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十四「二面の王様、イケメンの王子様」

 妹カム、前回までのあらすじ。

 ナビィが仲間になった。彼女は馬車が扱えたり、剣の作成及び補修ができる凄腕の鍛冶屋だ。

 そんな彼女を引き連れ旅に出ようとしたが、国のお偉いさん達に捕まられちまった。

 大丈夫だ。俺は城の牢屋の設計に携わった訳でも地図を刺青として入れているわけでもない。一体どうすれば……。


 某兄貴の為にプリズンをブレイクする物語の冒頭をやってみたが俺らがブレイクできる訳ではない。ただの現実逃避だぜ。


 ジメジメとした牢屋の中に3人、俺とラフィーと新メンバーのナビィがいる。

 勿論、看守は常時見張っている為、プリズンブレイクは出来ない。男の看守だからプリズンのあるスクールのようにもいかない。


 「はぁ……幸先悪ぃ……処刑かな、流刑かな。処刑かな」


 「ちょっと、アサタン! 縁起の悪い事は言わないでよ」


 ナビィに足蹴される。

 いやいや、むしろこっから脱出する方が難しいでしょ。

 ちなみにラフィーは寝ている。

 よく寝れんな!呑気で羨ましい限りだよ!


 なんてラフィーの寝顔を眺めてほっこりしていると誰かが奥の階段を降りてくる音がした。


 「お父様が連れて来なさいと言っていましたので、彼らを牢から出してください」


 看守のオークに話しかけたのは金髪のイケメン。しかも、オークではなく人間である。


 「了解です、ケルビム王子」


 看守は牢の鍵を開けて、俺らの手錠を再び一繋ぎにして先導する。

 俺らは抵抗する気もなく、引っ張られた方向へ歩いていく。

 この一番前にいるイケメン野郎は王子と呼ばれていたな。

 そして、さっきお父様が呼んでいると言っていた。

 俺らは王様に呼ばれた。そう結論付けれる。

 何用だ!とか、反逆勢め!王自ら処してくれる!的な感じかな。

 うーん、どうしましょう……


 # # # # # #


 俺らは無理矢理な迄に引っ張られて進んで着いた先は玉座のある部屋。皇室だろうか、謁見用の間なのだろうか。俺は西洋の知識は無いからそこらへんは弱いけど。

 ラフィーやらナビィは驚きを息で表してるようだった。

 つか、息を飲むって目の前でみると滑稽だな。俺?……辛い現実からは逃げようね!


 俺らは玉座に鎮座するドオブの主に声をかけられる。

 鈍重な迄の声は空気を凍らせるには充分すぎた。ここでようやく、俺も息を飲まされる。


 「ほう……貴様らか……この国、いやこの世界に謀反しようと企てる悪鬼共は」


 …………?

 あっ、国とか世界を敵に回す気はないです。


 「あの……俺ら謀反なんて、そんな気は……」


 「ええい! 黙れぇい! ならば何故に我が魔王妃様に楯突くのだ? しかと我が耳が聞いておったわ。これ以上の嘘は自ら死へ歩むと考えよ!」


 ……?

 耳?いや、多分民衆とか軍人のオークとか魔法の類だと思うが……

 ずっと気になってたんだけどさ……


 「王様と王子様って似てないね!」


 そうそう、王子様は人間なのに王様はオークなんですね……って!


 「おい、ラフィー!」


 時すでに遅し、王様はワナワナと震えていた。

 はい、処刑コース確定。

 はい、オワタ。

 はい、打ち首。


 「ふっ……よくぞ気づいた金髪の少女よ!オレの倅は人間とのハーフだ。我が花嫁は既に召されてしまったがな」


 王様は拍手を送ってきた。

 え、なに?誰も言い出せなかった的なアレ?王様が怖いから誰もツッコめなかったやつでしょ?

