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零「初めてのお久しぶり異世界さん」

 俺は昔から両親がいなく、いつも一人で暮らしていた。

 もう慣れてしまっているので、今更特段に思う事はない。

 しかし、今日のように面倒臭がって夜ご飯を作りたくない時に母親がいればなぁ。なんてたまに考えている。


 「はぁ、食材あったかな?」


 諦めて溜息を深く吐き出しながら立ち上がる。

 ごそごそと冷蔵庫を漁ってみようと試みるが、開けた瞬間に何一つ無い開いた空間が見え、そっと閉じた。


 「くそっ、食材のない冷蔵庫なんてただの大きい鉄塊のオブジェでしかないだろ! 粗大ゴミだよ!」


 この憤慨を冷蔵庫にぶつけてみるが硬さだけは本物らしく、蹴飛ばした足にダメージだけが蓄積された。


 「うおぉぉ……冷蔵庫許すまじ」


 ブツブツと文句を言い、渋々とコートを羽織り、ガチャガチャと玄関に鍵をかける。

 普段ならコンビニに行く方が億劫なのだが、今日は冷蔵庫の堅物なクソ野郎がお腹を空かしていやがりますので、食材を買ってからでないと料理が作れない。

 それなら、コンビニでインスタント系商品を買った方が時間を無駄にしないだろう。

 あと、めんどくさいだけ。


 「らっしゃーせー」


 おっ、今日もらっしゃーせーの人だ。

 この人、俺とライフサイクルが被っているのか知らんがコンビニに来ると大体レジを打ってるんだよな。

 ちなみに、接客態度は文句無しだ。

 流石、伊達に5年以上はコンビニの接客業やってるだけあるよ。

 ふと、商品棚に目を落とす。


 「カップ麺か・・・栄養偏りそうだな。プラスでサラダも買うか? なら、弁当の方が安上がりか」


 なんてボソボソと喋っているのが裏目に出たのか、奥で商品棚の陳列を整えている店員に睨まれていた。

 うわっ、怖いなぁ!

 ちょっと、らっしゃーせーの人! キチンと研修やったの? あの子睨んでますけど?!

 なんて文句を心に留めたままレジへ向かう。


 「らっしゃーせー。128円が一点。355円が一点」


 らっしゃーせーの掛け声に続いてレジを通される我が夜食。

 らっしゃーせーの人は俺とよく会うので何も聞かずに弁当を温めてくれる。

 らっしゃーせー。マジ、らっしゃーせー。

 実はここのコンビニと俺のアパート、歩いて3分で着くんだよね。

 ここで弁当を温めておくと猫舌な俺にはちょうどいい温度の弁当になるのだ。

 俺氏、マジ策士。


 「ありがとっーざーまーす。合計で810円になっんまーす」


 「1010円からで」


 俺は極力小銭を少なくしようとするタイプの人間だ。

 そういや、俺の友達に買い物するときは絶対に紙幣しか出さない奴がいるんだが、いつも財布の小銭入れをパンパンにしている。

 ずぼらな性格ってやーね、だらしなくて嫌ねー。


 「ありがとうござっーしたー」


 コンビ二を出て、ガサゴソと袋の中身をほじくる。

 弁当良し、割り箸よし、飲み物良し。

 完璧だ、らっしゃーせー。

 割り箸をお付けしますか? と聞かれなくても入れてもらえるのは助かるな。

 そりゃあ、家に帰ればマイ箸があるが節約の為に割り箸を貰うのも大事なのだ。

 あと、レジ袋も多く貰う為に温かいものと冷たいものを分けてもらう。

 うわっ、私の主婦力高すぎ?

