうに駆け寄り、その内の一人が、
「おい、大丈夫か?」
と抱え起こす。が、すぐに兵士達が数人近づき、彼らを押し分け追い払った。
「おい、余計なことをするんじゃない。お前達は指示されたことだけをやればいいんだ」
脅された男達は不満そうであったが、係わり合いになるのを恐れしぶしぶ持ち場に戻った。ただ、助け起こした男だけは動こうとはしない。
「頼む、この男は疲れ切っている。休ませてやってくれ」
「何、貴様俺達に指図するつもりか。そこをどかないと承知しないぞ!」
「このままでは死んでしまう。情のある人間なら配慮してやって当然じゃないか」
「あくまで逆らうつもりだな。痛い目に会わんと分からぬとみえるな」
兵士の一人が鞭を取り出し振り下ろす。男は咄嗟にその先端をつかみ、逆に彼を引き倒してしまった。
仲間達はこの成り行きを茫然と見守るだけであった。転んで恥をかかされた兵士はすっかり逆上、起き上がりざま部下達に命じる。
「貴様、よくも抵抗したな。もう容赦しないぞ。おいこいつを痛めつけろ」
兵士達は彼を倒れた男から引き離し、一方的に乱暴し始めた。多人数に一人では如何ともしがたく、顔といい腹部、足等全身に殴る蹴るの暴行を受けた。
周りの囚人達はただ歯軋りしながらながめている以外ない。
そう、彼等はガルガナに捕われの身となり、連行されて来たリーマ市民であった。都市国家体制が侵略によって崩壊して以来、囚人としてパルサ鉱山で重労働の刑に服役させられた。
実態は、終日ガルガナ兵士に監視され、採掘作業を強要されたのである。満足な食事、休養も与えられず、逃亡しようとした者、反抗しようと企てる者は徹底的に拷問が加えられた。
体の弱い人々は次々と倒れていったが、手を差し伸べることもなく見捨てられた。既に多くの市民が亡くなっていた。それでも、この厳重な見張り、武装した兵士達の前では全く無力である市民達は、泣く泣く服従せざるを得なかったのである。
「我々に逆らうとこの様な目に会うんだ。よく覚えておくんだな」
兵士は男の髪をわしづかみにし、唾を吐きかけた。男はボロ屑のように地面に横たわっていたが、かろうじて意識はあった。
「おや、お前には見覚えがある。確かザイアスとか言ったな。ふふふ、お前の親父のサイモンは数日前、公開で死刑にされたそうだ。お前もそうなりたくなかったら、ここでは大人しくしているんだな」
残忍な響きの言葉を投げつけ、そして部下達に命じる。
「おい、この二人を片付けろ。独居房に入れるんだ。この男には二日間食べ物を与えるな」
男は殴られた激痛で体を動かすことすら覚束ない有様であった。疲労で倒れた男ともども、無理矢理引きずって行かれた。
他の囚人達は諦め切って、再び作業に就いている。
彼等はいずれも瀕死の体を、近くの石壁に囲まれた建物に入れられた。中にはいくつもの厚壁で敷居された狭くて暗い個室が並んでいる。数人の囚人が収監されており、横になったまま動かない者もいる。
別々に独房に放り込まれた。
「お前も観念するんだな。二度と俺達に刃向うんじゃないぞ」
その声をザイアスは朦朧とした意識の中で聞いていた。鍵を掛け兵士達が去って行く。ザイアスは全身が硬直し、顔から血が滲んでいる。今に見ろ、必ず親父の仇を取ってやると心に誓ったはみたが、すぐに痛みが身体を襲った。
その時、一人の兵士が独居房に入って来た。真っ直ぐザイアスの元に近寄る。
また嘲笑しに来たものと思い込み、ザイアスは嫌悪の表情で見返した。
兵士は身をかがめ、柵越しに手を伸ばした。
「あまり無茶するんじゃないぞ。さあ、これを受け取るんだ」
彼の持っていた物は、水の入った竹筒と干し肉であった。ザイアスは意外ではあったが、ゆっくりと腕を伸ばした。
その兵士は彼を同情の意を込め見詰めていた。
