プロローグ
神様は退屈しました。
せっかく作った人間の世界も、最近は全然面白くありません。
ずる賢い人間、欲張りな人間、無気力な人間、無関心な人間、くだらない人間・・・
そう、くだらない人間ばかりで、おもしろい人間がほとんどいなくなってしまったのです。
神様は、ましな人間だけを残して、大洪水を起こして世界を新しくしようかと思いましたが、前に一度やって後悔したのでやめました。
神様がどこかにおもしろそうな人間はいないか、と下を見下ろすと、ちょうどもうすぐ死ぬ運命の人間が目に留まりました。
その人間は子供で、病気でした。
もうすぐ死ぬことがわかると、子供は死ぬまでにしたいことをノートに書き出しました。
どれも子供らしい、ありきたりなことでした。
でもその中に、貧しい人々一万人に食料を配る、というのがありました。
子供の親はそのことをインターネットで拡散し、多くの寄付とボランティアが集まりました。
結果、三万人を超える貧しい人々が食料をもらえました。
中にはそれに勇気づけられ、更生する人たちが出ました。
神様は、これだ!と思いました。
人々の心を動かしたものは何か。
それは子供の、分け隔てない、愛か。
いいや違う。
なぜなら、子供に死ぬ運命がなければ、そのようなことは起こりえなかったからです。
子供にその運命がなければ、子供はノートに落書きでもしていたでしょうし、親は拡散しなかったでしょうし、もし書いたとしても、人々は子供の戯言だと笑ったでしょう。
そう、死が、死が少年を動かし、多くの人々の良心を奮起させたのです。
さっそく神様は考え始めました。
どうすれば人間たちは自分たちの命を賭して世界を変えるか―――
そして神様は思いつきました。