 王様の拍手により不思議な空気となったが、流石は一国の王である。一息で空気を元に戻した。


 「だが、貴様らの罪は軽くはない。だが、気が付いた褒美もやらんといけない。……ケルビム。お前が決めてやれ。オレにとって死は喜ばしいものではないからな。流罪なり処刑なりケルビムの好きなようにせい。余興は充分だ。任せたぞ」


 王様は処刑を放棄してくれた。

 だが、相も変わらず処罰はあるようで。

 これ、あれだな。ケルビム王子のご機嫌次第ってやつだな。オワタな。オワタ。俺、イケメン苦手だし。


 「承知しました。父上」


 「もう、ケルビムったら!名前で呼んでよ!」


 「承知しました。セラフィム王」


 なんか一瞬、デレた王が見えたが気のせいか。気のせいだよな。ほら、さっきと変わらず眉間のシワが深いもん。

 おいナビィ、なんで笑ってんだ。やめろ、殺されるぞ。

 おいラフィー、堪えてるの見え見えだぞ。やめろ、王子の機嫌どころか王の機嫌すら損ねるぞ。


 「では、そこの罪人らよ。私について来なさい」


 あぁ〜。部屋変える系はお父様に血を見せない為のヤーツじゃなーいですかー。

 内心かなり焦っているが、人間の姿形をしている分、交渉の余地はあるのではないか。そう信じている。


 # # # # # #


 「では、ダーゴ。ダーチェ。ルーブ。後は私がやって置くから扉の前を監視してなさい」


 「御意」


 三人ものオーク兵が外に出ると、ケルビム王子は指を鳴らす。

 それと同時に俺らについている手枷が落ちる。


 「同じ人間の血を引いてる同士……話しませんか?」


 ケルビム王子は爽やかな笑顔で椅子に腰かけた。

 俺も弁明の余地が明け渡されたと知り、躊躇わずに座る。


 「すげぇな……兵士の名前、覚えてんのか?」


 「ええ。当然です。この国の為に命を賭してくれているのですから」


 うわぁ!やり辛いよ、イケメンだよぉ!

 ラフィーとナビィは未だに警戒しているのか、俺を挟むように後ろで立っている。


 「はは……お嬢さん達には嫌われてしまったかな? 少し手荒い真似をしてしまって済まなかったね」


 一国の王子は軽々しく頭を下げる。

 ラフィーは知らんぷりをして、ナビィは舌を出している。

 俺は俺で、頭にある警鐘が鳴っている。

 優しさの裏には隠し事がある。これ鉄則。

 しかもイケメンだ。気を抜いたところで殺されるのが目に見えている。


 「本題に入ろうぜ。態々、変な話をする為にこんな個室に連れ込んだんじゃねぇんだろ」


 俺は敵対心を露わにして睨みつける。

 イケメンの笑顔はされど崩れず、妖しく笑っている。


 「うん、そうだね。本題……単刀直入に言うから心して聞いてほしい。どうか、魔王妃を滅ぼしてほしい」


 ほらね、魔王妃の味方をする国だからさ。殺すな。なんて言われると……は?


 「殺して……いいの?いや、最初からそのつもりだけどさ。それって親父さんの意思と真逆じゃないのか?」


 イケメンの笑顔が亡くなったと思うと、王と血の繋がりを感じさせるような先程の圧迫感が出始める。


 「あぁ。王様とは真逆だね。だけど、昔のお父様なら同じ事を言っていたと思うんだ」


 昔のお父様?

