成長が異常!?
「光雅!そっちに行ったぞ」
ヨルムダンジョン、周りが岩に囲まれ特殊な鉱石のおかげで薄緑色に発光している洞窟内で何かが高速で駆けている足音と、神谷雄二の声が響いていた。
「はあああッ!」
ザシュッ!ザシュザシュザシュ!
雄二に言われて異次元から聖剣を取り出した光雅は、一点を見つめて集中を始めた。
そして、高速で動き回り姿が見えなくなった何かを一瞬とらえると聖剣を抜き、地面を素早く駆けて切り裂いた。
がああああッ!
光雅の聖剣は一度斬撃を放った後、すぐに次の斬撃を繰り返し、一瞬の間に4回の斬撃を何かに放った。
光雅の聖剣で切られたのは、大きさが2メートルほどもある体が赤い毛で覆われた狼型のモンスターだった。そして、その狼は大量の血を撒き散らしながら地面に倒れこんだ。
「やったな光雅」
「ありがとう」
光雅と雄二は、そのまま近づいてハイタッチをした。
ガルルルッ!
「うおっ!」
「しまった!」
だが、気を緩めた瞬間いきなり高速で接近してきた狼に攻撃されそうになり少し体勢が崩れてしまった。
シュッ!グサッ!
しかし、光雅たちに嚙みつき攻撃しようとした狼は、光雅と雄二の間を通って飛んできた短剣が眉間に刺さりそのまま地面に落ちた。
二人は、狼の死体をみて短剣が飛んできた方向を見ると少し怒った表情の沙耶香がいた。
「コラッ!あんた達、気持ち悪い男の友情を見せてないでちゃんと戦いなさい!」
沙耶香は、元の世界にいたときからこういった感じで光雅達が何かやらかしたり、失敗しそうになったとき世話を焼いていた。
『苦労人は、異世界に来ても苦労人なんだ』と別の場所で戦闘をしているクラスメイト達全員がそう思った。
沙耶香に怒られた光雅と雄二は、ダッシュで次のモンスターを狩りに行った。
「本当に、あの二人はいつも調子に乗って」
「沙耶香ちゃんは大変だね」
光雅と雄二に対して愚痴をこぼしているとユキが笑いながら言ってきた。
「仕方ないでしょう。あいつらいつも調子に乗って失敗するんだから」
「そうだね」
「紗雪も気をつけなさいよ」
沙耶香はユキにも気をつけるように言って、狼型のモンスターの方に視線を向けた。
「うん、大丈夫だよ」
心配されたユキもそれに応えるように沙耶香が向いた方向、数メートル先にいる狼3体に向けて手を突き出した。
「〈灼熱息吹〉」
そして、魔法名を唱えると突き出していた手から灼熱に燃え盛る炎を勢いよく放った。
〈灼熱息吹〉は、灼熱に燃え盛る炎を一点に集中させて相手に放つ中級炎魔法である。
がああああッ!がああああッ!
