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ギフトと定規

「逃がすな! 追え!」

「しつこい!」

 全身黒づくめの男を殴り飛ばして───たつもりだったが挽肉になってしまった───俺はそのまま走り続ける。

 最初は驚いたが、既に何人も殴って挽肉にしているので、もう驚かない。

 こうして帝国の追っ手を倒し、倒した追っ手から奪った地図を見ながら進んでいく。

 現在地なんて分かんないけどな!

「アクアジェイル!」

「ひゃっ!?」

 目の前に、突然水の牢屋が現れた。

 それに驚いて足が止まったかと思うと、条件反射とも言うべきか、気づいたら空を飛んでいた。

「おぉー……」

 何処か他人ごとの様に言葉を漏らしながら、牢屋が完成する前に範囲外へと出ていた。

 自分から出た女らしい声については後で考える事にしよう。じゃないとやってられない。

「クソッ!」

 後ろから悪態つく声が聞こえるが、努めて無視する。こっちも悪態つきたい……いや、心の中では悪態をつきまくっていた。

 こっちは魔法なんて1つも覚えてないのに狡すぎだろ、と。

「アクアジェイル!」

 やけくそ気味に真似でさっきの追っ手が使った魔法と同じものを唱える。

 すると、体の中の何かがほんの少し減った感覚がしたと思ったら。

「がっ!」

 後ろから追っ手の悲鳴が聞こえて振り向くと、10mはありそうな巨大な水の牢屋が出現し、追っ手たちを閉じ込めていた。

(初めての魔法だな……)

 だが、追っ手は───当たり前だが───散開していたので、捕まったのは3人だけ。他は牢屋を避けて迫ってくる。

「魔法は無詠唱で使え! じゃないと魔法を覚えられるぞ!」

「対応が早いな、こんちくしょう!」



 魔法に対する対応をされ、これ以上は魔法を覚えられない。いや、適当に言えば当たるかもしれないけども。

 悪態を付きながら走り続けて、俺は頭の片隅でこんなことを考え始めていた。

 この体、幼女だよな。殴るだけで肉塊になる腕力。大の大人から逃げ続けられる速さ。身の丈以上の大きさの牢屋を飛び越えられるほどの跳躍力。長時間走りながら喋っても問題ない持久力。ありえない身体能力だ。

「流石は生物兵器って所か」

 そう呟き、俺は追っ手を見る。全員、生物兵器の俺を追うくらいなんだから強いんだろう。この体の凄さは十分に分かった。でも、戦闘になった場合はどうだろうか。逃げながら殴るだけしかして来なかったから、少し戦ってみたい気持ちはある。

「……よし、やるか」

 地面を勢いよく踏みつけ、爆発音と共に反転して追っ手に向かう。

「なっ」

 相手は突然のことで反応できておらず、そのまま力一杯殴る。地響きと共に地面が揺れ、追っ手が消滅する。「次!」

「くっ!」

 バッと手を突き出す追っ手。それと同時に目の前で爆発が起こった。

「びっくりしたぁ……!」

 目の前で爆発したにもかかわらず、無傷。本当にありえないな、この体。

「とりゃっ!」

「ッ!」

 飛び蹴りをすると、追っ手の上半身と下半身がお別れし、そのまま下半身を掴んで違う追っ手に投げつける。

「うぼっ」

 投げた下半身がぶつかり、下半身を残して、投げた下半身と上半身が弾け飛ぶ。

「うーん、お前らって強いのか?」

 正直、自分が強すぎて相手が弱く感じるな。

「クソがっ! 囲め!」

 俺の言葉を挑発と取ったのか、追っ手の言葉で俺の周りを囲む足音が聞こえる。数は8。まだそんなにいるのか、と辟易し、近くにあった手ごろな石を拾って投げつけた。

「いい加減、諦めてくれって!」

 その石は凄まじい速度で飛んでいって追っての脳天に砕いた。

(よっしゃ!)

