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転生と脱走

 生まれて初めて見た世界は───

「うわぁ……」

 ───眩しく光り輝いていた。


 数時間前。

 俺こと羽島徹(はじまとおる)は、気づくと宇宙のような空間にいた。

 というか、何だここ。最後の記憶は家で眠りについたはずだけど……。

 最後の記憶を思い出していると、黒い霧のようなものが目の前に集まり、そして人型が出来上がった。

『やあ、初めましぶふっ』

「何だこの真っ黒い霧の固まり」

 バッサバッサと手で霧を蹴散らす。霧はまたすぐに戻っていくので負けじと手で蹴散らしていく。

 なんかだんだん面白くなってきたぞ。

『あの、ちょっやめ』

「面白いな。払ったらすぐに集まる」

『話っ大事な話があるからっ』

「さいですかー」

 霧の塊の言葉を無視して俺は手で霧を蹴散らし続けていく。

『も、もういいよ。分かった。我慢するからそのまま聞いてね』

 霧の塊が諦めたので、諦観した霧の塊を蹴散らしながら話を聞く事にした。

『こんなアグレッシブな人初めてだよ!』

「さいですかー」

 霧の塊は咳払いをして、居住まいを正すと真剣な口調で告げた。

『えーと、羽島徹さん。貴方は死にました』

「さいですかー……え?」

 一瞬、思考が止まるがすぐに我に返って霧の塊に一番気になる事を尋ねる。

「し、死因は?」

『急性脳膜下血腫だよ』

「マジか」

『マジ』

「……ふんっ!」

『ギャアアアア!?』

 霧の塊に全身ダイブをかまして散り散りにするという八つ当たりをして気持ちを落ち着かせる。

 霧の塊は悪くないのだろうが、まぁすぐ近くに居たし、別にいいだろう。

 犠牲となった霧の塊のおかげで気持ちが落ち着いてきたの心の中で感謝する。

「それで俺に何の用だよ」

『て、転生をと……次の生は異世界になるから、好きな種族に転生出来るから決めてくれたら幸いかなーって……どうかな』

「転生ねぇ。もしかしてあれか。お前のミスで死んだとかだったら吸うぞ」

 何をとは言わないけどな。ミスだったら本当にやる。やると言ったらやる……凄味が俺にはある!

『ないない!転生させるのも輪廻転生と言ってね。どんな生物でも死んだら転生させる決まりなんだよ!』

 俺の凄味に気づいたのか、それとも言葉から察したのか逆に疑うほどに必死に否定してきた霧の塊。

 なるほど……。つまりはこういう運命でしたっていう訳か。

 そう納得し、俺が霧の塊に確認を行う。

「どんな種族でもいいんだな?」

『え。うん。流石に神は無理だけど……』

 神なんて選ばねぇよ。めんどくさそうだし。

 とにかく神以外なら何でもいいそうなので、俺は思いっきった要望を口にした。

「ドラゴンだけじゃなく、色々な魔物の力を持った種族に転生させてくれよ」

 俺の願いを言うと、霧の塊は「分かった」と言ってどこからともなく本を取り出してパラパラと捲るととあるページで止まる。

『あ、ちょうどいいのがある』

「じゃあそれでいい」

『え?あー、うん』

 なんか妙に歯切れが悪いな。何か問題があるのか?

 そう思っていると霧の塊は誤魔化す様に次の話題に移す。

『じゃあ次にギフトについて説明するね』

「ギフト?」

『簡単に言えば特殊能力だね。キミが行く世界では「神様からの贈り物」って言われてるから「ギフト」だよ。これに関してはランダムだから、運がいいと強いのを貰えるかもね』

「ふーん。まぁランダムならいいや」

 別の俺は運が良くはないから、運が良くてもそれなりのものだろ。それよりも、だ。

「俺が行く世界ってのはどんなのなんだ?」

『再び生まれ落ちるんだから知識云々はファイト!』

「……」

 サムズアップする霧の塊がムカついたので手で霧を蹴散らす。

『ギャアアアアアアア!』

「知識云々は俺には教えられないんだな?」

『そ、そう! 記憶は引き継げるけど与える事は出来ないんだよ!』

「なるほどなー。じゃあもう終わりって事か」

『そうだね! だからもうバサバサしないで!』

「はいはい」

『あぁもう! 早く行っちゃってよ!』

 適当にはぐらかしながら霧の塊を蹴散らしていると、突然霧の塊が指を俺に向けてきた。

「お……お?」

 それと同時に強烈な眠気が襲って来て、ふらついてから尻餅をつく。

『うぅ……目が回って気持ち悪い……』

 目、どこだよ……。

 そんなことを思いながら、俺の意識は闇へと沈んでいった。


「────」

 ん……何だ?