灼熱息吹を食らった狼どもは、悲鳴をあげて暴れながらその姿を灰と魔石に変えた。
「やっぱりすごいわね、紗雪の無詠唱魔法」
沙耶香は、ユキの放った魔法を見て正直な感想を言った。
本来、この世界では魔法を使う時に詠唱をしないといけない。
例えば、先程の〈灼熱息吹〉だったら、【燃え盛る炎よ、我が手に宿り我が敵を喰らえ〈灼熱息吹〉】と、このように長い詠唱を唱え無ければ発動しない。
しかし、無詠唱魔法は魔力操作によって通常より魔力を消費する代わりに詠唱無しで魔法を使うことが出来る。
戦闘中に長々と詠唱を唱えて攻撃するより確実にモンスターを早く倒すことが出来る。
だが、魔力消費が大きく、威力も少し落ちるので、魔力操作に長けた者や、魔力量が多い者以外は滅多に使わないとレオン団長から教えられた。
「けど、紗雪はいいわよね、無詠唱魔法なのに威力はそのままなんだから」
沙耶香の言った通り、ユキは【無詠唱】というスキルにより自分の使える魔法を魔力消費と威力がそのままの状態で発動させることが出来る。
しかも、ユキのもう一つのスキル【魔法威力増加】により魔法の威力を倍以上に増加させることが出来る。
つまりは、無詠唱による高速魔法発動+魔法威力増加による火力上昇が出来る。
「これって本当にすごいのかな」
当の本人は、そのスキルの凄さにあまり実感を得てないようなのでおどおどしているが、100人に聞いても100人ともが認めるまさにチートスキルだ。
「もっと自信を持ちなさい、そして、あそこにいる狼も焼いちゃなさいよ」
沙耶香は、そんなおどおどしているユキを少し可愛いと思いながらユキに狼が集まっているところを指差して魔法を撃つように言った。
「うん!わかった、灼熱息吹!」
ユキは、おどおどした状態からいつもの笑顔に戻り、狼に向けて魔法を放った。
「ふむ、全員初めての実戦にしてはなかなかだな」
レオン団長は、ユキたちが戦っているのを少し離れた場所で観察していた。
「あのレッドウルフを始めてであんな簡単に倒すなんてな」
どうやら、あの赤毛の狼の名前はレッドウルフと言うらしい。
そして、レッドウルフは俊敏性に優れていて初見だと目で追うことが出来ず、すぐ攻撃を受けてしまう厄介なモンスターだった。
「さすがは、勇者として召喚された奴らだな」
(光雅・雄二・沙耶香・紗雪、こいつら4人は訓練の時からわかっていたが他の勇者達より頭一つ抜けて強い…)
(まず光雅は、まだ聖剣の力を出しきれてはいないようだが、それでも騎士団幹部と同等、あるいはそれ以上の力を持っている)
(雄二と沙耶香は、身体能力が高いことを生かして、自分に合った戦いをしている。突出したスキルなどを持っているわけではないが戦闘能力はなかなかのものだ)
「3人は順調に成長しているようだな…、」
レオン団長は、光雅・雄二・沙耶香の3人の能力値を分析し、3人が成長したことを自分のことのように喜んだ表情で口にした。
しかし、3人の分析を終えて紗雪の方を向いた。
目も先程とは違って少し真剣な目になった。
(4人とも順調に強くなっているが…紗雪の成長が異常に早いな)
レオン団長は、ユキの成長速度に驚いていた。
(訓練の時よりも動きが洗練されている、それに魔法の威力もスキルで増加してるとはいえ最初と比べると桁違いに上がっている…)
レオン団長の言っていることは正しかった。
ユキは、初めて魔法を使った時はあまり威力も出ず、命中率も低かった。
それでも、何日か訓練をしたら威力も命中率も上がったが、今さっき放った灼熱息吹は訓練の時より凄まじい威力だった。
「はぁ…この調子じゃあ、すぐにあいつら俺を超えるな」
レオン団長は、今後の成長に喜びと期待を持っているが自分より20も下の奴らに抜かれそうで気落ちしていた。
「まったく、俺の立場がないぜ」
少しへこんで視線を地面に向けたレオン団長は、部下の団員たちに励まされていた。
そして、レオン団長をへこませる原因となったユキはどんどんレッドウルフを倒している。
なぜ、こんなにユキが頑張っているのかというと
あの日、異世界召喚されたクラスメイトでユキの幼馴染である風見蓮が城から追放された日にいつも守ってくれていた蓮を自分が守ることが出来なかった。
なので、今度は自分が蓮を守る。そのためにもっと強くなると決めた。
それからは、訓練以外でも一人で魔法の練習をしたり、魔法について勉強したりしていた。
しかし、レオン団長は、そのことを知らないため、まだ少し落ち込んだ状態のまま、レッドウルフを倒し終わり次の階層に向かう光雅たちについて行った。
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