 思わず喜んでしまい、それが隙となってしまった。

「喰らえ!」

「うひゃっ!」

 そこを突かれて、電気で出来た縄が俺をぐるぐる巻きにする。

「よしっ!」

「よっと」

「なっ……!?」

 ガッツポーズする追っ手を尻目に、腕力で縄を千切って拳を叩き込む。

「くそっ……一旦引くぞ!」

 打つ手なしと思ったのか、1人の言葉で全員が引いていく。

「やっと諦めたか……」

 その背中を見送って息を吐く。

「服、ボロボロになっちまったな」

 自分が今着ている服を見下ろしてそう呟いた。元々、着ている服はボロ布だったが、走り回ったり、攻撃を受けたり───体には傷一つ付かなかったが───して、ボロボロになり大事な部分すら隠れていない状態だ。どう言おうと痴女だ。どうするか、と考え出してすぐに代わりになるものを見つけた。

「……お前らのせいだし、これは慰謝料として貰うな」

 そう、追っ手の服だ。全員が黒いフード付きのローブを身にまとい、その下はそれぞれ違う。なので、自分の感性に従ってコーディネートをする。

「流石に下着は無理だな。となるとスカートはダメ……いや、俺は男! スカートは選択肢から除外!」

 血で汚れていない物の中から選別し、ようやく着る服が決まった。黒い半ズボンに白いTシャツ。その上に黒いローブを羽織って完成。とはいえ。

「ろくなものがなかった……」

 後のことを考えれば、もっと綺麗に倒したのに……。

 俺は後悔先に立たずという意味を嫌と言うほどにかみ締めながら地図を見る。

「えーと、あっち、か? 現在地わかんないけど」

 大体の方角を決め、俺はそっちの方角へと歩いて行った。


「この地図によると、そろそろだと思うんだけどな」

 歩き続けて数時間。そろそろ街が見えてくるはずの距離を歩いたが、一向に見えてこない。

 やっぱり、現在地が分からないとダメか? せめて、目印になるような物・・・もしくは人に会えれば街に行けるのに。

 そんな事を思いながら、俺は真っ直ぐ歩き続けていくと、少し遠くにだが、煙が上がっているのを見つけた。煙が上がっているということは、少なくとも人が居たっていうことだ。期待で胸を一杯にしながら、煙の方向へ走る。そしてものの数分で辿り着き、そこにいたのは……。

「あ?」

 見るからに盗賊ですよ、と言っているような服装をしたオヤジ五人だった。よく見ると、後ろには目隠しの上に縛られた女性や少女が転がっている。関わり合いにならない方が良さそうだが、背に腹には変えられない。

「あのー。街にはどう行けばいいですかね」

「あ? 何言ってんのか分からねぇが・・・どっか行きてぇのか?」

「行きてぇなら連れてってやるよ。奴隷街にな!」

「ハッハッハッハッハッ!」

 そう言うと、オヤジたちは武器を持ってニヤニヤしながら歩いてくる。何か違和感があるな。というか……。

「まだ小さいけど、上玉じゃねぇか」

「ちょっと手を出すくらいならいいよなぁ?」

「自分から寄ってくるなんて、今日はついてんなぁ」

 ロリコンかよ、こいつら。

 俺はため息をつき、拳を握る。

「街への行き方を教えてくれたら、このままどっか行くけど……どうだ?」

「だから、何言ってんだか分かんねぇって、お嬢ちゃん」

「そうそう、まぁお前は俺らに捕まって奴隷として売られ───」

 オヤジの言葉が終わる前に顔をぶん殴った。顔は破裂して、残りの4人が呆然と倒れていく体を見つめる。

(1人だけ残して、後は全員ぶん殴る!)

「何をしギャブッ!」

「ひっィギャッ!」

「た、助けゴッ!」

 あっという間に3人を倒し、残った1人を見る。

「た、助けてくれ! なんでも! なんでも言うこと聞くから!」

 残った1人は怯え、命乞いをしてきた。街への行き方を尋ねようとし、その前にちょっとした違和感を解消するために尋ねた。

「言葉、通じてる?」

「な、なんて言ったんだ? 王国語で言ってくれないと分からねぇ!」

 マジか。

 俺は頭を抱え、知識を掘り起こす。どうやら、俺が今まで喋っていたのはグレン帝国語らしい。そして、どうやら教育はまだだったようで王国語は知識に無い。なのに、何故か相手の言葉はわかる。

