その6
長々しい講義が終わるころには考えが若干変化していた。
スキルは多様でありその中には罠を見破る物もあるらしい。で、落とし穴などはすぐに見破られる、と聞いた。
つまり、もう一工夫しないと余程マヌケじゃない限り罠にはかかってくれないという事だ。罠、罠か。
「探知されるのは魔力で設置した罠だけか?」
「うぅむ。罠の種類による、としか言いようがないな」
罠の種類による、と言う事は探知手段は複数あるという事か。
「例えば、落とし穴の場合は、基本的に三つで探知できる。魔力検知、空間検知、罠検知だ。魔力検知だが、これは魔力が発生している部分をマーキングするようにして探知するスキルだ。マーキングの強度は露呈している魔力量による。微量ならばほんのりと光っている気がするだけだが、お前が使っている落とし穴の場合だとペンキをぶちまけたように目立つぞ。
空間検知は、空間が開いていれば大体反応する。洞窟探索とかに使われているが、落とし穴の場合はどんなものでも探知されるから落とし穴の場合これを持っている奴が一人いるだけでまず引っかからない。ただし、検知できる罠が少なすぎるのが欠点だ。落とし穴程度にしか適用されないしな。
最後の罠検知だが、これはどうしようもないとしか言いようがない。検知するのは悪意を持って設置されたこちらを殺傷しうる設置物及び現象全てだ」
「最後はやけに強力だが先天性か?」
「後天性でも習得できるが基本先天性だ。持っている奴はそこそこいる。まぁ罠主体のダンジョンはこれを持っている奴が一人いるだけで詰んだりする」
ふむ。罠を主力にしすぎてはいけないという事か。
「そういえば絶対避けられない罠とかはどうなんだ?」
「ふむ。では君は、毒ガスの充満する部屋に入りたいと思うかね?」
「なるほど」
明らかに結果が分かっていて、そこに救いがない事を理解して入っていく奴はいない。たとえその中に財宝が見えていたとしても。
「人間側に少しは希望を見せなければいけない訳か」
「リスクに伴う報酬が必要だ。それをいかに魅力的に見せるかだ。人間の欲の煽り方ならば、君はよくわかっているだろう?」
「ああ。報酬は分かりやすい方がいい。万人に価値があるような」
「金塊などが最たる例だろう。あんなものよりも鉄の方が重要性が高いというのに、人間と言うのは光っているものに目がないからな」
人間というのは9割欲望で出来ている。七つの大罪とかが有名である。あんなもの誰でも持っている。それにどれだけ忠実であるかが問題なのである。7つの大罪をなくしてしまったら、人間と言うのはそこらのアリと変わらん。欲と言うのは感情だ。
人間は常に傲慢でなければならないし、怠惰の感情を持っていなければならない。虚飾をすることは勿論あるし、憤怒を表す事は重要だ。強欲にものを求めるのが人間であるし、色欲と暴食に溺れるのが最終的に辿り着く人間の最高の快楽である。
「で、報酬は決まったのか?」
「報酬は用意しないスタイルで行く」
「は?」
「魔境にダンジョンを設置する。報酬はいらんだろう?」
「……本気か?」
「ああ、勿論」
最悪、一瞬で消される可能性も否めない、が、当たればデカい。つまり博打だ。
「俺は、今、他の奴にはない特権をいくつか持ってるよな?」
「ああ、そうだな」
様々な特権がある。まぁ神様の仕事を手伝ってたら押し付けられたのだが。
「その中に、位置再設定権と、コンティニュー権があったよな?」
「待て、後者は知らんぞ」
「あ、昨日メールで押し付けられた」
「なるほど」
神様の仕事を手伝っていると中々に優遇してくれる。何か要求してくれとの要求がうるさかったから適当にちょっと優遇してくださいって言ったら大体一週間に一回くらい便利な権利をくれるようになった。
「そういえば、俺の仕事ってどれくらい重要なものなの?」
「うん?例えば昨日やっていた仕事だが、あれは意外と正式な書類でな。今日の神様たちの会議に使われているぞ」
「かなり重要な気がするんだが」
ダンジョンを少々手直ししながら話を聞く。
「魔境にダンジョンを出すんだよな?」
「ああ」
「場所は決めているのか?」
「勿論だ」
地図を表示し、ポイントを出す。
「ここだ」
マウスのポインタが指した地点は、魔境の中心あたりに存在する、標高6000m超えの山々が連なる山脈の一部だった。
「何故ここに?」
「まず、ちょっと歴史の復習だ。魔境は様々な種類の強大なモンスターが蔓延っている。それらは、一見何もないように見えて実は同盟のようなものを組んでいる。まぁ独立保証のようなものだ。喧嘩を売られたら一緒に戦うからお前も俺が喧嘩してるとき助けに来いという感じ。
で、それは地味に対立しているところもある。俺の選んだ山脈は7つの同盟に囲まれていると想定されている。つまり緩衝地帯だ。そこで俺はここにダンジョンを作ることで、同盟に居られなくなって追い出された、または出て来たモンスターをここで保護、雇用する。そして十分な戦力を保持出来た時点で別の場所に転移する」
「なるほど。中々に考えているな」
「最悪コンティニュー出来るからな。大胆に行く」
「いいんじゃないか?」
ダンジョンの構造は、最初は大きな空洞になっている。これは何故かと言うと、魔境で保護をするためである。最初から罠なんてかかったら保護されようなんて思わないから、最初は只の空洞に見せかける。
おそらく現れるモンスターは、何処かに身を隠したいと考えるはずだ。そしてどこか隠れやすくて、見つかりにくい場所を探すはずである。
そして、微妙に見つかりずらい位置にこの空洞を発見する。
するとこの空洞の中に入ってくるだろう。俺だったらそうする。誰も手を付けられない緩衝地帯にこんな都合のいい地形があったら疑う前にまず入ってみるだろう。
一匹でもいい。仲間に出来たら御の字だ。
空洞の大きさは結構大きく設定してある。だが、周囲は6000m以上の山が連なっている山脈地帯である。身を隠すには最適であろう。
「さて、設置と」
「おお!やっとか」
他の奴らと一年程遅れてダンジョンが始動する。
「なんだか感慨深いなぁ」
「こっちはやっと心労から解放されると思うともう…」
なんだか凄く安堵した表情を浮かべている。どれだけ神様相手に頑張っていたのだろうか?
「さて、あとは待つのを続けるか。とりあえず俺は外に出てみるわ」
「やめておいた方がいいぞ」
一転表情を切り替え注意をしてくる。
「ここはかなりヤバい環境だ。人間なら一時間どころか一分も持たずに凍死するレベルでな」
「俺って死なない体質なんだろ?」
「まぁ死にはしないが、雪で押しつぶされるか氷像になるかの二択だろうな」
「生き地獄じゃないですかやだー」
「だから出るのをやめろと」
「もうちょっと鍛えてからにするか」
「出る事自体は諦めないんだな」
「まぁな」
魔法の練習はかかさず行っているのでそこそこのレベルにはなってきている。
具体的には火の玉は野球ボール程度からバランスボールレベルにはなった。
「お前も中々に魔法をあきらめないよなぁ」
「そりゃ夢ですから」
「じゃあ魔法の才能でも貰ったらどうだ?」
「自分の力じゃないとなんか納得できない。あと自分でやった方が格好いいと思うんだ」
「まぁそりゃそうか」
才能に甘んじて手に入れるよりも、自分で努力した方が自信が持てるし、何よりも自分のモチベーションが持続する。モチベーションというのは重要だ。
モチベーションが維持できなければ努力ができなくなるからな。