「モロイ、何をしている。行くぞ」
との声。
「ああ今行く」
その兵士は答え、再び外に出て行った。
「モロイと言うのか・・」
ザイアスは体を横たえ眠りに落ちていった。
*
「スーシャ、大丈夫か?」
「私は平気よ。でも何て不気味なのこの洞窟は。今にも化け物が出てきそうな雰囲気だわ」
身を震わせながら応えるスーシャ、ロモ、そしてバイカル親子は死獄に通じる洞内を進んでいた。
「この方向で間違いないの?」
彼女が不安気に尋ねる。
「ああ大丈夫だ。十年前に来た時と何も変わってない。あの大きな岩肌には見覚えがある。もう少しだ」
「でも親父急がないと。奴等ももう鍵を盗まれたことに気づいているかもしれん」
横でサドニスが口を挟む。
彼等は夜の内に、旧王宮に死獄の鍵を手に入れる為に忍び込んだ。かつての勤務場所であったこの建物のどこに軍司令が居るかを探し当てるのに造作はなかった。
彼が一人になるのを見計らってサドニス、ジュラはその身体を拘束、鍵の引渡しを強要した。野蛮人のような大男であるこの兄弟の脅しに、身の危険を感じ素直に鍵を手渡した。
そして、彼を縛り上げ閉じ込めた後、バイカル達と合流し、大急ぎで馬を走らせて来たのである。
「おいここだ。どうやら牢の前に出て来たぞ」
あたりは相変わらずの暗闇であったが、広々とした空間が出現した。
その正面に立ち塞がる巨大な岩盤の下部に、人一人がようやく入れる程度の洞穴があり、鉄柵が嵌め込まれている。バイカル親子はその前に立ち、十年の歳月を感慨深げに噛み締めていた。又、スーシャは父親の無事を願い、緊張の面持ちであった。
しかし誰もがこのおぞましく薄気味悪い場所から一刻も早く逃れたいと思いがあり、それだけに、この中で生き続けることが可能であっても、想像を絶する苦痛を味わうに違いない。やがてジュラが感傷から目覚め、
「よし、俺がここから声を掛けてみる」
と彼等に言った。
「おーい。誰かいるか!」
「いるなら返事してくれ!」
大声が洞内に反響する。けれども返答はない。更に三回呼びかけたが、後は静けさが漂うだけであった。
「やはり駄目だったか」
サドニスが諦めかけると、
「いいえ、もしかしたら動けないのかも、声も出せないのかもしれないわ」
即、スーシャがむきになって反論。
「よし、中に入ってみよう」
バイカルが鍵を開ける。
「ロモ、お前はここで待っているんだ。誰か来たら我々に知らせろ」
指図し、四人は屈み込んで順番に中に入って行った。
岩壁から水が滴り落ち、流れる音を耳にしたが、それ以外は全くの静寂が支配し、人のいる気配はない。彼等は火明かりをかざし、ゆっくりと奥へ進む。かなり広がりのある洞穴のようだ。しばらくして遠くに光るものを認めた。
「何だろう、あれはいったい?」
ジュラが声を潜めた。それは炎のゆらめきのようで、近づくにつれ輝きは強くなっていく。
やがてその光の源が無数の人骨であることがわかった。四人とも吐きそうになったが、その傍らに人が横たわっている事に気がついた。
まだ体型、顔ははっきりしている。スーシャは息を呑んだ。そして、
「お父様!」
と叫びながらその人物に走り寄り、抱きついた。
「お父様、私よ、スーシャよ」
抱え起こし、何度も揺さぶったものの応答はない。バイカル達も近寄りその男を確かめたが、もはや手遅れで、彼女に向かってゆっくり首を振った。
ソロンは既に息絶えてしまっていた
。
「お父様!・・」
スーシャは悲鳴に近い声で泣き出してしまった。
「やはり間に合わなかったか・・」
バイカルは徒労に終わったと知って嘆息する。
「だが、何て安らかな死に顔なんだ」
