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その8

「お疲れ様でした」


タイムカードを刺しさっさと退社する。


因みにお疲れ様は同じ立場の人間にでも使っていいらしい。ご苦労さまは上の人しか使ってはいけないらしい。日本語とは意味は同じなのに使っていい言葉が決まっていて面倒なものだな、と思いながらも自転車をこぐ。


「そろそろ梅雨か」


首にかけたヘッドホンから、九州が梅雨入りしたというニュースが流れてくる。


しかし、時間が経つのは早いものだ。神のようなものと出会ってから早一年も過ぎた。神様の仕事を請け負って丁度1年だろうか?


いやーしかしダンジョンが出来た以外にも中々に濃い一年だった、と振り返る。


ダンジョンを運営することになったのは勿論、新人を育成することになったりとか、その新人にやけに懐かれたりとか、結構大きな仕事の手伝いをしたりとか、ボーナスを珍しくほとんど使わなかったりとか。


そう思いながらも、マンション前まで続く長い坂を駆け上がる。


流石のボロボロ自転車である。歩いた方が速いと錯覚するほどの速度しか出ていない。


「電動、自転車でも、買おうかな!」


次に買う自転車を電動自転車にしよう、と心に決めながらいつもの長い坂を駆け上がる。


「ただいま」

「お帰り」


何故か最近神のようなものが住み着ている気がする。


違和感なく居座っている。堂々と、他人の家に。


「で、スナック菓子やめたらどうだ?」

「太らない体質、というか体形を操作できる体質なんだ。お前の欲情しそうな姿にでもなってやろうか?」

「無いわ」


最近なんか枯れて来た気がする上に、会社の後輩の影響で若干人間不信なんだ。半ばインポみたいなものである。


「つまらんな」

「詰まらん男ですまんかったな」


まだ飯を食うには早い時間なので、ダンジョンの様子を観察する。


こちらでの1秒はあちらでの1分となっている。こっちで一分経てばあちらでは1時間立ち、24分で一日が経過する。


「相変わらずこねぇなぁ」

「待ち始めてまだ一日だぞ?あっちで言うとまだ1年もたっていない」

「それでも流石に脱走者の一人ぐらいはいるだろ?」

「見つけられるか、たどり着けるか、という問題を忘れていないか?」

「魔境のモンスターってもっと強いと思ってました」


はぁぁぁ、と彼女は溜息をついた。


「あのなぁ。標高6000m、食料もほとんどない上に地表に居れば空中から丸見え、見つかったら死という状況でこんな場所まで登ってくる物好きなんてほぼおらんよ」


食料がない。空中から丸見え、脱走したと仮定すると、ここは確かに条件が悪すぎる。


「うぅむ。周囲の地形改善からやっていくか?」

「そうした方がいいだろう。だが、あんまりやり過ぎない方がいいぞ」

「そうだな」


あまりにもやり過ぎるとバレて攻略隊とか来るかもしれない。攻略隊とか来たら死である。コンティニュー権があるとしても、流石に無駄死には勘弁である。


「とりあえず周囲の木の成長でも促進させておこうか」

「そのあたりがいいだろう」

「時間は最高速だな」


毎秒3日の速度で進んでいく。しかし、一向に変化が訪れない。


「本当に補正かかってるよな?」

「多分あれだろう。成長する余地がないんだろう」


何年もたっているが、木の一本も生えてこない。それどころか景色は一切変化しない。


「冬しかないのか!ここは!」

「魔境について調べないでやったのか?」

「いやいや、歴史事典みてましたよ。ええ」


再度彼女は溜息を付く。


「魔境は季節が極端なんだ。いつも地獄のように熱い場所もあれば延々と雨の降り続けるところもある。電流が走る湖もある。ここが緩衝地帯の理由について、お前はなんといった?」

