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その9

リアル時間で一週間程立ったある日、ダンジョンに変化が訪れた。


「おい、モンスターが生存しているぞ」

「マジ?」

「マジマジ。一匹だけだがな」


ようやく、進化させようとしてきた成果が実ったかな?


早速PCを起動させ、ダンジョンを確認する。


「お、確かにいるな」

「ああ、そうだろう」

「でもさぁ、思ってたのと違うんだよね」


氷への耐性を付けてほしかったのに、出てきたのは、マグマエンペラーである。


マグマ。つまり処分したスライムがマグマに適応したのである。


「マグマに適応するのと極寒に適応するのだったら後者の方が簡単だと思うんだけどなぁ」

「私もそう思ってたんだがな」


そのスライムを試しにこの部屋に転移させてみる。


「ぬお!?」

「でかいな」


全高5mはありそうな巨体である。横幅はさらに広い。


粘体は全て溶岩みたいな物質に置き換わっており、ボコボコと泡立っている。


天井に着きそうである。


「とりあえず正面にさらしてみるか」

「やってみろ」


マグマエンペラーを正面に転移させる。


すると、周囲の雪が解け始める。


「というかこれってステータスって確認できたっけ?」

「出来ただろう。機能多すぎて忘れているんじゃないか?」


ステータスの確認方法を思い出し、確認してみる。


種族:マグマエンペラー lv1

HP:??? MP:???

攻撃 ???

防御 ???

俊敏 ???

魔力 ???


スキル

山神:EX

とある山の最上位に位置する存在。その山での戦闘全てに補正がかかる。

燃える焔の凝塊EX:EX!?!?!?

体が燃えている。炎を使う攻撃の威力が爆発する。


状態:従属 発熱(小)


従属してくれてたんだな……このステータス的にいつでも拘束ぶち抜けそうだが。


「というかお前、この山でこいつより下なの?」

「いや、私は次元が違うからな。判定に入っていないだけだ。人間で徒競走をするというのにマッハの戦闘機がいても話にならんだろう?」


次元が違う、そういうのもあるのか。


「なるほど。というか質問いいか?」

「なんだ?」

「従属ってあるが、これって大丈夫なのか?」

「大丈夫じゃないな。いつでも拘束打ち破れるぞ」


不味いですよ!とりあえず出来たはいいも制御できなくてぶっ殺されるなんて起きたら笑いものにもならん!


「無計画なんだな。思ったよりも」

「想定外の事態が多いと言ってくれ」

「そもそも、魔境でモンスターを進化させたらこうなると理解できなかったのか?」

「もうちょっと制御できそうなものになると思ってました」

「甘いぞ」

「はい。深く反省しております」


「で、問題がさらに発生している事に気づいているか?」

「えぇまぁ。ing系で発生してますね」


マグマエンペラーを外に出したことで、氷が解け始めた。問題はそれにより進化し始めた事だ。


次々と復活したスライムが様々な形に進化している。


この世界の進化は魔力を吸収して行われる。魔境は魔力濃度が異常。つまりすぐに進化を始めるのは自明の理だ。


「何故貴様はそんな事にも気づかんのだ?」

「寝起きって辛いよね?」

「知らんよ。そんな事は」

「とりあえず時間止めたらどうだ?」

「そうだな」


時間の停止を行い、とりあえずこの後どうするかを考える。


「これ、どうにかしなきゃいかんよな」

「勿論。立場上ほぼイエスマンに徹してきたが、これは不味いぞ。いやマジで」


スライムは知性が存在していない。本能で行動している事が救いであろうか?