サドニスはソロンが苦しまず息絶えた様子を見て驚いた。その間もスーシャはソロンに身を寄せながら泣き続けている。三人とも、この場所がとても人が生き続けられる環境でないことを改めて実感した。
「いつ息を引き取ったのかな?」
とジュラが気の抜けた質問をした。
「いや、そんなに時間は経ってないだろう。まだ皮膚は変色していない」
その時彼等の背後で、
「昨日だよ、親父」
と声が掛けられた。彼等はびっくりして振り返った。
そこにはぼろぼろの服を着たほっそりした男が立っている。火明りが眩しそうで両目を腕で蔽っている。
「お前、まさか!」
バイカルは絶句。
サドニスとジュラも呆然と立ち尽くす。
「そうだ、俺だ。やはり来てくれたか親父、兄貴」
と彼はゆっくりと腕を動かしその顔を現した。
スーシャも目に涙を浮かべたままその男を見つめていた。
「ギリア!」
「ギリア、お前か。そうだ間違いないギリアだ。生きていたんだな」
バイカルは満面に喜びを浮かべながら末息子に手を伸ばし抱擁した。
反面、彼等は誰一人信じられない様子で、奇跡に遭遇した感があった。
「死ぬものか。俺はひたすら待っていた。必ず来てくれると信じていた。ただ残念なことにソロンはとうとう息を引き取ってしまった」
とスーシャと横たわった男を見て言った。
その時、外からロモが慌てふためきながら駆け込んできた。
「大変だ。兵士達が来た。もうそこまで来ているよ」
「何!、もう来たのか。ギリア、話は長くなるが、ガルガナ兵が我々を追って来たんだ」
「知ってる。ソロンに全て聞いた」
ギリアは驚きもせず答える。その内、牢の外が騒がしくなり、はっきりと兵士達の声が聞こえだした。
やがて、
「おい、お前達、中に居るのは分かってる。我々はここを包囲したぞ。大人しく出て来い」
彼等の頭上に怒声が何度もこだまする。
「どうする親父、俺達は袋の鼠だ」
「我々が鍵を持っている。だから閉じ込められることはないが、戦う以外なさそうだ」
バイカルは決心した。ところが、ギリアが少しの動揺も見せず彼等を制して言う。
「ここは俺に任せてくれ」
と。皆一様に驚き、躊躇せざるを得ない。
昔、乱暴者としてならした彼でも、相手は武器を手にした多人数である。ましてや、見た目に痩せ細っており力も衰えていよう。
「何を言うギリア。いくら何でもお前一人では無理だ」
サドニスが反対した。しかしギリアは平然とそれを遮った。
「親父、兄貴達もここで待っててくれ。すぐ片付けてくる」
彼の態度は自身に満ち溢れていた。そして入り口に向かって進んで行く。直前で立ち止まり、
「今行く。出て行くから待ってくれ」
と声を掛けた。鉄柵を開け外に出ると、十数人の兵士が洞内にいた。
ギリアは怖れることなく彼等の前に、姿を見せ付けた。
その風姿は彼等をたじろがせるに充分異様な成りである。
「何者だ、お前は」
と兵士の一人が怒鳴った。
「俺か、俺はギリアだ」
逃げようとする素振りも見せず答える。
「生意気な奴だ。大人しくしろ」
一人が彼の肩に手を掛けたが、逆に払いのけ引き倒す。
「やったな、こいつを捕らえろ。殺しても構わん」
兵士達が一斉に立ち向かって来た。
その瞬間、周囲は地響きと共に、猛烈な突風が吹き、悲鳴が洞内に轟いた。
牢の中で待っていたバイカル達は、何が起こったか分からぬままに、入り口から吹き込む粉塵を避けた。
やがて、兵士達の声もしなくなり、辺りは再び静かになった。彼等は恐る恐る鉄柵を開け外に出た。
が、そこには信じられない光景がみられたのである。明かりをかざすと、あちこちに兵士達が呻き声を上げ倒れているではないか。
そして、その前にはギリアが立っていた。
「何をしたんだ、ギリア」
ポカンとした表情でサドニスが尋ねる。
「説明は後だ。兄貴、親父、早くこの洞窟を出よう」
「そうだな、急いだほうがいい」