「7つの勢力に囲まれているから?」

「それもあるが、一番の理由は厳しい気候だ」

「お前それ出す前に言ってくれよ」

「聞かれなかったものでな」


どうやらここは、一切何も育たない気候らしい。夜は絶対零度、昼でも最高で摂氏-40度までしか上昇しないらしい。こりゃ無理だわ。


ここに逃避してくるぐらいなら別の連合行くわ。俺だってそうする。他の奴らも多分そうする。


「スライムって適応能力高いんだよな?」

「えぇまぁ。適応能力だけは随一だ」

「下位の方が適応能力高いんだよな?」

「まぁ進化の余地が残されているからな。そういう点では高いと言えるだろう」


よし、こうなったらヤケだ。


「見切り発車で成果出せずに権利だけ使いましたっていうのは流石に勘弁だ」

「まさかお前……」

「強制的に進化させる」


時間停止させ、内政モードに移行する。


スライムの召喚陣を中央の洞窟の中心に設置する。


そもそも進化とは何か?


生物が長い長い過程を経て姿を変える事を言う。そして、厳しい環境で育ったものほど凄まじい能力と生存能力を持つ。


「仲間の屍を超えて行け!」

「命は投げ捨てるものではない」


パソコンでDMPを常時召喚陣に供給するように設定する。


そして時間は再び動き出す。


スライムが召喚陣から出現した瞬間、凍結するのだ。粘体のような体が硬い氷に変わる。


それが大量に現れるのだ。凍ったスライムが数百、数千と詰みあがっていく。


「壮観だな」

「ああ、ここまでくるとな」


湧き水のようにボロボロとあふれ出るスライムの群れ。現状変化は一切ない。


「スライム破棄場でも作るか」

「自分で生み出して自分で殺して破棄するとかお前本当に人間か?」

「人間は自分勝手なんだよ」


このダンジョンは山の中にある。つまり、マグマが溜まっている場所があるという事だ。地図は表面しかとらえられない為、大体の予想を付けて、その場所につながる通路を作成する。


早くもダンジョンの中からスライムが溢れそうになっていたので、急いでスライムの位置を転移させる。


スライムは坂道となっている通路をゴロゴロと転がり落ち、マグマに溶けていく。


「悲しい(小並感)」

「一番悲しいのは無意味に殺されたスライムなんだよなぁ」


溢れ出すスライム。転がるスライム。溶けるスライム。


様々なスライムを見る事になる。


それに変化はなく、死んで、死んで、溶けて、溶けてを繰り返すだけだった。


凍死した後に融解して死ぬ。本当に残酷である。


ダンジョンのキルログは酷い事になっている。


キルログとは、生死の状況報告機能である。敵が死んだら緑で表示され、味方が死んだら赤で表示される。


現状真っ赤っかである。常にスライムの死亡報告が出ている。


それと同時に生存モンスターの一覧を表示しているのだが、いまだに俺の足元にいる、最初に召喚したスライムのみである。


「ちょっと飯食ってくる」

「ああ、私も行こう」

「お前飯食わなくても生きていられるんじゃないのか?」

「勿論そうだ。食事というのは娯楽だ。神にとってはな」


三大欲求の一つが娯楽となる神ってすげー。と改めて感心する。


カップラーメンを取り出し、ポットからお湯を注ぎ、上に皿を載せて3分間待つ。


「最近、人間の間ではインスタグラム、とか言うものが流行っているそうだが、お前はやらんのか?」

「そんなもんやらんよ」


テレビでも見て知識が入ってきたのだろうか?まぁ最近のニュースなんて、何処かの国でテロだのミサイル発射だの、物騒なニュースが多い中で、その次に多いのがインスタ映えとか言う意味不明な事だ。


「そもそも飯っていうのは作りたての時に食うのが一番なんだ。写真撮ってる暇があるのなら熱い飯を腹に突っ込むのが礼儀だろう」

「そうだな」

「そもそも自分の飯とかアップしてどれだけ自己主張したんだが。自尊心の塊かよと。俺はそう言いたいね。謙虚は美徳とか言われてた時期を思い出してほしいよ」


ぶつくさと最近の流行に文句を言いながらカップ麺を食べ始める。


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