 どういうことだよ。

 矛盾に突っ込みながら、文字で尋ねてみる。と言っても、帝国の文字すら知らないから日本語だが。

「な、なんだこの文字……見たことねぇ」

 万策尽きたな。

 仕方なく、ボディーランゲージで簡単な意思疎通を行う。ると、オヤジは難しい顔をして恐る恐る尋ねてきた。

「も、もしかして、街……か?」

「!」

 コクコクと喰い気味に頷くと、オヤジは顔をほころばせた。

「街に行きたいのか?」

「ッ! ッ!」

 再度、頷くとオヤジは胸を撫で下ろした。

「なら、あっちの方向に行くとアルスメリア王国の「リーザ」っていう街に着くぜ」

 指で方向を示すオヤジに手を掴んで上下に振り回して感謝を示す。そして片手を上げて別れを告げ、オヤジが指差した方向へ走っていった。

「……マジで、さっきの化物はなんだったんだ」

 オヤジのその呟きは聞こえないふりをした。


 走ること数分。巨大な壁に囲まれた大きな街に辿り着いた。

「すげぇ……」

 ファンタジーとかそういうのでしか見たことの無い都市だ。関所には門番が立っているが、通行料などは取られていないようで、怪しい人物以外は全てを素通りさせている。

 心配だった点が解決したので、都市でやるべきことを簡単にまとめる。

 言葉が分かる奴を捜さないと。そして金。常識とかも聞かないとな。魔法やギフトについても。教養も大事だな、文字が読めないと騙されるかもしれないし。

 街に着いて、安心したためか考える余裕が出てきて、次々と必要だと思う物が出てくる。手に入れる方法を考えながら関所をくぐり、無事、街に入った。そしてそのまま言葉が分かりそうな人───宿屋とか衛兵など───に話しかけるが、全滅。

 マジか、帝国語喋れる奴いないのかよ……。

 途方に暮れながら街を彷徨っていると、不意に声をかけられた。

「おい、お嬢ちゃん。待った」

「なんだ?」

 声の方を見ると、仕立てのいい服を着た男がいた。

「お前の言葉……グレン帝国語か?」

「そうだけど……分かるのか?」

「あぁ、職業柄な」

「おぉ……!」

 ようやく会えたグレン帝国語が分かる人。あまりの嬉しさに思わず抱きついた。

「お、おい」

「ようやく話せる相手に会えた! 本当にありがとう!」

「と、とりあえず落ち着け! 力強いな!」

 男は俺を引き剥がそうとするが、ビクともしないのでそう叫んだ。数分後、ようやく落ち着いた俺は、男に連れられて飯屋に入った。

「俺はフェイン・アッサルード。お前は?」

「あー」

 名前、どうするか。リリスって付けられたけど、付けたのがアレだしなぁ……。帝国からも追われてるし、姿も変えないといけない。う~ん、どうするか。

「……ワケありか?」

 俺が答えないでいると、フェインは何かを察してそう言ってきた。

「いや、ワケありって言えばワケありだけど……」

「そうか。それで、この街に来たってことは、何かアテでもあるのか?」

「いや、近くにあったのがここだったんだよ」

「お待ちどうさま」

 注文した料理が来たので、一旦会話を中断してそれを食べる。

「美味いな」

「だろ? この店は古いが美味いんだ」

 フェインはそう言い、料理を食べ始める。俺も料理を食べることに集中していると、不意にフェインが提案してきた。

「俺の所で働くか?」

「いいのか?」

 俺の言葉にフェインは頷く。

「お前に何が出来るか次第だけどな」

「そうだなー……加減が難しくてミンチになっちまうけど、殴り合いは得意っぽいな」

 そう答えると、そぼろチャーハンを食べようとしたフェインの手が止まった。

 いや、わざとじゃないんだ。本当に。

 フェインに心の中で謝っていると、フェインはぼそっと呟いた。

「……となると、裏武闘会の無差別級が一番いいか」

「裏武闘会?」

 周りは騒いでいる上に小さな声で普通は聞こえないが、俺にはちゃんとその呟きが聞こえていた。フェインは驚いたような顔をすると、そのまま話をしてくれた。

「あぁ、違法の武闘大会だ。ほとんどはちゃんとルールはあるが、お前に合ってそうな無差別級のルールは一つだけ。弱肉強食。それさえ守れば、殺しだろうと何だろうとOKのデスマッチだ」

