その4
歴史の整理、まずは少ない物からスタートだ。
まずは大陸4、謎の大陸を重点的に調べる。
地図を作る段階である程度目を通したが、いつでも確認できる表を作っておいた方が便利である。地図作る前にやっておけばよかった、とも思ったが、地図を作る前にやると、どの場所でどんな事が起こったかが分かりずらくなり頭がこんがらがる事を思い出したので、これで良いのだと自分の後悔を打ち消す。
大陸4についての初の記述が出てくるのは3冊目からである。
3冊目の中間あたりから、やっと記述が出てくる。
『第4の大陸にて、■■■村と■■■■村にて抗争が発生、死者2万3241名を記録する。うち殴殺1万2034名、刺殺6802名、その他にて残6205名死亡』
この歴史事典メインの殺され方とかが乗ってるからどんな戦争かが予想出来るから便利である。
ここから、第4大陸の歴史が始まっている。
以前の歴史などは一切ないのが非常に不可解である。
そもそもこの歴史事典は一体どのような条件で記載されているのかが分からない。
明らかに何かがあったであろう空白期間が開いている部分がいくつもあるし、歴史が書いてあるのが地球でいう文字が発明されたころからである。
もしかしたら人間が記録した歴史しか載っていないのだろうか?
そんな事を考えながら歴史の事典から情報をピックアップしデータ上に書き記して行く。
第4大陸の記述量は比較的多くはなく、思ったよりも作業は簡単に進んだ。
三日程度でデータ上に打ちこむ作業は終了した。
それから一日程度で時系列順に整理し、完成したものをプリントアウトして神への質問用紙に括り付ける。
何故こんなことをしているか、と言うと神のようなものからの仕事、というか課題である。
パソコンをわざわざつけてやってそれを使えるようにしてやってるんだからなんか成果見せろ、と言う事で地図を作製したり歴史をまとめたりして提出しているのだ。
まぁそれなりの報酬は貰っているので問題はない。例えば、歴史を提出した場合はその大陸の言語の事典が配置される。さらにこの言語の事典はどうやら変な魔法がかかっているらしく、軽く目を通しただけで簡単にその言語が話せるようになる。
明らかにおかしい。俺の英語の勉強は一体なんだったのだろうか?
こんな便利な魔法があるのならばしっかりと覚えたいものである。
そして、俺はやはり夢をあきらめられず魔法の練習をしている。
前語った魔法の説明に追記をすると、魔法はいくつも無条件に唱えられるというわけではない。
唱える事自体は赤子だろうが出来るのだ。発声さえすることが出来ればという前提があるが。
空気中の魔力を使った場合、空気でいうと真空状態となる。つまり、一気にそこに流れ込むのだ。魔力が。
そしてその魔力は何処から来るのか?勿論周囲からである。
当然のように周囲の人間からも徴収される。そして最も徴収されるのは、大体の場合消費の中心にいる魔法使いである。
つまり、消費した魔力の何分の一、もしくは何十分の一かを持って行かれるのだ。本人の魔力がなければこの時点で枯渇して死亡、最低失神する。
魔力とは一種の生命エネルギーなのだからすっからからんになればそれは死ぬだろう。
「なんともまぁ恐ろしい事だよなぁ」
そういいながら失神するまで魔法を使う練習をする。
何故か?
そりゃ使えるようになりたいからである。全人類、全中二病患者の夢である。
野球ボール程度の火の玉は出るようになった。水はバケツ一杯分。その程度である。
しかし、筋トレだろうが仕事だろうが、こうして継続することが最も重要なのである。
継続は力なり、これは事実を通り越して真理である。
20分くらいで大体失神する。これは筋トレと違い、一日期間を置いたりとかしなくても成長するらしいので、毎日ぶっ倒れるまでやる。勿論その日の仕事が終了してからであるけれども。
因みに現代日本では魔力が一部の場所を除き一切存在していないため覚えていても大して意味はない。陰陽術は基本的に自分自身の魔力を使っていると思われる。
魔法陣の一種だが、媒体は紙で、筆と墨に魔力が宿っていると思われる。
まぁそれは置いておこう。関係のない事だ。
で、20分後ぐらいに予定通り失神する。
勿論ベッドの上で行っているため、頭を打つことなどはない。安全を徹底したうえでの失神だ。
意味分からんな。
だがまぁ人類の夢をかなえるためだ。日本だって自分の体を使った人体実験は禁止していないし問題ないだろう。
意識がブッツリと切れる。
目覚めると、何故かまた白い部屋にいた。
「神のようなものさんお久しぶりですね」
「実に一か月ぶりだな。おおよそだが」
相変わらず男みたいな喋り方をする女である。
「で、歴史とかの資料をまとめてくれ、と言ったが、それについてちょっと要求があるんだ」
「ふむ、要求、と言う事は切羽詰まった事態でも?」
「いや、そういう事ではない。上司にちょっと見せてみたらそいつに仕事押し付けろ、と言われてね」
「少しは取り繕え」
素が出てしまった。
「で、それがこれだな」
ドサッと書類の束が目の前に置かれる。
綺麗な木製のテーブルが台無しだよ。なんで仕事やらなきゃいけないんだ。
「拒否は」
「無理だな」
Oh……Jesus
「まぁそれなりに報酬出すらしいし、いいんじゃあないか?神様が直々に報酬を出すらしいからな。そこそこ期待できるぞ」
「人間には過ぎたものでしょ。確実に」
「神の9割9分は自分勝手で出来ているといっても過言ではないからな」
「それ自分にも当てはまるんじゃないか?」
「ははは、私は残りの1分に当てはまるはずだ」
そういうところが9割9分に当てはまりそうだというんだ。
自分をほめる事をする奴は大体そこまで悪い奴ではないが、いい奴ではない事も多い。友人としては接しやすい奴である。
「ふむ、で報酬とかってもう決まってたりします?」
「いや、まだだな。仕事が終わったら追加で1枚プリントでも括り付けてそれに要求書いて送ればいいだろう。あんまりのものでなければ叶えてくれるはずだ」
ふむ。まぁ対価要求するのも何だし、要求しないでやるか。そっちの方が恩売れる気がするし。
そもそもドツボに嵌って断れなくなることがまずいからな。もともと断れないが、一度対価を要求してしまえばそのままズブズブと依存していく気がするし。
「とりあえず期限を教えていただければそれまでには仕上げますが」
「1週間だそうだ」
一週間。まぁ簡単である。それどころか4日で仕上げられる。いつもの作業にちょいプラスしてやるだけで終わる量である。うちの会社ではこの寮は一日かそれ以下で終わらせる。ブラックではないがグレーっぽい会社である。給金がそこまで悪くないのが救いか。
しっかりと手当でるし。まぁ仕事量が多いだけである。
「それでは、また」
「ああ、またな」
椅子から立ち上がり、壁とほぼ同化している扉を開け、退室する。
それと同時に意識が覚醒する。
周囲を見渡すと、いつもの石室であった。ひんやりとして空気が身に染みる。時間を確認すると、相変わらず来た時と変わらない時刻を指していた。
まだ時間は動かないし、動かさない。
その時ではない、と言うと悪役っぽいが、やることが残っている。やることを終わらせてから、だ。ゲームの時間が始まるのはな。
そう言い聞かせ、鉄のドアを開け、現代日本に帰る。そして、いつも通りのスーツに着替え、いつも通りの時刻に出社する。ダンジョンに行ってからもこの生活リズムは一向に狂う事はない。
その10くらいまでダンジョンはないかな?