 と、一人でボケていると目の前から二つの大きな光が迫ってきた。

 まぁ、ここは車通りも多いしトラックが来るのも良くある話だ。


 瞬間、自身の轢かれる姿が目に浮かんだ。


 我に帰るとトラックは目の前数メートルまで近づいていた。

 自分が思っている以上にスピードが出ていて事を知り、初めて死を覚悟する。

 先程の自身の姿が強くフラッシュバックして、周りが段々とスローモーションに見えてくる。

 運転手は顔をしっかりと確認できないほど頭を下げていた。

 あぁ、居眠り運転ね。よくある話だ。

 それを確認し理解出来るほど世界がゆっくりと動いて見える。


 身体を動かさなければ。


 生命保守の為に防衛本能が脳内でグルグルと暴れている。

 重く、怯えきった足を地面と別れさせる。

 大きく、後ろに逸れた身体はトラックから離れていく。


 「あっぶねぇ!」


 間一髪のところで避けれたのだ。

 ここまでは良かったんだが、この後の事を考えていない。

 誰か受け止めてくれませんかねぇ。

 ゆっくり感じていた時が戻り、後ろにある何かに頭をぶつけ意識を攫われる。


 「おい! 人が撥ねられたぞ! ・・・あれ? 違げぇ! 電柱に頭ぶつけて血ィ出してるぞ! 早く救急車ァ!」


 たまたま近くにいた優しい歩行人が走って寄ってくる。

 的確な判断と指示をしたが、少年の頭から流れ出ていく血溜まりは大きさを増す。

 そんな血溜まりを作る彼に届いた最後の音は自身の頭が何かとぶつかる音だけだった。

 優しさは届かない。


 # # # # # #


 少年が次に眼を覚ましたのは後頭部に鈍重な痛みを感じたからだ。


 背中は冷たいし、足は重い。それに、頭がすっっごく痛ったいな! 

 明るく振舞っても痛みは消えてくれない。

 とりあえず状況把握が優先だ。


 「えーと? さっきトラックに撥ねられかけて? 後ろの壁か何かに頭をぶつけて、気を失ったのか?」


 背中は床や布団の柔らかさ硬さではない事から地面だろう。

 そして、背中に僅かだが当たっている小さな粒は砂利だろうから地面でまず間違いないだろう。

 でも、頭の下にあるコレってなんだろう? 謎の硬い膨らみがある。


 「うぅ・・・」


 痛みと重さが多少残っており、まだ寝て休んでいたい気持ちもあるが、道路の真ん中で寝ているのも駄目だろうと思い、気だるい眼をゆっくり開けてやると日光が燦々と降り注ぐ緑豊かな土地が見えた。


 「はれ?」


 そこは見知った灰色と黒だらけの夜道でもなく、知らない天井だ、でもない。

 大自然の中、巨木の根を枕にしていた。


 「は? えっ?! ちょ、ちょ、ちょ! 待て待て、ウェーイト。落ち着け。我輩は人である。名前はアサヒ。そして、あだ名はアサタン。自称だけどね? じゃない! いや、じゃなくないけど、そうじゃない! ここは一体?」


 びっくりしているが一人でボケ&ツッコミは忘れずに行う。

 とりあえず、周りを見たいと思い、立とうするが下半身がずっしり重く、全然動かない。

 何か乗っている気がして、ふと目線を落とすと、何か小さくまとまった金髪が見えた。

 

 「えっ? マジ? 誰なの? この状態でこれ以上の知らん謎は頭パンクしちゃうよ僕」


 いや、まぁ、なんか寝ているだけっぽいし、起こすのも面倒になりそうだなぁ、って思うから退かすのは辞めておこう。

 だが、そんな優しさは残念ながら無駄で、小さな金髪がムクリと起きてしまった。


 ぱっちり二重で、金髪のボブ。

 髪を結んでいたのか、後ろ髪に不自然なウェーブがかかっている。

 寝起きで、微かに濡れながらも微睡んだ瞳がこちらを覗いて動かない。

 目の焦点がぶつかり合う。

 金髪が俺の存在をハッキリと確認出来たところで突然、驚きを声に出す。


 「わっ? えっ? お兄ちゃんが生き返った?! うわーん! よかっったよぉぉうぅー!」


 「ごっふぇ?!」


 何か持病の発作でも起こしたのかと疑いたくなる程、いきなり泣き叫んで胸に飛び込んでくる。

 美少女に抱きつかれて、本望です。

 じゃなくて! それよりも気になるのが


 「お、お、お兄ちゃん?」


 「お兄ちゃーん! うへぇぇん」


 話を聞かず泣き続ける妹(仮)ちゃん。

 涙と鼻水で着ている物がビショビショに。

 ちょいまち、あれ? 俺こんな服着てないし知らないぞ? つーか待て! どんだけ水分出るんだよ! ミイラ化待ったなしだよ!


 「あのぉ、泣いてないで話を聞いてくれるかな?」


 「お! にい! ちゃぁぁぁあん!!!」


 うっわ、締め付けが強まってきて、くるちい! くるちい!

 突然にして排気量が増え、苦しさが訴え続けるが、恐る恐る兄的な何かを主張してみる。

 俺、妹どころか家族すらいないんだけどね?!

 つーか、これで人違いだったら俺がポリスマンに捕まりそうで怖いんだけど。


 「ぐっ、おおぅ・・・あ、その、お、お兄ちゃん? だよ?」


 アサヒは未成年ながらの前科持ちを恐れていたが、少女は良い意味で裏切ってくれた。

 妹(仮)ちゃんは俺に向かって安心した表情に上目遣いを加えてニコッと微笑む。


 「にいちゃ!」


 あっ。俺、この子の兄ちゃんみたいです。


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