「へー……なんでそんなこと知ってんだ?」

 ごく当たり前のことを聞くと、フェインは肩を竦める。

「そんなことはどうでもいいだろう。お前がどれくらい強いかを試してからだが……やるか?」

「う~ん……」

 この世界に来て、すぐに犯罪者になるのかー。知りたい事とか金が集まったら、すぐにトンズラこくか。

 そう思って、ふと気づく。俺、転生してから自分で人をミンチにしてもなんともなかったし、犯罪行為にも躊躇いがない。何故だろう?

 疑問に感じるが、今は色々と知る事を優先することにした。

「……バレないように姿を隠すし、お前もバラさないでくれよ?」

「あぁ、もちろんだ」

 その後、色々と条件をつけて、俺は裏武闘会でデビューすることが決まった。


「さて、デビューする前に実力を確かめさせてもらうからな」

 フェインがそう言い、案内されたのはとある建物の地下。フェンスで囲まれたリングがあり、そこに俺は立っていた。フェンスの外にはフェインとメガネをかけた爺ちゃんがおり、何やら話している。

「あれがお前が見つけてきた嬢ちゃんか。めんこいのぉ」

「はい。殴り合いが得意らしいので無差別級に放り込もうかと」

「使い物にならなかったら、ただのかかしとロリコン共のはけ口にすることになるぞ」

「本人も覚悟の上でしょう」

 その会話を聞いて俺は固まった。

 いや、ルールは弱肉強食だけどさ。そこまでルールないのかよ。全く覚悟していない上に、全く聞かされていない。騙されたぁ!?

 俺が愕然としている中、リングに男が入って来る。

「こいつが志望者か?」

「あぁ、そうだ」

 入ってきたのは2m以上はあるムキムキマッチョの大男。頷いたフェインを見て、男は俺を品定めするように上から下を見る。

「試合と同じ金額をくれる上に、俺が勝ったらこいつは好きにしていいんだな?」

「ちょいちょいちょい!」

「好きにしろ」

「フェイーン!? いや、わかってたけど、フェイーン!?」

 男はゴキゴキと首を回して俺を見下ろす。

「んじゃ、わりぃが……手加減は期待すんなよ! 嬢ちゃん!」

「や、やってやらぁ!」

 拳を放つ男に、テンパって思いっきり殴る俺。どっちが勝つか。結果は簡単に予想できた。

 轟音。

「お、おぉう……」

 上半身が吹き飛んだ大男が倒れ、リングを真っ赤に染める。それだけでなく、フェンスも破れ、観客席にも大きなクレーターが出来ている。クレーターというよりは爆発が起きたような感じだが。