 確か酒場のオーク曰く、悪魔に唆されたって話だったよな。


 「つまり、悪魔に囁かれて性格が一変した。そういう事か?」


 「聡明で助かるよ。そのつまり、そういう事なんだ。君らは出会った事があるかい? 悍ましく禍々しい魔力を持っているんだ……ほら、今でも怯えが止まらないよ」


 王子には左腕に大きなアザがあった。

 その左腕は細かく震えていて、恐怖を感じている事が読み取れた。


 「立ち会わせたんだな……悪魔と」


 「あぁ。魔王が殺されてしまい、魔王妃となって世界が別れた数日後。彼らはやってきた。その時にお父様は僕を庇って、今の邪智暴虐な性格となったんだ。昔は温厚でね。今でもたまにその片鱗を見せるが……強制されてしまった表面は冷徹だよ」


 確かに、先程の謁見では情緒不安定かと思われるような対応をしていた。

 それは王様の元の本質と悪魔に強制されている今の本質の隨を漂っているからだろう。

 イケメンの雰囲気は既に亡くなっており、今では親父を思う息子の痛いげな雰囲気だけが香っている。


 「それで、俺らが魔王妃を討伐して王様が元の性格に戻るとは思わないが」


 「あぁ。魔王妃だけならね。だが、その旅路に悪魔が関わってこない訳がないと思う。だから、道中でいい。襲われた時だけでいい。お父様に呪いを掛けた悪魔を殺してほしい……」


 ブロンドの青年の願いは悲痛に感じた。

 血が出んばかりに左腕を唇を噛み締めて握っていた。

 ……俺もラフィーも旅の元となったのは親の仇打ちだ。だから、この青年の願う気持ちをよく理解できる。

 甘んじて受け入れよう。その願い。

 だがな、


 「なんでお前は戦わないんだ? 兵士に任せたり、こんな余所者に頼んだり。ちょっと自分勝手や過ぎないか?」


 イケメンだから、ちょっと冷たくしてやる。ただの意地悪です。全国のケルビムファンの方、先に言います。すみませんでした。


 「……はは。痛い事を言ってくれるね。あぁ、オークとのハーフだからね。戦いの血は流れてはいると思う。けれど、僕は人間の血の方が濃いんだ。そこの赤髪の子はゴブリンとオークとのハーフかな? 君はゴブリンの血が強いみたいだけど」


 ナビィは突然、言葉の矛を向けられ固まってしまったが、間違いを訂正するくらいには機能していた。


 「……残念だけど王子様。アタシはゴブリンとオークのハーフと人間のクォーターだよ。お母さんは死んじゃったけどね」


 悲痛に顔を歪めながらも平気そうに語るナビィ。

 ハーフのスミスと人間の母の子でクォーター。だから、肌色がゴブリンの緑がかっている肌じゃないのか。


 「そうか、辛い事を思い出させてしまったね。……クォーターならもっと分かるだろう? 人間と混血になって、魔力が高まってしまい上手く制御出来ない。僕は戦闘魔力が高くてね。以前も森を一つクレーターにしたばかりだよ」


 イケメンスマイルでニコニコ笑ってるけど、今さらっと怖い事言いませんでしたか?!

 つか、気になったけど人間と魔物の血が混じると魔力が上がんの?んで、代わりに扱いが難しくなると? なにその某戦闘民族のサイ○人的な設定は?!

 

 「ナビィちゃん……」


 「ほいほい? って、げ」


 ナビィの声が聞こえなくなり、後ろの両人を見るとラフィーは鼻水と涙で顔を濡らしていた。

 そういやラフィーは涙脆かったなぁ……泣きすぎだけど。んで、代わりによく寝るとか疲れてんじゃん。もう少し涙腺きつく出来ませんかね……


 「はは。昔話に浸るのもいいけど……どうか、僕の。いや、この国の王と王子の願いを聞いてはくれないだろうか」


 二度目となる最敬礼は最初よりも心から頭を下げている。そう汲み取れた。


 「ハッ! こんな所に押し留めやがったクソ野郎だよ。あんたは。……けど、アタシもアサタンもラフィーちゃんも親を亡くしている集まり。いいよね、アサタン」


 ナビィは鬱憤を晴らすように、けれど優しい声色で俺に問いかける。

 だから、答えは変わらんて。

 最初言った通りだよ。


 「その願い。しかと心得た。このアサタンに任せろ!」


 暗い部屋から一筋の光が放たれた。


 

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