何らかのストレスを感じなければ反逆を起こす可能性も少ないだろうが、反逆を起こされた場合一切抵抗できないというのは本当に怖い。


常に腹にナイフを当てられながら生活しているようなものだ。怖くて夜も眠れやしない。


「で、解決策ってぶっちゃけある?」

「厳しいかなぁ。強いて言うならストレスを与えないようにすることぐらいか?」


本能で行動しているというのは扱いやすいと言えば扱いやすいが、制御しにくいのも難点である。これならば中途半端に理性と知性を持っていた方が扱いやすいであろう。


「とりあえずスライムの召喚陣は消去するか。これ以上増えても困るし」

「そうするといいだろうな。もう手遅れ気味な気もするが」


手遅れだろうが、やらないよりはマシであろう。


「とりあえずダンジョン内の罠を全部取り除こう」

「万が一発動して敵対されたら勝ち目ないしな」


俺の魔法は地道に成長しているが、地道すぎて普通なら萎えるレベルである。チート能力とか無いんだよなぁ。強いて言うならコネ?まぁそのコネも不確定すぎる訳だが。


ダンジョンで構築した罠を全て取り外し、床を平地にして、全体的に通路を広げる。可能な限りストレスを感じない環境を制作していく。


「そういやスライムって餌とかいるの?」

「一応いるぞ?大体草とかで十分だが」

「その草さえ育たないんですが」

「問題はそこだよなぁ」


スライムの御機嫌取りを本気で考えなければいけないというのは本当に悲しい。何が悲しくて粘体生物がいかに快適に過ごせるかを考えなければならないのか。


「そういや、暖房とかないのか?それか寒さの中でも育つ草とか」

「一応あるにはあるが、流石にこのレベルの寒さに対抗できるものはないぞ?」


うぅむ。さっさと餌を見つけなければ、


「そうだ。土に栄養促進とかかけまくれば草も進化するんじゃね?」

「するだろうが……まぁいい」

「このまま反逆されるよりはマシじゃね?」


飯を与えないで放置なんてしていたら絶対に反逆されるだろう。生活を保障すれば可能性は減る。可能性が減るというのは大事だ。0にはおそらくならないだろうが。


「それはそうだが…まぁ最終決定はお前がすることだ」

「場当たり的な対処は現状を悪くする可能性が高い事は分かるが、今回は場当たり的な対処しかできないのが悲しいな」


おそらく進化した草を食べれば、こいつらはおそらくさらに強大化する。それは勿論制御は出来ない。それを分かっていてもやらなければいけない。どんどん制御不能へ向かう恐ろしさよ。


「はぁぁぁ」


DMPの残量がさらに少なくなる。スライムを召喚し続けた影響でただでさえ少なかったDMPはもう底をつきそうである。


とりあえず一つの部屋を食料用の草を生やす、牧草場にする。


土には大量の栄養促進をかけておく。


室温は氷点下だが、まぁ育つ事を祈ろう。


スライムたちを食料用の部屋に移動させ、時間停止を解除する。


「相変わらず進化が凄まじいな」


様々な色のスライムが大量に蔓延っているのをみると若干気分が悪くなる。


ログを確認してみたら、スライムは計130体程であった。


ほとんどはビッグアイススライムである。種族名が若干適当だろう、と思うが、ぶっちゃけ区別がしやすく分けただけであろう。


「お、草は生えるんだな」


マグマエンペラーで気温が上昇しているのか、恐ろしい勢いで草が伸び始める土の床だが、ほとんど奴はそれを食おうとしない。


「どういうことだ?」

「何のためのモンスター事典だ。調べればいいだろう」


若干混乱しているようだ。調べる、という選択肢が頭の中から抜け落ちていた。


本棚の中からモンスター事典を取り出す。因みにPCの中に入れようとも思ったが、どうやら魔法で更新されるらしく、一々手動で更新をするのも面倒なので入力していない。


で、調べていると、スライムは雑食のものも多いが、基本的には自分に一番合ったものを捕食するらしい。最悪共食いをするそうだ。


マグマエンペラーの場合はマグマを食べ、アイススライム系は雪や氷を捕食するようだ。


つまり、アイス系は外に置いておけば、勝手に食うという事らしい。


「マグマエンペラーは適当に元の処分場に置いておくか。


処分場の床の斜めの部分をいくらか削減し、平らな部分を作成し、そこにマグマエンペラーを放り込んでおく。作る前に調べておけばよかったと後悔するが、もう遅い。

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