「────!」

「───────!」

 なんか……騒がしい……。

 水中にでもいるのか、くぐもった声と水特有の音が耳を直接震わせて煩わしい。

 少しの間、それを我慢したがすぐに限界が来たのでゆっくりと目を開ける。

 目に入ってきたのは透明な黄色のフィルターがかかったような光景。何人もの白衣を着た男女が、俺と資料を交互に見ながら何かを言ってる。

「────!?」

「────!」

 水が排出される音がしたと思ったらフィルターが下へ下へと下がっていく。

「のわっ」

 完全に消えたと思ったら次は浮遊感。スロープを下って地面を転がる。その際に頭を打ったのは気にしない。

「うわわっ」

 白衣の男女が近づいてきて俺の目やらを見て頷いた。

「健康そのものです。完治したと見てよろしいかと」

「よし。次の実験を始める。準備の間は隔離棟に入れておけ」

 茶色いボロ布を投げ渡されたと思ったら白衣の連中が慌ただしく動き出す。

「あのー。聞いてます? おーい……ん?」

 色々と聞こうとして手を伸ばして気づく。

 俺の手、細すぎじゃね? 髪、細い上にピンクじゃん。

 そして目線を下に向けると、そこには成長途中の胸とアレがないという事実。……。

「女ぁああああ!?」

 女と慟哭する俺を無視し、連れて行かれた先の牢屋みたいな場所。

 すぐさま俺は引き継がれたであろう記憶を辿る。

 俺の体となったのはZ-19531。グレン帝国兵器開発部が開発した生物兵器バイオ・ウェポン。人間をベースにドラゴンやら何やらの様々な魔物を使って生み出されたらしい。

 さらに記憶を辿って行き、すぐにそれを後悔する。

 同じ生物兵器と戦い、殺していく日々。そのことに複雑な感情を抱いた体の元主は、徐々にだが心が壊れていき、遂には限界を超えて精神が死んだ。

 精神が死んで、肉体は徐々に死へと向かっていく。

 そんな状態の肉体に俺が入って、神様的な力で肉体を蘇生して今に至るという感じのようだ。

 それを理解すると俺はその場で寝転び、大きく息を吐いた。

「マジかー」

 俺、女になっちまったよ。そういえば、種族を決めた時にあの霧の塊が歯切れの悪い言い方をしてたな。こういう事か。

「今度会ったらボディプレスをしてやる」

 そう心に決めてからこれからのことを考える。

 今のままだと、生物兵器として生きることになるだろう。

 そんなのまっぴらごめんなので、俺は今するべきことを決めた。

「脱走しよう」

 思い立ったが吉日だからな。

 そうと決まればさっそく行動開始だ。

 牢屋をこじ開けーの、監視を掻い潜りーの、見つかりーの、追っ手現れーの、逃げーの、迷いーのと研究所を彷徨っているとその人物を偶然見つけた。

 俺がいた牢屋とは別の牢屋。

 その中に居るのは眼鏡をかけた20代の男性。

 この男性は研究所で働く研究員の1人で、この体に残っていた記憶で唯一と言っていい優しくしてくれていた人だ。

 男性は俺を見て「どうしたんだ?」と尋ねてきたので牢屋から逃げるまでの経緯を説明してみる。

「というわけで逃げて来たんだ」

「なるほど」

 途中で見つけたので、少し話をしようと思ったのだ。

「私に会いに来た理由はなにかな」

「偶然見つけたから、世話になっしお別れを言いに来た」

 遠くでけたたましいサイレンが鳴り響いている。もちろん、原因は俺。脱走したんだから当たり前だ。

 男性は笑みを浮かべ、爆弾発言をした。

「世話をするのは当たり前さ。私は生物学上では君の父親だからね」

「……はい?」

「私が研究に参加した理由は私が一目ぼれした今は亡き帝国の第三皇女様との子供が欲しかったからさ」

 え……えー……。

 俺がドン引きしていると父親───分類上は───は笑いながら俺を見る。

「君は第三皇女様によく似ている」

「ちょっと急用を思い出したのでここで失礼します。もう会うことはないと思いますがお元気で」

 父親の俺を見る目が異常で、身の危険を感じたので手早く挨拶をして別れを告げて逃げようとする。

「もう行くのかい? それは残念だ」

 そんな俺の心情を察したのか、父親は「そうだ」と思い出したように俺にいいことを教えてくれた。

「逃げるのなら左の奥に隠し通路があるからそこを抜けていくといい」

「ア、ハイ。ドウモアリガトウゴザイマス」

「後、君の名前はリリスだ。第三皇女様と同じ名前だ」

「ア、ハイ」

 いいことを教えてもらっても、その前と後の言葉で最早印象はマイナスになっている父親。

 正直、もう会いたくないと思いながら教えられた隠し通路を抜ける。

 どうやら非常用の隠し通路らしく、罠とかもなくそのまま真っ直ぐに外へと出られた。

「うわぁ……」

 そして俺は生まれて初めて───この世界では───見た世界は眩しく光り輝いていた。前世では見たことが無いほどに見渡す限りの草原に暖かく光る太陽。雲一つ無い青空。

 この体の持ち主だった生物兵器が見ることもなかったその光景に体は勝手に感動し、それが顔に現れる。

 俺は拳を握り締めて新しい世界へと一歩踏み出す。

「よし!」

 まずは遠くまで逃げる。後を考えるのはそれからだ!

 この世界の全てに期待を抱きながら、俺は全速力で研究所から逃げていった。

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