バイカルは同意したが、スーシャが目に涙を浮かべ、
「いや、このままお父様を置いていけない。可哀そう・・」
バイカルは困惑したが、ギリアは何か気づいた様子で、再び牢内に入って行った。
しばらくして外に現れた彼は、何と肩にソロンの遺体を担いでいた。
「どうしようと言うんだギリア。スーシャには申し訳ないが、お荷物になるぞ」
とサドニスが注意すると彼は、
「約束だ。俺はこのソロンに誓った。今度はそれを果たしてやらねばならぬ」
と答えた。
スーシャは安心したように寄り添い、彼等は来た道を引き返して行った。
*
リーマ市の中央にある市庁舎にザボン王がガルガナから到着していた。彼はその一角を王室として豪勢に改造させ、リーマ都市支配の中心地として、強権を奮おうと目論んでいたのである。
今、その一室に宰相のザイムが呼ばれ、話し合いが持たれていた。
「殿下、港湾都市のケソンもようやく降伏しました。これでリーマ都市の全てが我国のものとなりました」
「そうか、ついに念願が叶ったわけか。このカルム河畔は商都市、穀倉地帯として恵まれている。我ガルガナもこの地を拠点として更に飛躍致そうぞ」
「既にパルサ鉱山には、かなりの捕虜、抵抗した市民を送り込んでおります。各都市はガルガナの兵士で固めており、もはや刃向かう者はないと推察致します」
「そうか、更に厳しく取り締まりを続けよ。彼等に反抗しようとする気を起こさせる余裕を与えるではないぞ」
「はい、それは充分承知しております。幹部達が処罰された後は、もはや我々に抵抗する気力を失っている模様です。ご安心下さい。ところで殿下。捕虜もかなりの多人数となってきており、かねての計画通り、この地に王宮を建設する工事を開始致したいと存じますが」
「そうか、彼等も退屈していることじゃろうて、彼等を使って世界に類を見ない王城を築き上げるのだ。市民達もさぞかし本望であろう。そしてあらゆる金銀財宝を城内に飾り、我々の力を世界中に誇示するのだ。今から完成するのが待ち遠しいわい」
ザボン王は自らの言葉に満悦し目を細めた。
「更に、女子供はバンガルの時と同様、本国に人質として送ります。子供たちはガルガナの兵士として鍛えられることでしょう」
「うむ、それでよい。この世界に大国として君臨するこのガルガナの立派な兵士として育てるがよい」
「しかし、いつもと変わらぬ殿下のご見識の深さには、我々もただただ頭が下がる思いでございます。まことにお見事で敬服致しております」
とザイムは精一杯のお世辞で王を称えた。
「そうか、そうか、私に従ってさえいれば何も案ずる事はない。いずれこの地に富と平安を与えようぞ」
リーマ市民の苦悩をよそに、この部屋の主は得意の絶頂に満ち溢れていた。
*
バイカル達は死獄から一目散に舞い戻り、昼過ぎには何とか警備兵を避けて、モロダイの家に辿り着いた。彼等が中に入ると、六人のバンガル人が集まって来ており、バイカルは面食らった。
「おお、バイカル無事であったか、それにサドニスとジュラ。モロダイの言ってた事は本当であったか」
彼等はモロダイからの連絡を受けて、それぞれがガルガナ兵の目を盗んで、急ぎ駆けつけて来たのであったが、皆一様に再会を喜んだ。だが、遺体を担いだギリアの奇怪な風態を見て、言葉を失ってしまった。彼は泥まみれの服を着て、髪の毛といい髭といい伸びるに任せていた。おまけに、十年間の暗闇での生活で全身の肌は真っ白。瞳は猫の目のように黒く輝いていた。もちろん体は痩せ細っていて、いかにも弱弱しく見える。
「お前はまさか・・」
一人が名を言おうとしたが後が続かない。
「そうだ、ギリアだ。ほっそりはしているが確かに息子の面影は残っている。間違いない。昔はもっと太ってはいたがな。それとその遺体はリーマ都市の主ソロンだ。我々が行った時には既に亡くなっていた」