「お、お前……」

 口を開けて呆然とする爺ちゃんを置いといて、フェインが俺を見る。

「……と、得意って言ったろ?」

 考えればすぐに分かったはずだった。逃げてくるまでの間に、何人も一発で体を吹き飛ばしているのだから。テンパって思いっきり殴った俺が悪かった。

「得意とかのレベルじゃねぇよ! 滅茶苦茶強いじゃねぇか! 観客席まで壊すとか、ブッ壊れてんな! ハハハハハ!」

 フェインが大声で笑うと、爺ちゃんが我に返った。

「ふむふむ。こりゃ嫌だといっても無差別級に・・・いや、無差別級以外じゃ反則負けになるか」

 爺ちゃんもブツブツと言いながらも頷いている。

 あれ、認められた? 滅茶苦茶受け入れられてるわー。怖がると思ったら、そんなこと全然なかったわー。

 若干の驚きを感じながら、俺はリングを降りる。

「よし! 嬢ちゃんのデビュー戦は今夜! 有り金を集めて嬢ちゃんに賭けよう! そうすれば・・・わしは大金持ちじゃ! ハーッハッハッハッハッハッ!」

 爺ちゃんが大笑いし、名前を尋ねてきた。

「嬢ちゃん、名前は?」

「あー。俺は・・・」

 言い淀んでいると、フェインが助け舟を出してくれる。

「こいつ、ワケありなんですわ」

「ほう? なるほど・・・では、わしがとりあえずの名前をつけてやろう」

 爺ちゃんが顎を撫でながら考え出し、そして呟いた。

「アガサ。アガサなんてどうだ」

「あ、じゃあそれで」

 なんでも良かったので、頷くと、爺ちゃんが嬉しそうに何度も頷く。

「じゃあ、後は服じゃのう。姿を見られなくないと言うのならフードと仮面は必要だろう」

「あ、お願いします」

「任された。では、フェイン。お前は嬢ちゃんの面倒を見てやれ」

「はい」

「じゃあな、嬢ちゃん」

「あ、うん」

 爺ちゃんは手を上げると会場から出て行く。フェインはそれを頭を下げて見送ると、此方を向いた。

「よし、それじゃあ、お前が出した条件の中で・・・そうだな、まずはギフトについて教えてやるよ」

「頼むわ」

「まずは移動するぞ。見られるのは嫌なんだろ」

「わぷっ」

 フードを被せられ、フェインの案内で地下通路を歩くこと数分。着いたのは3LDKはありそうな部屋。

「此処は?」

「俺の部屋だ。まぁ好きに使え」

「へぇー。リッチなんだな」

 適当な椅子に座るとフェインは近くの椅子に座ると説明をし始める。

「さて、ギフトについて教えるぞ」

「あぁ」

「まず、ギフトは生まれつきの物で、人だろうと魔物だろうと持っている奴は持っている。ギフト持ちのことをギフテッドという」

「ふむふむ……ん? 持っている奴は持っている? 全員が持ってるんじゃないのか?」

「当たり前だ。ギフテッドは大体1000人に1人っていう割合だ」

 1000人に1人?

「……え、持ってるって分かると?」

「そうだな。どんなギフトかにもよるが……目立つだろうな。表だろうと、裏だろうと」

 持ってたらやばいじゃん! ど、どうする。調べる方法! 調べる方法はあるのか!?

「調べる方法は!?」

「あるぞ。自分の体の中に意識を向けて、暖かいものがあれば魔力。冷たいものがあればギフトだ。どんなギフトかもその時に分かる」

「や、やってみる」

 目を瞑り、体の中に意識を向ける。目を瞑ったのは、その方が集中できると思ったからだ。

 少しすると、 フェインの言うとおりに暖かいものを感じた。

 これが魔力か。それと……うわ、冷たいのがある。

 ギフテッドなのは確定したので、どのようなギフトかを見ると。

「うぇっ!?」

 どんなギフトを持っているのかを知って、思わず声を上げた。

「どうした?」

「あ、いやー……ギフテッドだったわ」

「そいつはスゲェ。それで、どんなギフトなんだ?」

 フェインに報告し、当たり前だが詳細に尋ねてきた。

 正直に言うべきか。いや、言うべきじゃない。これは隠しておくべきだな。いや、本当にやばいし。

「攻撃力がえげつないほど上がるっていうギフトだった」

「なるほどな。それであのパンチ力か」

「マジでやばいよな……」

 適当な嘘を付いて、俺は内心ため息をついた。俺のギフトは、攻撃力がえげつないほど上がるではない。本当は、もっとやばいギフトだった。ギフトを生み出すギフト。それが俺のギフト。恐らく、最強のギフトだ。絶対に口が裂けても言えない。口を裂かれることなんてないだろうけど・・・。

「そういや、ギフトって他にどんなのがあるんだ?」

「ん? あぁ、そうだな。有名なのだと・・・殺し屋クッキーの「脆弱化」。「華王」の「再構築」。ドン・カポネの「完全支配」だな」

「それってどんなのなんだ?」

 そう尋ねると、フェインは詳しくはわからないけどな、と前置きをして教えてくれた。

「「脆弱化」は触れたものを脆くするギフトらしい。ミスリルですら拳で砕いたって聞いたな」

「ミスリル? それって硬いのか?」

「そこからか……お前、本当に何も知らねぇんだな」

 そう言ってフェインは笑いながら、俺の頭をガシガシと撫でる。

「いいから教えろよ」

 少しムッとして、撫でる手を退けて軽く睨むと笑いながら、水を注ぐとフェインは金属について説明を始める。

「世界で二番目に硬い金属だよ。ミスリルの上にオリハルコン。伝説じゃあオリハルコンよりも硬い七色に光る金属があるらしいけどな。誰も見たことがないからないってことになってる」

