得意技は不意打ちです。
ぴりぴりと肌を刺す緊張感。
つぶしとはいえ、各々獲物を携えての試合は訓練ではまだやったことはない。
バックラーを握る手が汗ばんで不快だ。
立会人の号令からにらみ合うこと数秒、先に動いたのは私だった。
小柄な体格からさらに姿勢を低く駆け出し、すれ違うように短剣でわき腹を打つ。
クレイブはそれを察知してか横なぎに剣を振りながら私と距離をとる。
近接武器に対しては有効だが、少しばかり遅い。
逃げる足のふくらはぎを私のかかとでひっかけるようにしてクレイブの体勢を崩す。
クレイブは一瞬驚いたようだが、傾く体を己の筋力のみで立て直し飛び退った。
さすがに鍛えているだけあって、そう簡単にはいかないようだ。
「どうした、この程度か」
「あなたこそ、あてに来てないじゃないですか」
「レディーファーストといったところだ」
「お気遣い、いたみ入りますね」
ふっと強者特有の笑いの後、クレイブが姿勢を整えた。
次安易に近づけば、手痛い反撃が来る。
私は逆に体に入っていた力をすべて抜き、ごく普通に突っ立った。
クレイブから見れば無防備であり、彼を馬鹿にしているように見えるだろう。
表情が憤怒に染まり、真正面から切り込んできた。
バックラーを捨て、ぎりぎりまで引き付けてから短剣をクレイブの眉間に向けて投擲する。
もちろん、それは腕の一振りで薙ぎ払われ、無効。
「ぐっ…」
膝をついたのはクレイブだった。
「な、にが…」
状況がわからないものの、胸部を強打されたことによる呼吸困難により目を白黒させて、それでも私に問いかける。
私は左手に持った20センチほどの暗器―警棒―をふるい、クレイブののど元に突きつけ、立会人をにらんだ。
呆然としている立会人も、何が起きたのか正確に把握は出来ていないらしい。
「立会人、これでもまだ継続するというなら、彼の顔面が崩壊するまで殴りますが。」
「やめ! ルリの勝利とする!」
立会人の宣言をもって、試合は終了。
警棒を仕込んでいた背中に戻し、しびれを訴える左手首をさする。
もちろん、これも学園支給の武器だが、本来の用途を無視して暗器として使った。
呼吸が整ったのか、胡坐で座り込むという随分な格好でクレイブはいた。
「硬すぎるんですよ、この筋肉バカ。」
「はははっ、酷い言われ様だな。顔の前に腕を振るった一瞬で暗器を取り出し強打するとは、そんな戦い方は今まで見たこともないな!」
「これは、騎士の戦い方としては反則でしょう? まぁ、正攻法であなたと力比べなんてバカな真似はするつもりもありませんので。」
「負けた俺が弱かったのだ。ルリ殿、あなたは強いな。」
「嫌味ですか、あれが決まらなかったら私の負けでしたよ。」
「皇子の権力によってコネ入学した無能、という噂もあったが、やはり噂はあてにならないな。」
「化け物の次は無能…この学園にはまともな情報は流れていないと思うことにします。」
ため息をついて吐き捨てれば、クレイブも苦笑いでうなずいた。
彼だってまだ学園で庇護される子供だ。噂に左右されたとしても、改めればいいのだ。