バイカルはやや複雑な面持ちで説明した。ソファに降ろされたソロンの傍らでスーシャがまだ悲しみに暮れている。
「でもいったいどうやって十年間生き延びることが出来たんだ」
彼等は皆半信半疑の様子だった。
「そうだ、それは我々も知りたかった」
サドニスも尋ねる。すると腰を下ろしたギリアは彼等を見回し、昔を振り返りながらゆっくり語り始めた。
「俺は親父たちと死獄で別れた後一人になった。皆に誓いはしたものの、あの暗闇の中でとても生き続ける自信はなかった。水はあったが食べられる物などなかった。じっとしていると氷のような寒さが襲いかかった。唯一、それまで閉じ込められ死んでいった人骨から発する光が俺の救いでだった。一週間が経って飢えと寒さで体が動かなくなり、もはやこれまでだと死を覚悟した。ところが、死の間際に岩壁に俺が今まで見たことのない、得体の知れない人影が現れた。俺は恐怖で身が竦んでしまった。なんとその後、今でも信じられないが、俺に話しかけてきたんだ。
『私はお前を待っていた。我が子孫よ。数百年の間ここで待ち続けていたのだ。お前には使命がある。私には果たせなかった使命が。生き続けよ、迎えが来るまで。そしてこの洞窟から出るのだ。必ず出て私の代わりに降りかかる運命を切り拓くのだ』
と、するとその影は牢内のある場所を指し示した。そこにある物を食えと言う。何度か俺が死線をさまよった時、必ずその影が出現し、俺に食べるよう指示したんだ。それは、岩陰に育つコケであったり、暗虫、へび、トカゲ、コウモリの類であったりした。俺は薄気味悪かったが無理矢理それらを食べ、飢えをしのぐことが出来た。それまで見るのも嫌だった生き物をも食うことが出来たんだ。なぜだか今でもわからない。その内、俺の肉体はあの劣悪な環境にも慣れ、体力も回復して生き延びることが可能となった。ただ、後から入れられた者にはそれが出来なかった。その中にはバンガル王もいた」
「何!、王もか!」
皆、驚きのあまり同時に怒鳴っていた。
「そうだ、王は俺を見てすまなかったと誤ってくれた。もしガルガナの侵攻がなければ、恩赦を布告するつもりだと言ってくれた。俺は涙が出るほど嬉しかった。だが、俺は王の息子を殺した。その罪は必ず償い全うすると王に誓った。王は涙ながらに俺を許してくれたが、しばらく経って体力がもたず亡くなった。ガルガナへの憤りを口走りながら」
「ちきしょう、ザボンめ。やはり王を死獄に閉じ込めたんだ。あの誰にでも優しかった敬愛して止まない王を・・」
男達は一斉に涙にむせんだ。
「その後も、バンガルの顔見知りの王族、高官達が入れられた。だが誰一人生き延びることは出来なかった。俺を除いては」
「もう我慢ならん、バイカル。この悔しさをガルガナの奴等にぶつけてやるんだ。奴等を地の果てに追いやってやる。皆もそうおもわんか」
一人が訴えると、周囲の男達も賛同したが、バイカルは冷静に彼等を鎮め意見を述べた。
「俺もそのつもりだ。だが我々の意志がどんなに強くても、奴等と戦い勝利する手立て、方法を考えることのできる人間が必要なのだ。その為、ザボン王が最も警戒するリーマ都市の指導者ソロンの生存を祈った。知力に優れた彼なら、戦略を練って我々を導いてくれるだろうと。だが、それも淡い期待に終わってしまった」
ソロンの娘スーシャも目を伏せて唇を噛み締めている。周囲も沈鬱な雰囲気に包まれた。
だが、一人ギリアだけが迷う素振りを微塵も見せず、その後彼等に言ったことは思いもよらないものであった。
自信と気概に溢れた一言。
「俺が知っている、その方法を。全てソロンから教わった」
スーシャを始め全ての視線がギリアに釘付けになった。