「ふーん。じゃあ、話を戻してくれ」

「それで、次は「再構築」。なんでも触れたものを別の材質や形に変えることができるらしい。まるっきり錬金術だけどな。錬金術については後で教えてやるよ」

「あぁ」

 質問を先回りして止め、フェインはドヤ顔する。さっきからちょくちょく挑発してきているのは気のせいだと思いたい。というか、よくそんな勇気があるな。さっき、筋肉マッチョごと観客席を吹っ飛ばしたのを忘れたのか、こいつ。

「最後に「完全支配」。これは魅了って言ってもいいかもな。こいつに一生付いていきたいって思わせるらしい。どれもこれも使い手に会った事はないし、ギフトも見たこともないから推測でしかない」

「そっか。それじゃあ、ギフトはもういいや。次は……魔法。魔法についてカモン」

 両手の指を動かして、意欲を示すとフェインが吹き出した。飲んでいた水ごと。

「ゲホッゴホゴホゴホッ! わ、わりっぶははははっ! お、おまっお前がそんな事をしても微笑まっしいだけだぞっははははははは!」

「……笑う前に、びしょ濡れにしたことに対してちゃんと謝罪しろや」

「わ、わりっお、奥に風呂があるから、入って来い。それにしても……くくくっ背伸びしてるみたいで可愛かったぜ? アガサ」

 ニヤケ顔で笑うフェインの顔の真横を殴ったのは仕方ないことだ。そして軽く吹っ飛んだフェインのお言葉に甘えて風呂に入ることにした。

「おい、風呂入ってくるから服を用意しとけよ」

「あ、あぁ。任せろ……」

 フェインの返事を聞いて、俺は脱衣所へと向かう。

「さて、ここが問題だ」

 今の俺の体は、幼いとは言え女。元男である俺としては、まだ慣れぬ体というわけで……。

「いやいやいや。まだだ。まだ幼女だ。男とそう変わらない。だから小さい時と同じにしていれば大丈夫だ。うん、まだ大丈夫だ。大丈夫大丈夫。まだまだ……」

 全裸は三度目だが、先の二回は色々とそれどころじゃなかったからまじまじと見ることはなかった。

 どうせ、年頃の異性の全裸を見ることなく死んだ男ですよ! 悪いか!

 誰に言い訳をするでもなく、内心で叫びながら俺は服を脱ぎ始めた。


「どう見ても……でかい、よな」

 着ていた服(奪った奴)を脱ぎ、浴場に入って俺は絶句した。一言で言えば、健康ランド。様々な種類の湯船があり、その全てに並々と温泉の湯が随時注がれている。

「木箱からお湯が出てる……これも魔法か?」

 お湯がずっと出続ける、簡単に持ち上げられる所から、置かれているだけらしい木箱に興味が湧くが、今は風呂だ。

「えーと。これがシャンプーか? こっちがリンス? ボディシャンプー? 洗顔料? 文字が読めねぇ」

 形から察することの出来るのは洗顔料だけ。

「……まぁ、別に死なねぇだろ」

 シャンプーとボディシャンプーは当てずっぽうで使い、全身を洗った後に緑色に濁った湯船に浸かる。

「薬草風呂か。じんわり暖かくなる……」

 そしてそのまま今後の事を考える。帝国からの追っ手から身を隠す為にも、姿は見えないようにローブか何かで隠して裏武闘会に出場するだろ。次は金だな。ファイトマネーが貰えるみたいだから問題もなさそうだ。知識もフェインから教えてもらうし、後は武術か? フェインに言ってその道の達人を紹介してもらうか。

「……よし。これから頑張るぞ!」

 今後の動きを決め、俺は気合を入れ直した。

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