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デリアの世界   作者: 野原いっぱい
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異郷(プロローグ)

     プロローグ

         

 母星暦3050年、人類の生活拠点は母星の周回軌道に浮かぶ巨大な船体の内側にあった。

扇状に広がった多種類のアンテナと、色とりどりの照明の輝きに目を奪われる宇宙ステーションは、改修、合体を繰り返した凹凸の多い外観であった。幾世代もの年月を経た末に、快適な生活空間を目指して、住居や各種設備ゾーンの増設が都度実施され、現在の不規則な入り組んだ形状に至ったのである。


 五百年前に母星は人類自らが招いた複合汚染が極限を超え、オゾン層が消滅すると同時に大気圏が崩壊、地上は動植物が生息できない焦土と化した。

一部の人々は、その日の到来を事前に予測、母星を脱出して狭い宇宙船内での生存を模索し始める。

彼等にとって、もはや人種も宗教も思想も私欲も関心事項にはなかった。

人類が生き残り、子孫に貴重な知識や文化を正確に伝える環境を作ることが最優先の課題となった。

 当初は苦難の連続で、様々な事故や犠牲を積み重ねながら、狭い空間の有効活用を試行錯誤し利便性を追及していく。地上の大規模シェルター内に残った人々とも協力し合って、徐々に多数の乗員が暮らせる施設に拡充していった。

この間、何世代もの移り変わりがあり、かつての母星の豊かな自然や景色の記憶が薄れ、人工的で密閉された居留空間内での生活が通常の感覚となってしまった。

 一方では科学技術は進歩し、遠距離の短時間での移動が可能となる。

そして宇宙ステーションの拡大も限界に達し、新たな居住場所を確保するため、太陽系内の別惑星や衛星へも足を伸ばす。又、宇宙空間での輸送手段も発達し、資源の発掘も活発になる。

長年月を掛けて人類は宇宙ステーションを中心として、太陽系内の母星以外の数箇所に開拓基地や居留施設を建設し、多くの人々が移住していった。


時が過ぎある程度生活が安定した段階で、人々の次の願望は生身の体で自由に行動できる大地の発見に移行する。

 長年に亘り、英知と労力を費やした結果、確かに生活は向上し物質的に豊かになった。けれども一歩隔離された施設から外に出るには、外気が触れぬよう保護服を着用し呼吸装置を身に付ける必要がある。慣れてしまっているとはいえ、相変わらず特定の範囲に活動は制限されていた。かつての母星のように自由気儘に動き回ることの出来る大自然、もはや先人の残した映像のみでしか見ることの出来ない緑の大地、海や川、山や森林との触れ合いを人々は夢見た。

 

その時から人類の新たな挑戦が始まった。人や動物の生存可能な惑星の発見は人類の最も主要なテーマとなった。

その為には太陽系外に飛び出す必要があったが、幸いにも飛行技術が飛躍的に進歩し、高速での移動が可能となっていた。とはいえ、従来と比較にならない遠距離の飛行となるため、とりあえず無人調査船を飛ばす。けれども送られて来る調査報告は圧倒的に見込みの無いものであった。更に様々なルートに調査船を発進、確認出来る近隣の恒星系を順次チェックしていったのである。この間絶え間なく歳月が過ぎ去っていく。

 一方では超高速飛行の技術が開発され、有人調査も並行して行われるようになる。長期の探査報告からピックアップされたデータに基づき、候補となる星に専門家が送られた。

しかしながら調査が進むに従って、大変困難な課題であることが次第に明らかとなる。候補星の内、母星に似通った大気成分であるものの重力が非常に大きかったり、逆に母星とほぼ同じ大きさで大気圏も存在するが、酸素はなく生存の無理な惑星、又、重力、大気成分とも合格であっても長期的に人体に悪影響を与える要因が存在したり等々、しかも気の遠くなるほどの遠距離で数年がかりの探査となり、期待を満たす星はなかなか発見出来なかった。

この間、未知の生物との遭遇はあったが、人類と同等の知性を持った存在との接触はなかった。


 いつしか、母星から離れて500年が過ぎたが、この時人類は自分達がいかに掛け替えのない大切なものを失ったかを、改めて思い知ったのである。

ところがようやく、候補星に逗留中の調査隊から待ちに待った朗報が飛び込んで来た。

「当惑星に関しては、長期の詳細な調査の結果、大気等の生存条件は人間に適合していると判断出来ます。又恒星も安定しており、その他人体に悪影響を及ぼす因子は確認されず、生活要件を満たしていると考えます。解析及び画像データを送付しますので移住地として適当か検討お願いします」


その報告に宇宙ステーションや各居留地の人々は歓喜した。速やかにデータを分析した結果、人間や動物の生存に支障のないことが判明した。ようやく念願が叶い、かつての母星と同じ環境を取り戻せる喜びに沸いた。

早速、第一次の移民船が組織された。応募者は多数あったが、調査隊の家族を中心に現地での居留地設営に携わるメンバーが選ばれた。すぐに第二、第三の移民船も計画されるとのこと。

 そして、ついにその日がやって来た。飛行期間は約1年と長いが、数百年待ったことからすれば、ほんの一時であろう。

移民船は飛ぶ。人類の夢と希望を乗せて。



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